稲盛思想の光と影について
2022.10.12 カテゴリ: 企業経営での留意点、働き方・仕事術、勉強術・仕事術・心がけ、経営理念。
目次
1.稲盛氏がお亡くなりに
8月24日に稲盛和夫京セラ名誉会長がお亡くなりになり約一か月たちました。京セラを創業、その後の第二電電(現KDDI)の立ち上げ、日本航空の立て直しなど経営者としての功績については各方面で取り上げられております。
ゼロからの立ち上げ(京セラ)、独占市場への新規参入(現KDDI)そして伏魔殿とも言われた組織の立て直し(日本航空)、経営のスキルという側面で考えると上記の3つは全く違うものでふつうは一人の人間ができるものではないです。
良く言われることですがゼロを1にして創業できても組織運営ができない経営者は多いです。
そして、組織運営できても大きな組織だとできない経営者も多いですし、大きな組織運営ができてもその変革は難しいです。そもそもそのうち1つができるだけでも素晴らしいことで、この3つがすべてできるというのは驚異的で確かに稀有な経営者といえます。
これがなぜできたのかは不思議です。どうしてなのでしょうか?当然基本的な経営者としてのスキル面はあったと思われますが、最終的には「経営者としての在り方」、よく使われる言葉だと「人間力」であったのかもしれません。
ヒントとしては稲盛氏の著書「生き方」があると思います
2.稲盛氏の「生き方」とは
この本のポイントは以下の式に集約されると私は思います
人生・仕事の結果=考え方x熱意x能力
ユニークなのが掛け算であることです。一つでもゼロであれは結果はゼロになってしまいます。 熱意と能力はプラスの数値ですが、考え方にはマイナスがあるということ、熱意と能力があっても考え方がマイナスだと悪い結果を招くのです。どんなに能力と熱意があっても考え方が単に他人の足を引っ張る出世至上主義者だったり、極端な話暴力団の親分ではマイナスの結果になってしまうわけです
そして、「生き方」をみると考え方7割、熱意3割で紙面が割かれていると思います。考え方の中心は「利他の心」事業は自分の欲(私益)ではなく正しい方法で世のため(公益)でなくてはならないうことです。
そして「熱意」は願望を成就に変えるには「寝ても覚めても強烈に思い続けることが大切」
「自ら燃え上がりさらにそのエネルギーを周囲にも分け与える人間」でなければいけないと説いています。そして、「人生の真理は懸命に働くことで体得できる」とどんな仕事でもまずは懸命に取り組むことが大切としています。
自分も非常に小さいとは言え会社を経営する立場なので「生き方」で心掛けたいことたくさんあります。しかし、こういった「稲盛思想」、光の面もありますが都合よく切り取るとたんなるブラック企業の社是になりかねない影の部分があると感じます。私ごときが偉大な経営者の著書を論評するのは僭越とは感じられますがご容赦ください。
3.生き方のブラックな側面
やはり危険なのは「生き方」を社員に推薦するのは良いと思うのですが強制することだと思います。経営者が自分で心がけるのは大切ですが社員に強制するのは危険ではないのでしょうか
「利他」を単に「会社のみんなのために奉仕しろ」「人生の真理は懸命に働くことで体得できる」を単に「24時間365日死ぬまで働け」(ワタミの以前の経営理念)と切り抜いていわゆる換骨奪胎は可能です。
この本で取り上げられていアモルファスシリコンの開発で夜居眠りしていた研究員を熱意が足りないと更迭した話などは、要するに大事なことならば「夜中でも寝ずに働け」ということではないかと考える人がいてもおかしくないです。
そして、私は、どんな仕事でも精魂込めて働くべきというのには賛同できなません。つまらないと思った仕事でもまずは懸命に取り組むことは大切だと思いますが、自分の成長にならない、社会に良い影響を与えていないと思った場合はどこかで早めに見切りをつけることはむしろ大事だと思います。
また、一糸乱れず軍隊のように働く金太郎あめ軍団よりも多様性を持ったしなやかな組織がこの変化の激しい時代には求められおり、少し違った多様な「生き方」もあってよいと思います。そういった意味で、別に宗教の教祖のようにあがめてしまうのは問題があると思われました
ただし、別に一部で言われていうような稲盛氏が「ブラック企業の祖」とは思ってはいません
ある逸話があります。稲盛氏が主宰する盛和塾である発表者が稲盛さんの教えで経常利益10%を達成しました。ただし、家庭は壊れましたと発表したところ稲盛氏は血相を変えて怒ったそうです。
従業員や家族の幸せがなくて会社の経営が良くなっても全然意味がないと言って怒る一方
発表者の家族のことをすごく心配されたそうです。その後、その発表者が心を入れ替えて、奥様と復縁できた際は本当に喜ばれたそうです。根本では人への愛情もあった方なのでしょう。
稲盛思想、それ自体は素晴らしく、人生・仕事の結果=考え方x熱意x能力などは本当に強く共感します。ただし、世の中で賛美一色なので少し気になる影の部分は書かせていただきました