公認会計士の社外役員の良い習慣と困った習慣とは
2023.11.29 カテゴリ: 企業経営での留意点、経営戦略、経営理念。
目次
1.公認会計士の社外役員がまず心がけることとは
社外役員、特に公認会計士の場合は監査役や監査等員会委員を依頼されることが多いとは思います。その場合、通常社内役員であることも多いCFO(最高財務責任者)や外部だと監査法人とは違った視点を求められるとは思われます。当然昔の同僚などで社外役員になっている人も多いので意見交換などもするのですが、やはり限界はあると思います。
そういった中で、日本公認会計士協会も社外役員協議会などを設け、公認会計士の社外役員の情報交換や研修の機会を設けていて、これは非常にありがたいことです。そういった中で自分なりの所感を述べてみたいと思います(注:あくまでも個人的な意見であり公認会計士協会の見解とは全く関係がありません)
研修会などでも強調されていましたが、当たり前のことではありますが、ガバナンスコードについてのしっかりとした理解ということについては大切でしょう。ガバナンスコードについては読んではいますし、関連する書籍などもいくつか読んではいますがなかなか奥の深い世界だとは思います。
ガバナンスコード、内容のすべてに賛同するわけではないですが、やはり上場会社としては心がけておく点は多いと思います。しかし、会社によってはとりあえず形式的に満たしておけばいいのだと露骨な姿勢を見せるところもあって閉口することも過去ありました。
経営陣を社外取締役が監督するいわゆるモニタリングボードが現在求められているガバナンスコードの中心です。ただ、これは経営判断の迅速性を損なうと主張し、旧来型の社内の執行を行う取締役が中心のマネジメントボードで当社は十分という姿勢の上場会社(実際にそのような言葉を浴びせかけられたこともありました)残念ながらまだまだ少なくないです。たいていそのような会社の判断は迅速ではなく拙速だとは思いますが。
2.意外に公認会計士社外役員が戸惑っていること
研修の中で、結構同じ感想を抱いている人が多いことに驚いたのが決算の承認に対する戸惑いです。数日前くらいには入手して読んでははいるし、期中で業績報告なども見てはいますが、「承認」といわれてどうすればよいだろうと思っている方は多いようです。どうやら中には監査法人時代の癖で「この開示の文言は・・・」などとやってしまう方がいるのには少し失笑してしまいましたが、気持ちはよくわかります
当然社内でもみて、監査法人も見ているわけなので別に計算チェックや細かい文言の確認などは社外役員の役割ではないという話は出ていました。公認会計士である社外役員は全体感として何か違和感がないか、例えば今までの業績報告の流れと決算に乖離があればそこは追及していく必要があると思われます。個人的にはそのあたりが求められていることかなと思っていました。
そこで、一つ講師の体験として欧米の著名な社外役員の方からうかがった話が参考になりました。社内の資料も目を通すが、結構外部の情報収集の方に力を入れていると言っていました。確かに細かく財務資料を読み込むより、外部の経営環境や同業他社の財務諸表などと比べ違和感がないかそちらの方が求められているのではないかと思います。
3.公認会計士の困った習慣とは
あとは意思決定における「検証」でしょう。監査の世界、特に昨今の監査はとにかく「検証したのか?」が合言葉になっています。どんなにリスクが低そうな分野でも「リスクがないまたは低いことを検証する」ことは求められているようで、いわゆるないことを証明する「悪魔の証明」の連続で監査の現場と会社の担当者は疲弊しているようです。余談ですが、ある知人の監査法人を辞めて独立した公認会計士はいまだに夜、上司に「検証したのか?」といわれる夢を見るそうです。
この検証癖、決して悪い側面だけではないのですが、監査の議論が基本的に過去を対象にしているのに対し会社の役員会の意思決定事項は未来を対象にしていることが多いことでずいぶん異なります。
意思決定においてその説明にある数字の根拠はその説明が正しいかを考えるうえで重要な要素とは思います。したがってある程度の検証は必要でしょう。ただ、過去とは違い未来の話をしている場合、そこには仮説が含まれており100%またはそれ近い検証などはそもそも無理です。仮説の検証は必要だとは思いますが、程度問題は難しく監査法人癖で「検証魔」になりすぎないようにするのは公認会計士の社外役員として難しいところでしょう
私見ですが、公認会計士出身の社外役員、特に監査法人で長めにやられていた方はリスクの評価という面では優れている面はあるのではと思います。ただ、その時代並みのセンスでやってしまうとほぼ身動きのできないガチガチの「リスクを取らない経営」か「やたらと意思決定に時間のかかる会社」という現代において一番リスクのある経営形態に導いてしまうかもしれません。
このあたり世の中の期待と公認会計士の社外役員の果たす役割というのはいろいろ考えさせられるものがあると感じます。