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会計と監査は本当に世の中の役に立っているのだろうか?

2021.11.24 カテゴリ: 会計・税務会計監査

1.上場会社監査制度の変容

 上場会社の会計監査にあたって上場会社監査登録制度というものがあります。日本公認会計士協会が上場企業を監査するにあたって、登録業務および
品質管理を担ってきました。現在は、品質管理についは後述しますが金融庁の手に渡ったといって良いと思います。そして今度は登録についても金融庁の管理下におかれるといった観測記事が日本経済新聞等に最近取り上げられました。

 品質管理制度は、公認会計士である会計監査人はそれまで独立して企業の監査を行なってきましたが、粉飾決算を見抜けない例が続出しました。酷い例としては実質監査人が加担しているような例もありました。そこで監査について第三者の目も入れるということで日本公認会計士協会による品質管理レビューが行われることなったわけです。

 ところがその後も会計不正が何件か起こったこともあり、平成16年4月に金融庁による監査法人の検査が始まりました。品質管理にたいして金融庁の目が入ったわけです。私見でありますが私はこの日が「会計監査が死んだ日」だと思っています。マスコミなどではこういった流れを会計監査の厳格化などと称し、前向きにとらえていますが本当でしょうか?

 確かに20世紀、大手監査法人とも言えども古い組織でした。悪く言うといわゆる大手監査先を抱えた「大先生」が組織を牛耳り、中には確かに監査先と癒着していた例もありました。いわゆるカネボウ事件などはその典型です。確かにそういった意味では監査の厳格化は必要だったといえます。

ただし、今はどんどん極端な方向に行っていると思うのです。私見ではありますが述べさせていただきます

2.会計監査と重要性のわな

 会計監査とは何かということを平たく言うと、要するに財務諸表等がちゃんと誤りやごまかしがなく作成されていることを証明することです。そうすると、被監査会社が行っているビジネスをすべて理解して会社の行っているすべての取引をみて、もれなく正しい金額で正しい期間に計上されているかすべてチェックすれば本当はいいわけです。

 しかし、当然被監査会社が行っているビジネスを完璧に理解できないし、すべての取引を見ることはできないです。そこで重要性を判断して、リスクが高いと判断されるところを中心にサンプルでチェックすることとなりますが、ここが曲者です。

 以前、私が、会計事務所に勤めている際、スタッフいじめで有名なマネジャ―がいました。監査で他人のアラを探そうと思えば簡単です。重要性の判断にいちゃもんつければいいのです。重要性が低いからとあまりやっていないところは必ずあります。そこに目をつけて「なぜやらなかったんだ」と難癖つければいいわけです。逆に細かく目をつけて監査を行うと「なんでこんな重要性のないところに時間をかけるんだ」といっていびります。自分もいびりまくられたのでその人との仕事は原則断りました。そこそこ他に仲のよいマネジャーも何人かいて仕事を引っ張ってくれたので特に自分は困りませんでした。さすがにスタッフから総すかんでその人は後日辞めることになったみたいですが。

 金融庁の検査、自分は経験がありませんが、そういった意味で重要性の面でいくらでも指摘は可能です。そして、重箱の隅つつくときわめて評判が悪いです。お役所の検査、このマネジャ―のように「やっていないこと」を探すことが目的となりがち、かつマニュアル主義で形式的、かつやたらと細かい指摘が多いわけです。

3.監査の厳格化の内実

 その結果、会計監査はどうなったでしょうか。とりあえず「やった」とういう証拠を作るのが一番の仕事となったのです。必然的に仕事は広く細かく浅くなり、文書主義でとにかく細かく大量の文書化が求められました。私の顧問先にも会計監査が来たことありますが、現場責任者は部屋にこもってずっと品質管理の審査資料を朝から晩までタイプしていてほとんど顧客とも話しません。

 広い範囲を細かくやるので顧客側は手間と費用が掛かり、一方現場の監査担当者は扱う資料が膨大で残業の山となっています。私の知り合いの公認会計士は朝から晩まで売掛金のチェックをやっていました。被監査先の売掛金と、その取引先の把握している金額の照合を行うのですが、上場企業レベルの大きな取引なので認識のタイミングで差異が必ずでます。ひたすらその差異がゼロに近くなるまで調査して消しこんでいく作業をひたすらやるのです。 別にある程度の金額の差異は想定内ですから、省略することも可能なのですが「なぜ差異があるのに放置した」と指摘されるのが嫌なのでひたすら部下にやらせるわけです。

