ベンチャー・中小企業のCFOには何が求めらるか?
2020.06.23 カテゴリ: CFO、企業経営での留意点、経営戦略、経営理念。
目次
1.ベンチャーCFOは上場請負人か?
私の個人的な偏見かもしれませんが優れたベンチャーのCFOとは、上場なりバイアウトなりで「上手に株式価値をあげてエグジットできる人」のような見方が多いような気がしてなりません。そこで求められるのは高い株式価値(バリュエーション)が得られるエクイティストーリ―の構築や投資家との交渉力だったりします。 そして上場の際は、 幹事証券会社、東京証券取引所、監査法人、既存投資家あたりの調整・交渉を巧みにこなしていくこんなイメージでしょうか。 一言で言うと「上場請負人」のようなCFOでしょう。当然こういった能力・スキルはベンチャーのCFOにとって大切なものの一つではあります。
しかし、これはそもそもないものねだりです。シリアルアントレプレナーと呼ばれるような事業を立ち上げて軌道に乗せる事がゴールな方を除き、上場は一つの段階であってゴールではありません。CFO]とっても上場した後もCFOの仕事が減るわけではないから普通は辞めることはないはずです。本当の上場請負人、最初から上場して新しいCFOに引き継いだら辞めると決めている人、または、上場後業績悪化で辞めざるをえなかったかどちらかです。 良く上場経験者のCFOが欲しいという経営者いらっしゃいますがそれが第一優先事項なのでしょうか?
一方一般的な中小企業、経理・財務の長とCFOの区別がついていません。経理財務を統括していればCFOなわけではないです。それでは、中小・ベンチャ―企業にとってCFOとはどのような存在なのでしょうか
2.CFOはどのような存在なのか
私は「会社という組織が何のために存在しているのかを明らかにしたうえで生き抜き、成長すること」に対し中心的な役割を担うのがCFOだと思っています。もう少し簡単に言うと「経営理念に基づいて生き抜いて成長すること」でしょう。
いやいやそんなことよりも資金調達だよという方も経営者でいらっしゃいます。確かに、生きていくためには資金が必要でこれがないと会社は死んでしまいます。一方、負債や出資の組み合わせなど、例え調達自体は成功しても手法で失敗すると経営権を奪われたり、かなり制約を受けたりと痛い目を見ることはよくあります。しかし、資金は企業の血液のようなもので不足すると確かに企業の死につながりますがそれが会社の存在理由ではないはずです
一方、「経営理念に基づいて生き抜いて成長すること」に対するCFOの役割についてどれだけ理解している経営者がいるのでしょうか。そのためには、経営理念がしっかりしていてそれを踏まえて経営方針や経営戦略が整合性をもって運営される組織を構築しなければなりません。この面でCFOは重要な役割を担います。ある意味、CFOは事業を直接運営していないので冷静な客観的な目で見ることができるということが大きいと思います。
少し、上場会社の失敗例を見てみましょう。ライザップグループの経営理念は「人は変われるを証明する」です。本業のライザップはまさに
この理念通りのビジネス、集中ダイエットメニューで短期間で素晴らしい体を創り上げ、一気に成長しました。しかし、一方こういった理念とは関係ない経営不振企業を買いまくった結果、一気にグループとしては大幅赤字に転落しました。経営理念とは全く関係のない経営方針による野放図な拡大、本来CFOがブレーキをかけなければならない場面なはずです。
ここでCFOの役割について参考になる本「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」高森厚太郎著を読んだのでご紹介します。ちなみに著者の高森さんは知人ですが特に本の宣伝を依頼されているわけではなく、以下は率直な感想です
3.中小・ベンチャー企業CFOの教科書
この本は「教科書」ですから多分みなさんが初めて聞くような斬新な理論が載っているわけではないです。しかし、中小・ベンチャー企業CFOとはどんな役割であるのかを体系的に簡潔にまとめられており、ベンチャーCFO経験者の私にとってもスキルの棚卸、頭の整理に役立ちました。CFO本で名がつく本は管理会計かコーポレートファイナンスを中心に取り扱ったようなテクニカル重視な本が多く、中小・ベンチャー企業CFOという観点からは違和感がありました。このように平易にコンパクトにまとまっているのは類書ではない気がします。
本当にCFOにとって必要なのは本書で書かれているようなしっかりとした経営チームを構築し、そこで経営理念を固めて事業を運営していくための
土台作りができる力だという点は強く共感しました。CFOを目指す方が本書を読んですぐに実行できるかというとそのような趣旨の本ではないと思います。むしろ、この本をベースに経験・学習を深めていけばいいかという道しるべになるような本だと思います。
当然今後CFOを目指す方々にも読んでいただきたい本だとは思われますが、実はベンチャ―中小企業のの経営者の方に読んでほしい本です。そういった方に自分の会社ではどのようなCFOが求められるのかという参考にしていただきたいと思います。全く財務・経理部長と区別がつかないか「上場請負人」みたいなCFOを求める経営者が多すぎるので、まずは会社の土台をじっくり固めることのできる志の高いCFOを探してほしいと思います。CFO人材の不足というのも日本でベンチャ―企業が成長しにくい、中小企業がずっとそのレベルから抜け出せない一つの理由である気がしてならないからです。