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所詮よい子ちゃんだけやっている気がする租税情報の国別開示

2022.01.25 カテゴリ: グローバルビジネス企業経営での留意点経営戦略

1.租税情報の開示とは

 20日の日経新聞で国別の納税額の開示が主要企業で行なわれるようになったという記事が載っていました。花王、セブン&アイ、鹿島など20社が日経の調査では統合報告書などの自主開示
として行われ、ほかでも開示を検討している企業があるとのことです。この狙いはESG(環境・社会・企業統治)の一環でESG評価機関などから透明であるという評価を受けるためと言われています。課税逃れのために利益を税率の低い国に移転させ、いわゆる納税逃れをしている風潮に対する世間の目は厳しくなってきて特に欧州は厳しいです。

 有名なケースはスターバックスの事件で2012年に英国でほとんど税金を払っていないと報じられ不買運動に発展、2千万ポンドの自主納付に追い込まれました。ESGのS(社会)のところで納税についても社会に対し透明な処理(納税逃れ的なことはしていない)ということを示すということです。

 しかし、全産業の世界の主要約5万7000社の財務データを分析した税負担率、全産業25.1%なのにGAFAは15.4%、GAFAなどはかなり露骨な租税回避活動をしています。日本の会社は全くしていないかというとそんなことはないかもしれません。実は有価証券報告書を見ると何となくそのような傾向見えてきます

2.海外に利益を移転しているかもしれない会社を見分けるには

 実は有価証券報告書の「法人所得費用」の実効税率の項目を見ると実際に払っている税金が利益に対して少ないのはどうしてなのか説明の項目があります。例として製薬会社のアステラスを上げてみましょう。2021年3月期の日本国内の実効税率は30.5%ですが、海外子会社の税率差異△11.5%などで結局実際税金負担しているのは利益の17.0%に過ぎません。この海外子会社の税率差異は税率の低い国で利益が上がったため生じます。ただし、もしかするとただ単に実際にきちんとビジネスをして利益を挙げている国の税率がたまたま低かったという可能性もあるのでこれだけで、意図的に所得を移転したとは決めきれませんが。

 製薬会社の利益の源泉は薬のノウハウといった知的財産権です。一般的に利益移転の一つの典型的方法としては(あくまでも一般論でアステラスやっているということではないです)こういった無形資産を税率の安い国に移転してそこに他の高税率国の現地法人がロイヤリティーを払う形に仕組みを作ります。税率の高い国はロイヤリティーを払うことで利益が少なくなり、税率の低い国にロイヤリティーが入り利益が高くなるわけです。

 ただし、単純にこれをやっても例えば日本でいうCFC課税(いわゆるタックスヘイブン税制)があり、こういった税率の低い国にペーパーカンパニー的な法人を作り移転した利益については
課税できるような仕組みがあります、また、国外にロイヤリティを払った場合に源泉税といった形で税金を徴収されるようといった制度もあり、租税回避については税務当局もいろいろ対策考えています。

 ここで億単位の報酬得て租税スキームを作る専門家が登場します。様々な国々の税法や租税条約などを使って限りなく税金を下げる方法を提供しています。有名な例がAppleが使い始めたというダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチというアイルランドとオランダを使った租税回避スキームです。あまり詳細は説明しませんが、アイルランドに2つ、オランダに1つ子会社を作ってその中で取引をキャッチボールすることによって税金を限りなく低くするスキームです。

3.真面目な会社だけ行う開示

 良くも悪くも統合報告書で開示するのはこういったスキーム物をやっていない真面目な(悪く言うとバカ正直な)会社のようです。例えば国別納税額の開示をおこなっている花王の2020年12月決算の場合日本国内の実効税率30.62%ですが子会社の適用税率の差異(おそらく海外子会社の税率差異)はたった1.81%などが調整項目で実際の負担は26.39%です。

 統合報告書にに書いてある国ごとの納税実績を見ても日本が税引前利益の70%をしめており、その他もアメリカや中国です。いわゆるアイルランドやシンガポールなどの低課税国、英領マン島やバージン諸島などのタックスヘイブンは登場しません。 痛くない腹を探られたくないということもあって開示しているのでしょうが私のような興味本位読者としては面白くもなんともない「ふ~ん真面目に税金払っているのね」開示ではあります。

 欧州連合(EU)は21年末、大企業などに対し域内各国の納税額やタックスヘイブン国の合計などの開示を求めるルールの導入を決めました。日本経済新聞によると「対象となるのは、EU内に本社があり連結売上高が7億5千万ユーロ(約1000億円)超の企業や、一定規模以上の子会社や支店などがある企業。欧州に展開する日本企業の多くも含まれる見込みだ。EU内での法人税の支払額といったデータを企業のホームページなどで開示するよう義務付けられる」そうです

 でもタックスヘイブン国(正確に言うと税務上で非協力的とされたEUリストに記載された国や地域)は合計額だけですし、EU諸国以外は開示を求められていないのでこれもしり抜けです。企業の本音は「税金なんて払うたくないから法律の範囲で工夫して税金安くしてどこが悪いねん!」なんでしょう。ばれなきゃいいやというスタンスです。私は個人的に好きではないし、こういったサポートする気もない(能力もない)ですが一方利益追求する企業の立場考えるとそんなに声高に非難もできないです。なんだか開示はたいして役に立たないしヤレヤレといった気分です。

 

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