 一方とにかく広い範囲を細かくやるので深くやる時間がないです。私は顧客側にいますが自分でも気になるような論点があっても話題にならないことも多いです。表面的にやたらと資料だけ集めてでおしまい、でもどうでもも良い論点までやたらと細かく資料求めてどうするんだろうと不思議に思っていました。

 たしかに単純な細かいミスはたくさん発見できるようになったと思います。一方複雑に仕組まれた不正などはかえって見つけることはできにくいと思うのです。今も残念なことに巨額な不正でもそれが見つかるのは内部の通報が多く、会計監査ではないケースが多いです。若手の最近独立した公認会計士に理由を聞くと、とにかく残業が多い、ひたすら書類をチェックして数字を合わせる単純作業ばかり、忙しいのに全然成長を感じないと嘆く方が多いです。

 監査人である公認会計士は「投資家の意思決定に資する」などと言っていますが見ている方向は「投資家」でも「被監査先会社」でもなく品質管理部門とその先にいる金融庁のようです。

4,「監査の厳格化」の結果起こったことと会計監査の未来

 約30年前私が公認会計士をめざしところは公認会計士は夢のある職業でした。当時特に欧米では大学での優秀な若者が行きたがる職は戦略コンサル、投資銀行、大手会計事務所の3つでした。当時の私の同期でも半分以上は単なる会計の世界を抜け出して上場企業の社長・役員や投資銀行の役員、有名コンサルタントなどビジネスのはば広い世界で活躍しています。

 今は会計監査以外のつぶしが効かず、監査法人が嫌で仕方なく独立して細々と会計事務所をやるといったタイプが多くなりました。単純作業をやっているだけなので経理・会計の世界から出るのは監査法人に長くいればいるほど難しくなってしまいます。そして、今回新たな会計監査の厳格化、中小の監査法人の登録について今まで公認会計士協会が登録業務を担ってきましたが金融庁の監督が入ることになるります。特に中小の監査法人は品質管理が疎かなので金融庁が上場会社の監査をする資質があるのか審査するというのが骨子でないかと思われます。大手監査法人ならばとりあえず人手はあるので、役所の求めるひたすら細かく文書を作りまくる事は人海戦術でできますが中小監査法人はそんなことは人手不足で出来ないので「品質に問題が出てしまう?」という単純な話です。

 私見ですが別に役所の目が入って会計監査が良くなるとは思えないです。形式主義的監査とそれに伴う膨大な文書化ががどんどん中小法人も強要されるだけです。こういったことで人手がかかるので監査報酬を大手監査法人も値上げせざるを得ず、中小監査法人に流れる上場企業も出てきました。しかし、金融庁の管理が中小監査法人にもいきわたるとこの流れも変わるでしょう。私個人の濁った目かもしれませんが、大手監査法人がほぼ意思決定を支配している日本公認会計士協会と中小監査法人にも天下り先を作りたい金融庁の利害はこの点ではピッタリ一致しているとも言えます

 この金融庁による監査法人支配により監査法人への金融庁からの天下りが始まりました。五味金融庁長官がPWC総合研究所理事長に天下り、金融庁の名物検査官の佐々木氏が監査法人トーマツのシニアアドバイザーに天下りなど天下り先は増えました。こんどは中小監査法人も「品質管理を徹底させるため」金融庁の天下りを打診されるでしょう。

 IFRS(国際会計基準)の導入による時価会計を中心とした動きも会計処理は正直ほとんどの人が理解できないような複雑でマニアックなものになりつつあります。TCFDを中心とした地球温暖化の監査も始まりそうで監査の世界はドンドン広がりつつあります。しかし、これもドンドン難解で理解しにくいものになっています。本当は企業が様々なステークホルダーも理解できる重要な財務情報を中心とした情報を開示し。公認会計士は適正に作成されているか監査証明を出すという極めてシンプルな図式のはずですがその中身がドンドン必要以上に細かく複雑化してきています。

 会計や監査がどんどんあるべき姿から離れて巨大化・複雑化していっているような気がしてなりません。図体が大きくなりすぎた恐竜が死滅したように会計や会計監査も必要以上に細かく複雑化して突然死しないかと正直恐れているのは私だけでしょうか?

 

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