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不正会計相次ぐネットワンシステムに会計監査人はどう対応したか~KAMを読む

2021.07.07 カテゴリ: 会計・税務会計不正会計監査

1.ネットワンシステムズの度重なる会計不正

 三菱電機の検査不正が話題となっていますが、会計業界ではネットワンシステムズ㈱の度重なる会計不正は有名です。2013年から4度の会計不正を起こしています。。2020年3月には日本製鉄や東芝のシステム開発子会社との間で架空取引を行い約276億円の売上高を計上、そして今年に入っては担当者の架空発注で4.7億円の不正が発覚しました。

今年に発表された第三者委員会の報告書では営業部門のコンプライアンス意識の欠如、管理部門の弱さ、それを放置した経営陣の責任を追及しています。内容を簡単に言うと売上・利益至上主義で営業部門のモラルが崩壊、管理部門は営業に何も言えないほど立場が弱く、経営陣自体が内部監査や管理部門を単なるコストとして軽視していたことがうかがわれます。

こ ういった会社に対し会計監査人はどんな監査をするのだろうと興味を持って今年の3月決算から強制適用になったKAMをよんでみました

2.KAMとはそして、ネットワンシステムの監査上の主要な検討事項とその理由

 有価証券報告書の後ろの方に必ず公認会計士による監査報告書が付いています。監査報告書には無限定適正意見、限定付適正意見、不適正意見、意見不表明の4つの意見表明がありまするが、年に数件意見不表明がある程度で99%以上は無限定適正意見で監査報告書の文面の内容はほぼ同一です。つまり誰も見ないページであったと思われます。ちなみにこのネットワンシステムズは珍しい限定付適正意見ではあります。一部適正とは判断できかねる事象があるがおおむね全般として会計書類は適正といった意見です。

 ところが2021年3月期より監査上の重要な検討事項であるKAM(Key Audit Matters)が適用され監査上の論点のうち、監査上特に注意を払った事項で特に重要な事項とそれに対する監査上の対応を監査報告書に記載することになりました。これによって監査報告書は会社によっては非常に読み応えのある面白い?モノとなってきました。

 それではネットワンシステムズの監査報告書KAMの部分読んでみましょう

ICTシステム導入のプロジェクトについて、いくつか注文書に分かれて発注されているのですが 実際に検収される成果物がシステムの成果物として体をなしているか?という点がリスク要因としてあげられています。要するに長期間にわたるプロジェクトで収益を認識する場合、適当に分割してして注文書を出して収益を都合良く計上することが可能。モノの納入ではないのでわかりにくいということです。

 もう一つが商流取引(情報サービスを提供する企業間での商社的取引)についての言及です。この取引の場合、モノの移動はないですから共謀する相手がいれば極端な話、伝票一つで売上が立ってしまいます。これを2社で行うと(何も納品していない相手からいったんは入金されるので)相手側からお金の相殺のために仕入れが立ってしまいます。同じ相手に対し仕入れと売上が立つという不自然な状態になりますから、何社か組んでぐるぐると回って最終的に自社が払う仕組みを行います。間に入っている企業は伝票操作だけで手数料が入る、相手が上場企業またはその子会社ということで安易に参加してしまいます。これが循環取引です

 会計監査は強制力を伴った捜査ではないので相手に対して事情聴取などは通常できません。大手監査法人が大がかりな不正を見抜けないと批判を受けているようですが、内部告発等でその循環取引の兆候が見れない限り、書面で請求書や入金状況を見る、相手先への債権債務残高の確認にとどまります。上場企業ですとこれだけでも膨大な作業ですし。

 また、商流取引ではほぼ実際にほぼ他社サービスをつなぐだけの商社的ビジネスも多いのでそういった場合は総額を計上するのではなく、手数料として純額として計上しなくてはなりません。そのあたりもKAMにおいて監査上の主要な検討事項とその理由として挙げています。

 ではこういった検討事項に対しどういった監査を行うというのでしょうか?

3.監査上の対応は

 これに対し、監査上の対応として注文書、検収書、請求書、入金証憑を査閲するだけでなく監査手続きとして受注先に注文内容・検収内容・債務認識等を確認したと記載がありました

 通常債権残高の確認は行うのが通常の監査手続きでありますが受注先に注文や検収などの内容までは確認しません。一般的には営業上支障があると被監査先が反発するケースも多いと思います。ただ、ネットワンシステムの場合は今までの不正会計の経緯を見ていれば監査人としてこの程度の対応は必要であるし、会社側も飲まざるを得なかったと思います

 また、すべての取引について一定の利益率や一定のキーワードで抜き出し実態をいろいろと調査したようです。くわえて相手先との交渉記録なども提出させて中身も検討したようです。循環取引の疑いが強ければここまでの監査は可能ですが、自分が監査人、または被監査先の立場で普通のシステム会社でここまでやれるかというと自信がありません。

 ただ、こういった監査上の対応が実際に公表されればかなりリスク判断や監査上の対応についてベンチマークとできるので監査の質の向上には資するのではないかと思っています。

 

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