GEが衰退してしまった本当の理由
2022.08.17 カテゴリ: M&A、グローバルビジネス、企業経営での留意点。
目次
1.GEという会社と私
以前、GE(Genaral Electric)という会社で働いていたことがあります。その際には、いろいろな素晴らしい方々と出会えました。そしてその方々は各方面で活躍されています。クロトンビルの研修所で名高い、グローバルリーダーが集まる研修にも行かせていただき その他も、とにかくたくさん学ばせてもらって感謝です。
ひと言で一番何を学んだかというと常に高い目標(ストレッチした)を掲げそれを常に達成する経験だったと思います。そんなGEを辞めた一番の理由は嫌気がさしたわけではなく一度くらいベンチャーの経営に参画したかった、 そして、今までの経験を活かしてベンチャーで活躍したいと思ったのが一番の理由です。
ただ、一方で組織の肥大化、特に何やっているかわからない本社の部門がずいぶん増えてきて、本来GEという会社が嫌うはずの 官僚主義がはびこってきたというのは感じ始めていました。そして現在GEは100年以上続いていたダウ30種の構成銘柄から外れ、株価も沈み込みコングロマリットは実質的に解体されてしまいました。
直接お話したことはないですがジャックウェルチさんからCEOを引き継いだジェフ・イメルトさん、私の上司なども素晴らしい人だと言っていましたが結果としては悲惨でした。そこで読んだのがGE帝国盛衰史(トーマス・グリタ、テッド・マン著)です。
ちなみに「盛」の話はなく、ひたすら「衰」に向かって坂を転げ落ちていく様を描いているので気が滅入る部分もある本ではありますが 色々考えさせられました。
2.なぜGEは衰退の道を転げ落ちたか
多分ほかの読者の方でもう少し深い洞察をもたれれる方もいらっしゃるとは思いますが、この本を読んでの私の個人的見解と感想を述べさせていただきます。
一番は、やはり巨大になりすぎたことがあるのでしょう。やはりどんな優秀な経営者をもってしても21世紀においてコングロマリットの経営は複雑すぎて無理 ではないでしょうか。金融部門であるGEキャピタル、GEパワーなどで様々な経営に大きなダメージを与えるような事態が起こっていましたが把握しないままどんどん取り返しのつかなくなるようなところまで来てしまいました。
その理由の一つとして「常に高い目標(ストレッチした)を掲げそれを常に達成することを目指す」が逆回転をし始めたことがあるのではないでしょうか。うまくいかなくなってきたことを隠してストレッチするので、どんどん無理な目標になってしまいます。当然無理な目標を達成するためには無理筋な手段 が選ばれてしまう、そのための悪い結果を糊塗するような文化が少しずつ育まれてしまったように思えます。
この本では糊塗の手法として「攻撃的な会計」があげられています。不正会計ではないですがあまり適切ではない手法がとって無理に利益を生んでいるのです。こういった経営成績を歪めるような会計は本来、GEのような正攻法の会社がとるべきではなかったはずです。多分早いうちにGEの問題点が明るみに出てイメルトさんが正確に把握できていたら、ある程度のコングロマリットの解体は必要でしたが
本体はスリムで筋肉質な会社として生き残っていたかもしれません。
「常に高い目標(ストレッチした)を掲げそれを常に達成する」の逆回転の例が今後はこれまでかと出てきます
3 逆回転
大きな失敗とされているのは無理な買収で、GE史上最大の買収のアルストムでしょう。私もGEにいたころ買収業務に携わったことはありますが、そのころは結構渋い買い手だった印象が強いです。経済効果を冷徹に計算して、採算が取れない案件はさっさと手を引く、どんどん買収値が吊り上がるようなチキンレースには参加しませんでした。
アルストム、ガスタービンの製造などをしているフランスのコングロマリットですが、この買収話を聞く限り、私の知るGEらしさがなく、日本企業の買収の失敗例に近いです。トップがもう買収を決めてしまい、部下たちは必死になって経済効果を冷静に見る目も忘れて買収することが目的となって高値づかみしてしまうといったケースです。最終的にシーメンス連合とせってしまい、とても相手が手を出せないような高値で引き取ってしまいました。そしてそのあともEUやフランス政府との戦いが続き悲し結果になりました。
もう一つはインダストリアルインターネットの挫折です。自社で機械を動かすために様々なデジタルデータを集約したプラットフォームを構築して顧客企業はこのプラットフォームに接続させるだけで様々なメリットを得ることができるといった構想のようです。GEはBTBの世界の巨大プラットフォーマーを目指していたように思われます。発想は悪くないと思います。
ただ、当然かなり複雑な内容を取り込むので結局大量のデータが入ってくることにより処理速度が極端に低下してしまいます。あまり実用性がなかったいう結果でした。事業の理念ばかりが先走り、具体的な施策までは落とさないまま進んでしまったように見えます。結局データをとにかく集めて処理するという手段の達成に進んでいるうちに本来の目的がなんだかわからなくなってしまって最後は頓挫してしまいました。
やはりこれもGEの素晴らしい文化であった、「ストレッチと達成」が使い方をどこかで誤って逆回転しだしたなんだかそのような気がします。すごく悲しいGEの衰退の話でした