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日野自動車の不正の本当の原因

2022.09.28 カテゴリ: 人の育て方企業経営での留意点経営理念

1.日野自動車の検査不正問題とは

 少し前まで毎日のように日野自動車の検査不正問題が新聞に載っていました。これはパワートレーン実験部を中心として排ガスと燃費の性能に対し実験データの書き換えや規則とは異なる検査手法を用いて認証社内検査の結果の改ざんしてきた問題です。日本の規制当局におる仕組みは認証社内検査の報告により認証を行い個別の車の検査を省略するものです。要するに性善説に従って運用している制度である認証検査の結果を改ざんするというのは大きな問題といえるでしょう

 その結果国土交通省から4種類のエンジンの生産に必要な形式指定を取り消されました。簡単に言うとこの型のエンジンの生産はできないことになります。

 この問題については第三者委員会の調査報告書が出ています。この報告書ではこれは一部署の問題ではなく排ガスと燃費の性能というある意味背反する課題をパワートレーン実験部に押し付けた日野自動車全体の問題であると厳しく断罪していいます。ここで取り上げらている真因、大きな組織にはある程度どこでも見られがちな問題点です。しかし、比較的日本企業では強いと思われていた部分が劣化している一方、悪い昭和が残っているといった問題点があるので少し見ていきます

2.みんなでクルマを作っていない

 まず一番の問題として取り上げられていたのは「みんなでクルマを作っていない」ということです。 排ガス性能と、燃費の性能、双方を追及するとトレードオフ的な事象が生じるそうです。要するに両方を同時に改善していくことは一般的には難しいわけです。こういったケースに関し日本企業、特に日本の自動車業界は「すりあわせ」が得意なので日本の自動車産業は強いというのがビジネス界の常識であった気がします。

 すり合わせとは違う部署が互いの知識や意見を出し合い、共通点や相違点を探りながら合意に導いていくプロセスです。この前提として、お互いの部署のやっていることを認め尊重する、自部署の利害だけではなく、きちんと全体最適を目指すということがあります。

 この報告書では日野自動車にこのような文化が全くないと断罪しています。「各部署が部分最適の発想に囚われて」「その内実は、与えられた範囲での役割をこなしていただけで、自らの部署に余計な仕事を持ち帰らないというセクショナリズムの考えに陥っていた」と述べています。

 例えば日野自動車では「お立ち台」という制度があり、問題を起こした部署の担当者は他の部署も参加した大きな会議で問題の原因、対応策を説明させられます。社内アンケートによれば「日野自動車の風土は助け合いではなく犯人捜し」「声を上げた人がやらねばならな風土がある。是正したほうが良いことがあっても、声を上げると自分が動かねばならなくなるため、自分に影響がない限りはあえて指摘はしないような雰囲気になっている」ということです。

 その結果、部署が蛸壺化し、他部署に関して知識も関心もないような状況、そのしわ寄せがパワートレーン実験部に来たといえるでしょう。燃費性能の不正に関してもそもそもの原因は担当役員の開発終盤での燃費性能の改善指令とエンジン設計部門の安請け合いそれをパワートレーン実験部に丸投げしたというのがそもそもの原因としています。そして経営陣は発注者のように指示するだけ、現場は支持されて動く側と断絶が生じていました。

 まとめると現場と経営陣が一緒になって考え、部門間もすり合わせをして決定していくという古くからの日本企業の強さを失っているという逆の面が見えてきます。

しかし、一方で変わらない面もありました。

3.変わらない

 古くからの日本企業の良さを失ってしまった一方、働き方や社内の上意下達の文化は全く昭和でした
社員アンケートを見ると本当にすさまじいです。

「今まで問題なかったのになぜ変えなきゃいけないんだ!」「俺の言うことを否定するのか!」という上司が多く変革はできないという社員の声がありました。「先輩の新人に対する教育は高圧的で、脅迫することで『上には逆らない』を植えつけさせるものであった」「ほとんどの上司が相談に対しいう一言が『本当か?』」・・上司に黙って進めてしまう」「なぜできないんだ、土日何やっていたんだ」といった正論、精神論が幅を利かせる世界がかいまみえます。

 ようするに昭和の働き方、上下関係など悪い面は変わらないまま残っていたようです。その中に欧米流の成果主義的な考え方だけ中途半端に取り入れてしまった結果、無理な目標、達成のプレッシャーがパワートレーン実験部に集約されてしまったようにみえます。そして、部分最適が進んでしまった会社ではみな見て見ぬふりをしていたため最終的には膿が噴出してしまったというのが私の見方です

 結構、日野自動車だけでなく、ここまで極端でないものの低迷している日本企業に共通する大きな課
のような気がする案件だと思いました

 

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