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三越伊勢丹の売上激減と新収益会計基準

2022.07.20 カテゴリ: IFRS会計・税務会計不正会計監査

目次

1.収益会計基準導入と三越伊勢丹の異変

 たまたまの偶然ではありますが、前回に続きデパートネタです。三越伊勢丹ホールディングス(以下三越伊勢丹)の2022年3月期の決算発表が少し前にありました。そこでのポイントは売上高の大幅な下落です。

 2020年3月期は1.1兆円あったのですが、2021年3月は8160億円になりました。これはコロナの影響も
あったと考えられますが、少し回復の兆しが見えた2022年3月期は4183億、なんと2020年3月期の
半分以下になったのです。これは何が起こったのでしょうか.

 これは、2022年3月期から導入されたあたらしい収益会計基準の影響が大きいといえます。なぜ今回三越伊勢丹の決算書を見ているかというと大きく2つの点で影響を受けると見ていたからです。一つは消化仕入れによるもの、もう一つは商品券とハウスカードにおけるポイントの取り扱いです。それではまず消化仕入を見ていきましょう。

2.百貨店における消費仕入とは何か

 「デパートの店員さん」と呼ばれますが、実はほとんどその人たちは、アパレルメーカーや化粧品会社の社員さんです。ある百貨店の方とお話したところ社員のうち店頭に立っている人は1割くらいしかいないとおっしゃっていました

 そして、こういったショップで販売する商品は売れる時点までは百貨店の在庫ではなくショップの在庫です。そして販売した時点で売上と仕入が同時に計上され、これは日本独自の商習慣です。百貨店側は在庫の心配はしなくてよいというメリットがあります。ショップ側は百貨店の中に入るのでテナントと違い、店舗設計などは不要ですし、複数ある店舗やネットなどで売れる場所に自由に商品を持ち込むことができるというメリットがありました

 ただ、この形態は経済実態的に見れば百貨店側は単に場所を貸して手数料を得ているだけ(手数料=売上―仕入)に過ぎません。よく国際比較として日本の百貨店は売上がかさ上げされていると言われていました。少し会計的な話をすると三越伊勢丹は商品の所有権を販売の時点まで持っておらず、在庫のリスクを追っていないです。これは販売行為の主体である本人ではなく販売を媒介する代理人であると考えられます。そのため売上と仕入れの差額の部分を売上として計上するわけです。

 今まで売上と仕入れが両建てで膨らんでいたものを純額で計上するようになったので大きく減少したように見えたのです。

 他に変わったものとしてはハウスカードのポイントと商品券があります

3.カードのポイントと商品券

 ハウスカードのポイント、商品を購入した際にハウスカード(エムアイカード)でポイントを顧客に与え、顧客はそのポイントをいろいろな商品やサービスにに交換できる仕組みです。今までは将来将来の行使見込見部分をポイント引当金として計上、つまり費用処理をしていました。今回の新収益基準の導入では、これは売上の値引きに近い性質であろうと、売上からの控除項目となりました

 商品券については今まで、販売時には売上とせずにその使用時に売上計上、そして一定期間過ぎた時(もうこの商品は使われないだろうと想定して)雑収入で収益を計上していました。その際、行使される率部分を商品券回収損失引当金で費用計上していました。

 これも、使用時に売上げ計上という部分変わりませんが、残った部分は行使する可能性がほぼなくなったといえる時に売上計上とという形に変わりました。想像ですが例えば3年くらいで収益計上していたのが、行使する可能性がほぼなくなったということですから5年とか少し長くなったのではないかと思います。

 こういった新しい収益会計の導入で確かに投資家にとって重要な売上の部分の比較検討がしやすくなったという面は良かったとは思います。しかし、内容があまりにもマニアックで導入側の手間、そして会計専門家以外は意味不明な記述が多くなり負の部分も少なくないと思います。それを見ていきます

4.収益基準の負の側面

 ハウスカードの会計処理に関する三越伊勢丹の注記を見てみます。

「付与したポイントを履行義務として識別し、将来の失効見込み等を考慮して算定された独立販売価格を基礎として取引価格の配分を行う」とあります。これ、おそらく会計専門家以外は意味不明な文章です。別にこの分かりにくさは三越伊勢丹特有ではなく、他の会社もほぼ同様、会計基準に忠実に従えばこのような文章になります。

 少し乱暴ですが、わかりやすいように読み解くとにポイント部分のうち将来使われると思われる部分(失効見込み等を考慮)は将来に使用分割り引くという(履行義務が)あるのだから、現状と将来ポイント使用部分に売上を割り当てる(独立販売価格を基礎として取引価格の配分を行う)といった感じです。

 この収益会計基準、ほとんど国際会計基準の直訳で、無茶苦茶わかりにくいです。国際会計基準、私の読解力の無さによるものかもしれませんが、ほとんど日本語訳を読んでも頭に入らないです
一方、結構英語の原文を読むとすっきりわかることも多いのですがこの収益基準は英語を読んでも妙に概念的でわかりにくいです。

 ある監査法人の若手はこの新収益基準導入の監査で調書のページ(エクセルのタブ)が数十になったとため息をついていました。とにかく収益会計基準は煩雑かつ複雑、確かに収益認識が国際的に統一されたという功も大きいですし、会計理論的には興味深い点も確かにあります。しかし、社会のニーズを考えると、とにかくわかりにくく複雑になったという罪の部分も小さくはないです。

 イメージとしては世の中は森があったとき、腐っている木がざっくりどれくらいあるのかに興味があるのに、監査・会計の世界は腐っている木を調べるために、枝葉がどれだけ順調に茂っているか細かい基準を設けて、一本一本調べているような感じです。

 あくまでも個人的印象ですがこの収益会計が好例ですがどんどん会計がマニアックなものになって会計専門家以外は意味不明なガラパゴス的なモノになっている感じがします。社会の本当のニーズから離れていっている気がしてならないのは残念です。

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