不正を繰り返してきた子会社小林化工をオリックスはどう処分したか?
2021.12.07 カテゴリ: M&A、企業経営での留意点、経営戦略。
目次
1.オリックスによる小林化工の売却とその経緯
後発薬大手サワイグループホールディングスとオリックスの間で12月3日小林化工の生産活動に係る資産及び関連部門人員をサワイグループが譲り受けることで合意されました。この譲渡は2020年12月に発覚した小林化工の不正が原因です。小林化工は2019年の決算では売上370億円 純利益57億円という超優良企業でした。
ところが、抗真菌薬(水虫薬)に睡眠薬が混入し、多くの健康被害を出したとして、過去最長となる116日間の業務停止命令を受けました。GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理に基準に関する省令)に反する違法な製造、品質試験結果の捏造などかなり内容は人々の命を守る製薬会社としては考えられないレベルの不正といえます。
さらに問題といえるのはこういった不正が横行している状況で社長をはじめとする経営陣は事実を把握していながら黙認していたことです。その結果2人が死亡し、200人以上が健康被害を受けています。多分、この健康被害については損害賠償を求められるでしょうているるでしょう
この不正発覚後オリックスが打った手は何だったのでしょうか?
2.不正発覚後オリックスはどのような手を打ったか
この小林化工の不正発覚に伴い5月1日付で当時の小林広幸社長は妻の順子副社長とともに同日付で退任し、小林化工新社長に田中宏明氏が就任しました。この田中宏明氏が就任した時点で実は経済誌などでは事業譲渡かと予測されていました。田中氏は再建請負人とはいわれていましたがこの田中氏のバックグラウンドは事業再編などが得意な弁護士です。いわゆる会社経営の専門家というよりもリストラの専門家ですからある程度予測はできたといえましょう
ここでなぜ事業譲渡かというと損害賠償など法的リスクを抱えているため、株式譲渡は無理といえます。したがって、「生産活動に係る資産及び関連部門人員」の譲渡になったと思わます。逆に言えば小林化工の株式と、生産活動以外のものはオリックスに残ることになります。
これはどうなるのでしょうか?
そして、もうひとつのポイントとしてオリックスはこの買収に伴い大きなダメージを受けたのでしょうか?
3.オリックスは損害を受けたのか?
とりあえず、オリックスの適時開示にはこの小林化工に関する損害についてはありません。少なくとも経営に大きな影響を与えるような損害はなかったといえます。なぜでしょうか。オリックスは2020年1月14日に「小林化工」に過半数を出資と発表しています。
この際、当然デュ―デリジェンス(買収監査)を実施しているはずです。ただし、デュ―デリジェンスで会社のすべてを見ることができるわけではありません。特にGMP違反にについては強制力もある行政も立ち入り調査でも発見できていないのですからそれをデュ―デリジェンスで見破れというのは酷でしょう
ただし、そのようなケースをみこんで用いられるのが「表明保証」です。何度もM&Aを重ねているオリックスが「表明保証」入れてないわけはないでしょう。「表明保証」は例えば財務諸表・会計帳簿が適正に作成されていること、開示されていない潜在負債がないことなど売り手が保証を行い違反した場合は損害賠償責任などが生じるといった条項です
おそらくオリックスといえども薬品製造について製薬会社を超えるノウハウがあるとは思えないので表明保証条項に「GMPに準拠して製造されていること」ははいっていると想像されます。
つまりこれから小林化工の株の購入と製造設備の売却に伴う損害は創業者である小林一族に請求していくことになるのではないかと思われます。そして「生産活動に係る資産及び関連部門人員」が抜けた抜けがらとなった会社は資産を切り売りしつつ清算していくことになるのだと想像されます。抜け殻となった会社は資産を切り売りしながら淡々と会社整理をされていくのでしょう。