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コロナ禍で大赤字の出前館は生き残れるか?

2021.10.27 カテゴリ: 企業の業績分析企業経営での留意点経営戦略

1.出前館の大赤字

 出前館の大きな赤字が先日の日本経済新聞などで話題になっていました。2021年8月期は売上290億、営業赤字約180億、最終損失206億と大きな赤字を出しました。特に販管費は311億と売上高より多く一見ビジネスが破綻しているように見えます。

 加えて次期(2022年8月期)の営業赤字予測は500億~550億と今期の売上の2倍近い営業赤字の予測を出し、株式市場でも4日連続で続落、機関投資家などが嫌気売りをしたなどと話題になっていました。

 今、出前館の事業で力を入れているのがシェアリングデリバリーです。これは、出前機能を持たないお店に代わってデリバリー行う事業です。当初は新聞配達員(朝夕の配達時間以外は割と手が空いているうえに地理に詳しい)や飲食店(手が空いている時間に他社の出前もやる)などを使って拡大を図ったのが話題となっていました。現在はデリバリー市場の拡大でかなり積極的にそれ以外の配達員も増やしています。

 ところで、コロナ禍でのデリバリー市場の急拡大、どうしてこんなに赤字が膨らむのか非常に不思議ですよね。そのあたり少し見ていきます

2.大きな赤字の原因

  出前館には時給制のアルバイトと業務委託の配達員がいます。決算資料を見ると固定時給のアルバイトは大幅赤字になっています。注文が来ない待機時間にも時給を払わなければならないのである程度うなずけます。2020年8月の段階ではアルバイトと業務委託の配達員の割合は61%対39%でアルバイトの方が多かったのですが、2021年8月には15%対85%と大幅に業務委託の割合が増加しました。

 では、どうやって業務委託を増やしたのでしょうか?出前館の固定報酬は1件当たり最低650円で他にインセンティブがあります。これは後ほど述べますが、競合のウーバイーツよりも配達員に有利な条件になっています。

 出前館がとる1注文当たりの配送手数料は25%(2021年1月に30%から値下げ)なので2600円の注文があって初めて黒字です。現状は粗利ベースでも利益が出にくいのでおそらく取り扱いが増えれば増えるほど赤字の可能性が高くなります。それでも配達員を囲い込むことに注力しているのです。

 一方ウーバーイーツは新料金体系だと1件300円程度(基本料金)まで配達員の取り分が下がってきました。配達員を囲い込むにはチャンスと出前館は一気に勝負に出てきたということが考えられます。

 現在、出前館の一番の経営目標は利益ではありません。GMV(商品代金+配送料の総額)です。2021年8月期はこの目標の1600億を突破していました。それを支える3つの柱が加盟店数(配送を頼む店)、アクティブユーザー(1年間に1回以上出前館を利用)、シェアリングデリバリーカバー率(全世帯でシェアリングデリバリーで可能な率)です。このうち加盟店数は8.4万件、シェアリングデリバリー率は56%と目標を上回っており、アクティブユーザーも734万人と前年比で187%の伸びとはなりました。

 元々の予測売上280億 営業赤字130億だったので赤字額は膨らみましたが、決して全く想定外の赤字ではないのです。むしろある程度計画されていたのではないかと思われます。ただし、こんな大きな赤字を出しても会社が維持できるのでしょうか?

3.出前館は赤字でも大丈夫か?

 LineとYAHOOの共同持ち株会社ZHDホールディングとNaver Corporation 向けに約800億円の第三者割り当てを行うと9月30日に発表しました。出前館の期末のキャッシュは約102億まで減り懸念されたましたが、900億までこの調達でキャッシュが増えると思われるので550億の営業赤字であっても来年は十分大丈夫です。

 いわゆるソフトバンクグループの力を使い体力勝負に出てきたといえるでしょう。いったんシェアを取ってしまった後はおそらく配送手数料を上げて、配達員に対する報酬も引き下げるでしょう。しかし、これって加盟店や配達員の離反は招かないのでしょうか?

 一方、アクティブアクティブユーザーの数が増えればデリバリーが増え、多少配送手数料が高くても飲食店はボリュームで十分カバーできます。配送員も注文が切れ目なく来れば時間当たりの配送件数も増え、多少1回あたりの配送料が下がってもカバーできるといえるでしょう。つまり、こういった形で全員がすべて得をする体制ができる、この辺りを狙っているのではないでしょうか?

 この体力勝負の陣取り合戦、ソフトバンクのYAHOO BBやPayPayでもソフトバンクが使った作戦と言えます。三匹目のドジョウ、今回も成功するのか楽しみなところといえるでしょう。

 

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