グレイステクノロジー粉飾決算の恐るべき手口とは
2022.02.09 カテゴリ: 会計・税務、会計不正、会計監査。
目次
1.グレイステクノロジーの呆れた粉飾とは
2022年2月28日に滝川クリステルを使ったCMなども行っていた東証一部上場グレイステクノロジーが上場廃止になることが発表されました。この企業、企業の技術マニュアル作成、マニュアル基幹システム「e-manual]の販売とそのコンサルティングで成長2016年12月東証マザーズに上場、2018年8月に東証一部上場となりました。
しかし、マザーズ上場前から売上の前倒し、架空売上が始まっており、2021年3月期には約18億の売上のうち架空売上が10億近くというほとんど実在性のない取引だけで構成されていると
いうかなり悪質な粉飾決算のケースでした。創業者で代表取締役でもある松村幸治氏は2021年4月に逝去されたことで一気に今まで隠れていたものが表に出てきたということでしょう
なぜこんなことが行われたというとこの創業者の売上至上主義とコンプライアンス・ガバナンス軽視の姿勢です。こんな会社は上場されたら世の中の迷惑でしかありません。経営会議は、創業者が目標を達成しない営業社員を罵倒する場でしかなかったようです。以下は「不正調査報告書」に記載されていたこの創業者の語録です。
「この世は算数でできている。」「寝ても覚めても数字を考えろ。ほかのことなんか一切考えるな。」「売ってナンボ。売れば全て OK。単純だろうよ。くだらないことぐちゃぐちゃ考えるなよ。」「自信もねえわな、いいものを納められる。そんなもんいるか、営業に。まず売って考えるんだろうよ。」
売上至上主義で完全なパワハラ、役職員及び社外役員もほぼ創業者の言いなりで誰も逆らえない状況でした。ではどんな粉飾決算が行われていたのでしょうか?不正調査報告書を見て簡単に
ポイントを記載してみます。
2.粉飾の手口
まずは前倒売上から始まりました。納品が完了していなくても顧客から納品を証する「受領書」を入手して売上計上することが横行していました。その後制作部が制作を続行し後日納品して正式な請求書を出して回収するわけです。
当然、前倒売上をすると、翌期の売上はその分少なくなります。もし実際に売り上げが成長していないのにそのように見せかけようとするにはどんどんエスカレートさせるしかないわけです。そこで架空売上げに走ったわけです
様々なパターンがあるのですべては話しませんが最初は引合いがあった段階で受領書など売上関係書類を偽造したものの結局失注してしまったため結果的に架空売上となったものですその後は、最初から架空売上を立て始めました。ただ、一番問題となるのは資金の回収です。そのために何をしたかというと経営陣が自己資金(新株予約権により取得した自社株の売却代金)で顧客の名前で送金するというパターンです。典型的「腹切り営業」になっていました
この新株予約権行使は厳しい業績達成の行使条件が入っている一方行使価格低めでした。そこでこのような無理な予算達成による株価の上昇⇒多額の新株予約権行使益⇒架空売上の原資といった一種のスパイラルが維持されていたのです。よく考えてみると単なる自転車操業です。
ここで出てくるのがこの半分以上の売上が架空という決算書に無限定適正意見を出した監査法人は何をやっていたのかという話です
3.監査人は何をやっていたか
まず、前提として社長のもと一致団結して粉飾をされると発見はかなり難しいです。なぜならば、書類や証言のつじつまはあうのです。会計監査人が不正を発見するのはこういった書類や発言の矛盾をついて発見していくのですが一致団結されると強制捜査の権限はないので難しいといえるでしょう。
会計監査人をどうやって欺くかということですが、まずは、担当者どおしで綿密にすり合わせを行い口裏を合わせることです。架空売上げの場合売上から回収まで長く時間がかかるため会計監査人から何度となく説明は求めらたようですが、口裏を合わせ、かつ偽装工作もかなり念入りでした
架空売り上げの送金も顧客のある地域の銀行まで行って送金、リース会社経由の取引も顧客との契約が長引いているなどの言い訳をしました。監査人は顧客に確認状を出します。もし架空売上であれば顧客からの返答と一致しないはずです。これも直接顧客の担当者と交渉して偽装工作を行っていました
監査人も疑義を抱いていたようで納品物の確認も行いましたが、すり替えることで欺いていました。顧客の偽装のメールアドレスを使いやり取りも作って監査人に見せていたようです
かなり会計監査人も疑義を抱き、いろいろ突っ込んで調べた形跡はあるのですが、なかなか尻尾をつかませなかったといえるでしょう
ただ、ひとつ気になったのは、KAM(監査上の主要な検討事項)です。売上計上について一切述べていないのはなぜでしょうか?ここでは、監査を行う際に特に重要と考えて事項を記載するはずです。ここまで売上計上についてぎりぎりまでもめたのであれば記載すべきではなかったのではないでしょうか?
ただし、少なくとも会計監査人がおざなりだったりなれ合いだった監査をしていたということはないと思われます
4.不正会計をなくすには
一部の記事では監査法人の人手不足や働き方改革、試験の容易化による会計士の能力の低下などが挙げられていました。
私見ですが、監査の厳格化などと言って監査の品質管理が叫ばれて不正会計が減ったということはなく、かえって増えているとしか思えません。確かに品質管理で20世紀にはあったような
監査人と会社のなれ合いによる鐘紡事件に代表されるような不正会計のパターンは減りました。しかし、このケースのように社長自ら旗を振って全社的に行われる不正会計を見つける力は
確実に弱まりました。
私自身、上場会社の監査には直接携わっていないので断言はできませんが、コンサルタントとして、監査人に対峙したり、若手の監査法人の方とざっくばらんにお話した際の印象からすると
根本は形式的厳格化と思っています。とにかく「監査を実施する」時間よりも「実施した監査の説明資料」作成の時間の方がはるかに時間を要しているようです。品質管理が「お役所的厳格な形式チェック」なので、説明資料や監査調書の形式を整えるのに時間がかかって本来の監査の時間や監査先の担当者と侃々諤々と話す時間は減少しているようです
こういった現象に嫌気がさして有望な若手から辞めていくような状況が続いている状況、人でも足りなくなります。私の印象も、監査法人の方はほとんど執務室に閉じこもってひたすら書類とにらめっこかぱちぱちとパソコンをうっている時間がほとんどです。こういった、不正会計の続出によってまた「形式的品質管理」の厳格化に拍車がかからないことを祈りたいです