なぜニデックで広範囲の会計問題が起きたのか? 急成長企業に潜む「ガバナンスの死角」
2026.03.19

2026年3月、ニデックの第三者委員会報告書が公表されました。
その内容は、日本を代表するグローバル企業としてはかなり衝撃的なものでした。複数拠点で長期間にわたる会計不正や誤謬が確認され、2025年度第1四半期末の連結純資産への影響は約1,397億円のマイナスと暫定的に算定されています。
棚卸資産の評価、減損回避、補助金処理など、複数の会計処理が問題となり、グループの広い範囲で発生していたことも明らかになりました。
多くの人が疑問に思うのは次の点でしょう。なぜここまで広範囲の問題が起きたのか。そしてもう一つ重要な問いがあります。これはニデック特有の問題なのか、それとも企業経営に共通する構造なのか。今回はこの問題を、経営とガバナンスの視点から考えてみたいと思います。
目次
1.急成長企業という構造
まず前提として、ニデックという企業の成長の仕方はかなり特徴的です。1973年に永守重信氏が創業し、小型モーター事業からスタートしました。その後、積極的なM&Aによって事業領域を拡大し、現在では車載・家電・産業機器などを手がける巨大企業グループとなっています。
グループ会社は2025年9月時点で354社に上ります。この規模になると、経営管理の難易度は一気に上がるといえます。特にM&Aで拡大してきた企業には共通する問題があります。それは、企業は買えるが、文化や統制は簡単には買えないということです。
買収によって売上や技術は手に入りますが、内部統制や特に文化まで短期間で統一することは容易ではありません。特に海外企業が多い場合、その難易度はさらに高くなります。
2. 収益プレッシャーは世界共通
ただし今回の問題を、ニデックや日本企業特有の問題と単純に片付けることもできません。企業という組織は世界中どこでも利益を最大化する方向に動きます。株主や投資家は企業に成長・ 利益を求めます。その結果、企業には必然的に収益プレッシャーが生まれます。むしろ欧米企業の方が、この利益重視の姿勢は強いと言えるかもしれません。
企業経営では通常、売上や利益などの事業計画が立てられます。そして実務ではKPIをモニターする、未達の兆候を早期に把握する、必要な対策を打つといったマネジメントが行われます。これは当然のことであり、むしろ優れた企業ほどこうした管理は徹底されています。
つまり、「計画通りの数字を出す」こと自体は、決して間違ったことではありませし、底にはある程度のプレッシャーはあって当然でしょう。しかし、ここに一つの現実があります。どれだけ努力しても、計画通りにいかないことは普通にあるということです。市場環境の変化、需要の変動、為替、競争、企業の外部環境は常に変化しています。それでも組織が「計画は必ず達成されないとダメ」という前提で動き始めると、問題が生まれることがあります。
3.欧米企業での経験
これはニデックに限った話ではありません。以前、私が欧米企業でCFOを務めていたときのことです。社長から、「このビジネスプラン通りの数字を出してほしい」という強いプレッシャーを受けたことがありました。
もちろん、ここで重要なのは計画達成のためにKPIを管理し、迅速に対策を打つことは正しい経営であるという点です。ただ、その努力にも限界があります。市場環境などによっては、どうしても計画未達になることもあります。
問題は、そのときです。組織が「計画は必ず達成されないとダメ」という前提で動いていると、どうなるでしょうか?暗黙のいわゆる何やってもいいから計画を達成しろといったプレッシャーです。その際に
・収益認識を少し前倒しする
・費用計上を少し遅らせる
・引当金を調整する
といった形で数字を合わせることが暗黙の了解になることがあります。より利口な人は業績が好調の時に逆に費用計上を早めたり、収益認識を遅らせて「貯金」を作ったりということも考えられます。
私自身も、その状況に直面しました。当然計画を達成するためにできる手は打つことは大切ですが、結局実際には数字を合わせることが暗黙の了解となっていることは強い違和感を持ちました。
そのため、本社や社長にもその点ではかなり強く反発しました。結果として社内では煙たがられる面もあったと思います。直接そのことが原因ではないですが辞める一つの要因になったのは確かです。ただ、その経験から強く感じたこと、それは、そういった無理は必ずどこかで破綻するということです(詳しくはお話しできませんが実際破綻しました)。
企業には収益プレッシャーが存在することを前提に、それを抑制する仕組みが必要であるということです。
4.欧米企業と日本企業、そしてニデック
実際、欧米企業では企業は収益至上主義になりやすいという前提で統制が設計されています。そのため、内部統制や内部監査といった仕組みがかなり厳格に設計されています。
つまり、収益至上主義は前提だからこそ統制も強くあるべきという考え方です。一方、日本企業では、内部統制=(無駄な)コストという意識がまだ根強いように感じます。内部監査やコンプライアンス部門は欧米企業だとマネジメントに必須な部門と考えられていますが、日本企業だと良くて「儲けを生まないお荷物部署」やひどい場合は定年間際の方が行く「窓際部署」と見られがちです。
その結果、人員が少ないし、権限が弱く、経営から距離があるという状況になりやすいのです。そしてニデックの場合、この問題をさらに難しくしている要因があります。
それはM&A型企業であること、そしてカリスマ色の強い企業であることです。カリスマ社長は強いリーダーシップによって急成長する一方、
・組織がトップの意思に強く依存する
・現場が数字達成プレッシャーを感じやすい
という側面もあります。そこに、354社に及ぶグローバルなグループ企業という構造が加わると、統制の難易度は一気に高くなります。今回の問題は、こうした複数の要因が重なった結果とも言えるでしょう。
ニデックの問題は一企業の不祥事ではあります。しかしその背景には
・成長プレッシャー
・M&A企業の統制問題
・日本企業の内部統制意識
といった構造的な課題があります。。
ただ、収益至上主義は世界共通で、欧米企業はそれを前提に統制を強く設計してきました。一方、日本企業では内部統制はコストという意識がまだ残っているケースがまだまだ多いです。この違いが、問題の表れ方に影響しているのかもしれません。欧米企業だと財務や経営企画系のエースを内部監査やコンプライアンスの部署に送り込むローテーションはよく見られます。リスク管理として必要不可欠な部門であるという意識は強いです。
最後に最も重要な点です。どれだけ内部統制を整備しても、経営者がその気になれば無効化できてしまうという現実があります。これはどの企業でも共通するリスクです。ニデックでもそうですが、そうすると会社ぐるみとなるので監査法人も見つけにくい不正となります。
収益目標の達成自体は、決して悪いことではありません。しかし、最善を尽くしても達成できない現実に直面したとき、その現実を受け入れられるかどうか。ここが経営者に問われます。数字と自分のメンツを守るのか、組織や文化を守るのかこの選択を迫られる場面は必ず訪れます。
そして、その判断こそが企業の将来を左右します。最後に一つ問いを投げかけたいと思います。あなたの会社では同じ問題は起きないと言い切れるでしょうか。急成長の裏で、本当に統制は機能しているでしょうか。



