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かなり酷いDLEの粉飾決算

2019.02.18 カテゴリ: 会計・税務会計不正会計監査

1.DLEの粉飾決算発覚

 2018年の9月に映像コンテンツ制作・企画企業であるDLEで不適正な会計処理が行われているということで第三者委員会が設置されました。
同年11月に第三者委員会の報告書が提出されるとともに大幅な過去の決算書の遡及修正が行われました。そして、今年の2月13日においては証券取引等監視委員会による課徴金命令の勧告が出されました。第三者委員会の報告にさっと目を通したのですが内容的に会計上の解釈の問題がある取引というよりも組織的に利益をかさ上げした明らかな粉飾であるといえるでしょう。

 やや余談ですが、この調査委員会委員は4人ですが調査補助専門要員は40人を超えてインタビュ―だけでなく、証拠書類閲覧、デジタルフォレンジック調査(メール等の電子データを復刻調査)まで及んでいます。簡単な比較はできませんが、中小企業の不正調査でこれだけリソースが必要なのに、国の根幹を揺るがず統計不正に関しての要員及び調査手法の貧弱さがよくわかると思います。

 ここでは会計上の粉飾の細かいテクニックについてはあまり述べず、これを生み出した背景について考えてみます。

2.どんな粉飾だったか

 私も経験がありますがこういったクリエイティブな業界というのは狭い世界であるのでお互いの信頼や口頭でのやりとりで様々な取引が進められる傾向があります。これ自体は否定しませんが、上場企業ではきちんとした会計処理を行わなければ投資家等利害関係者に迷惑をかけますからそのようなことは許されないはずです。あくまでも第三者委員会報告を読んでの感覚にすぎませんが、それをCFO経営管理部長であったB氏が悪用したように見えます。

 映像の制作においては資金調達、テレビ、制作、広告といった関係者が製作委員会といった民法上の組合を組成し、映像制作プロジェクトを進めていきますがDLEはこういった制作における企画やプロジェクトマネジメント的な業務をしていました。大きく問題になってるのはここでの企画における企画報酬です。簡単にいうとDLEが行っていたのは、この企画料をまだこのプロジェクト自体が本当に関係者が正式な契約を結んでスタートする前の段階で収益として計上してしていたということです。これ自体問題ではありますが実際にプロジェクトが動き出すのでしたら期間帰属の問題でいつかは収益として計上はされるべきものです。しかし、当然企画自体かなりあいまいなものもあったので計上した後、プロジェクトがとん挫するものが出てくるわけです。その場合は、その収益は他の新しいプロジェクトに付け替えたりしてごまかしてきたようです。その他、逆に認識しなければならない費用を繰り延べるなどオーソドックスな粉飾の手口も駆使していました。

 第三者委員会報告を読む限りかなり意図的な利益操作であり、単なる不適正会計ではなく明らかな粉飾決算であるように見えます。そして、残念なことに公認会計士でもあり、大手監査法人の監査の弱点を知り尽くしているB氏がそれを巧みに用いた感が強いです。マスコミの常として親子とともに起業した創業者の椎木氏をバッシングする声は強いですが、報告書を読む限りCFO主導の印象は強いです。

3.この粉飾の背景

 CFOに経営管理を任せきりであった椎木氏の責任はないとは言えませんが、公認会計士でもあるCFOに対して会計処理、しかもこの業界なようにあいまいな慣行がまかり通っているところで疑義を差しはさむのは難しかったと思われます。私の偏見かもしれませんが、急成長をしているベンチャーにおいて守りともいうべき財務会計や内部統制、コンプライアンスというのは軽視されがちです。本来はCFO特に公認会計士出身のCFOというのはそのような傾向に対し身を挺して抵抗すべきとは思うのですが、このケースのように推進役となってしまうと暴走状態になってしまいます。

 この会社の問題点として基幹のプロジェクト管理システムにおいて経営管理部のメンバーはスーパーユーザー権限を持っていたことが挙げられています。内部統制としてデータの改ざんが経営管理部の人間であればだれでもできる状態にあってそしてそれを統括しているCFOが改ざんを主導しているのであれば統制が働かない典型的案件であったと思われます。

4.監査法人はなぜ粉飾を見つけられないか?

 この第三者報告を読むと監査法人の責任はほぼ言及されていません。私も現在の上場会社の監査実務に精通しているわけではなく若手会計士の愚痴やクライアント先での監査法人の働きぶりなどを見て感じたことにすぎませんが、「現状の監査手続きの下では」このような粉飾決算を見つけられなくても仕方ないと思います。あくまでも私の過去の経験ですが、クライアントにおいて疑義のある取引を見かけた場合は徹底的に解明することが求められましたし、そうでないと上司に叱責されかつ監査人としての資質が欠けているとさえ評価されました。しかし、現在は異なります。

 若手会計士が言うには現在の監査は「決められた手続きを決められた件数、決められた時間で処理する」ことが求められ現場の裁量はほとんどないとこぼしていました。第三者報告で見え隠れするのが、収益計上を監査人に説明するための証憑(証拠資料)集めにCFOが先導して行っていて、監査人は証憑と突合して収益の計上を認めていたといったことです。「チェックする内容も統計的サンプルでとにかく数多く抽出するので一つ一つ深く見ている間はなく、何かしら証拠書類が見つかればそれでよしとしてしまうんですよ」とある若手会計士がこぼしていたのを思い出しました。要するに現在の監査の中心は「必要な監査手続きはしました」という監査人自体の証拠を残す事であって、「本来自分が会計士として必要だと思う監査手続きを行う」ことではないということです。

 このような体制ではとりあえず「必要な監査手続きをやった」という表面的な面だけが重視され、実質的な部分はあまり省みられません。金融庁の検査なども細かい手続きをやった記載がない等の重箱の隅をつつくような指摘が多く、これに拍車をかけているとある会計士は愚痴っていました。役所が介入してチェックを始めるとどんどん形式主義になってきて本質的なことは全く省みられないというのは、役所自体が常に酷い不祥事を起こしているのをみれば明らかだと思われます。

 今回のケースも監査法人自体はおそらく責任は追及されないでしょうし、一つの営利企業としては効率と利益を考えて現状のやり方は正しいでしょう。しかし、こういった行為が次第に公認会計士に対する信頼感をむしばみ、業界を徐々に衰退に向かわせていることは認識してほしいと思います。

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