ブログ

HOME > ブログ > 企業経営での留意点 > ガバナンス > あまり語られていないフジテレビ問題の死角

あまり語られていないフジテレビ問題の死角

2025.02.07 カテゴリ: ガバナンス企業経営での留意点

目次

1.フジテレビ問題の論点とは

 少し下火になってきましたがタレントの中居正広氏の女子アナAさんに対するハラスメント問題とフジテレビの隠ぺいは大きく話題となりました。

 私は、女子アナAさんの苦悩、所詮男性なので本質的に苦しみが理解できていないかもしれません。ただ、ほぼAさんは私の娘と同じ年ごろなので、父親の気持ちとして同じ立場であれば中居正広氏を刺して、フジテレビに火でもつけてやろうかという気持ちにはなるでしょう(さすがに実行はしませんが)。

 一応前提の理解は、Aさんがタレントの中居氏に誘い出され、性的暴行を受け、しかし、フジテレビ側はその事実を実質的にもみ消し、中居氏を番組で使い続け、こういった経緯もあり女性はPTSDを患い退社するに至ったということです。

 問題の所在は3つといえます。一つは女性アナウンサーを著名男性タレントなどに社命で濃厚接待させていたらしいといった女性蔑視の社風の問題です。これについては大きな問題ではあるものの事実関係があいまいでかつ、私の知見が特にある分野ではないので特にここではお話をしません。

 そして、2つ目は、問題が週刊誌等で明らかになってもだんまりを決め込み、その後の記者会見も静止画像の密室会見だったという広報の問題です。これについても結構いろいろな記事でこの広報のまずさや経営者の意識の低さは叩かれておりますので特にここで言及はしません。

 そして3つ目は性的暴行問題を社長はじめとして上層部まで知っていたのにも関わらずきちんとした調査をせずにもみ消し、中居氏を番組で使い続けたという点です。この点についてガバナンスが働いていなかったという意見がありますが、本当なのでしょうか?私は少し異論があります

2. 企業の隠ぺい体質とは

 まず、そもそも企業におけるガバナンスって何でしょうか?これは健全な企業運営を行うための管理体制や企業内部の統治です。中居氏の問題を組織内でもみ消したという件、組織として隠ぺい体質で問題は確かにありますが、極論を言えば所詮どんな組織も人間が運営しているので隠ぺい体質は基本的にあります。

 すごく単純化した例を挙げると、家庭で子供が成績優秀で卒業生総代に選ばれたような話は他人に言いたくなりますが、素行不良で退学になったような話は伏せておきたいものです。

 会社という組織でも不祥事とか目先の利益にマイナスになるような事態は握りつぶしたいという力学は必然的に働きます。そういった隠ぺいはトヨタをはじめとするほぼすべての日本を代表する自動車メーカーで型式指定に対する不正が組織内で行われてかつ隠ぺいされていたことを見ても明らかです。

 そういった隠ぺい体質は「意識改革」で防げるものではなく、「統治の仕組み」が大切でしょう。実は、仕組みとして親会社のフジメディアホールディングスにグループコンプライアンス等委員会があります。子会社であるフジテレビにも同様の組織があったようですが、どちらの組織にもこの問題は上程されていなかったようです。

 その理由としてフジテレビの経営陣は個人御プライバシーに係ることなので守秘義務の関係もあり話さなかったということですが、そもそももし守秘義務が守れないようなコンプライアンス委員会があったら全くコンプライアンス委員会として機能していないといっても過言ではありません。むしろ、これは単にもみ消したい経営陣の言い訳だと想像します。

 ではどうしたらこういった企業における隠ぺいは無くなり、こういった面のガバナンスは機能するでしょうか?

3.ガバナンスと内部通報制度

 社内に情報がとどまる限り、都合の悪いことは隠避するものだというのは公理といってもよいでしょう。前述の日本の有数の自動車メーカーで発生した検査不正を見てもわかります。

 また、加えて特に日本企業の社員にとって自分または周りでハラスメントや不正に直面したとしてもそれを安易に口外するということは組織から抹殺される恐怖があります。

 そのためには「社外」の目を都合の悪いことに入れる仕組みが大切といえ、その仕組みとして内部通報制度があります。コーポレートガバナンスコードにおいても「上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備すべきである。」と述べられています。

 この「経営陣から独立」というのが怖いところで、例えばフジテレビの親会社であるフジテレビメディアホールディングス(フジテレビHD)の社外取締役を見ても総務省の官僚と財界人の方々しかいないので、いわゆる「お友達社外取締役+天下りさん」で本当に経営陣から独立しているのか少なくとも一般社員からは疑念が残ります

 実際に以前私が内部通報に関与した際も、通報者からは完全な第三者の外部弁護士以外は一切タッチしてほしくないという意見が通報者からありました。確かに社員からは「社外」取締役といっても経営陣の「お友達社外取締役」なのかそうでないのかは判断できませんし、そもそも世の中でも経営陣の直接の知り合いまたはその知り合いの紹介で社外取締役になるという例は数多くあるので不安でしょう。

 個人的には窓口は完全な外部の専門家、内容の重要性や求められる秘密度の高さによって社外取締役や社内コンプライアンス窓口と外部の専門家が情報共有しながら進めていき、きわめて重大な事象の場合は第三者委員会の設置という形が理想的だと思います。

 結構経営者で「うちは内部通報全然なく、うまくやっています」などということをおっしゃる方がいますが、おそらく内部通報制度が周知されていないか信用されていないかどちらかです。

 フジテレビのケースではガバナンスが機能していればAさんは内部通報窓口に相談、中居氏の去就は経営成績に影響を与えるはずですから内部の執行メンバーだけでなく親会社の社外取締役も入れてしっかりと協議されたと想像されます。内部通報したといったような報道もないので窓口が周知されていないか信頼がなかったのでしょう。

お問い合わせはこちらまで

TOP