ブログ

HOME > ブログ > 企業経営での留意点 > M&A > コロナ禍をしのぎ切ったTKPのレジリエンスとは

コロナ禍をしのぎ切ったTKPのレジリエンスとは

2023.02.24 カテゴリ: M&A企業の業績分析企業経営での留意点

1.コロナ禍で暗転したビジネスモデル

 少し前に貸会議室最大手のTKPの第3四半期の決算が発表され売上386億経常利益23億とほぼ回復傾向を見せ始めました。貸会議室のビジネスモデルは比較的空き室の多いビルを借受けて貸会議室としてリニューアルして貸し出すというものです。比較的安い賃料で借り受け高収益化させるわけです。

 TKPは2020年まで増収増益、2020年2月期売上543億、経常利益47億を達成しました。ただ、よく見ると単なる貸会議室ではなく、付加価値をつけてアップセルも行っているという業態です。コロナ前、実は貸会議室の室料は売上の48.3%、オプションである料飲・宿泊が40%程度の売り上げ(2020年2月期)を占めていたことがわかります。

 そして、経営手法としてはわりとイケイケのビジネス、有価証券報告書をみると2016年から2020年まで営業キャッシュフローはプラス(つまり本業ではしっかり稼げている)ものの投資キャッシュフローが大きくマイナスでいわゆるフリーキャッシュフローはマイナスが続いています。それを財務キャッシュフローで補っている状況です。つまり成長資金をバンバンづぎこんでM&Aなどもやってキャッシュ収支はマイナス、それを借入や増資などによってしのいでいたのです。

 ところがコロナ禍でこの成長が大きく暗転します。こういったイケイケの会社、コロナ禍のような急激な落ち込みにはもろい傾向がありますがどうやってしのいだのでしょうか?

2.どうやってしのいだのか

2020年1月31日のWHOの緊急事態宣言以降企業からの会議室の予約のキャンセルが相次ぎました。特に大型宴会場を含む会場は顕著でした。その時、現預金は約60億で毎月の支出は30億で2か月分の資金しかない状態でした。月間売上げが40億近い中、政府が緊急事態宣言を発令すると10億まで激減しています。

 ポイントは素早い資金手当てだったでしょう。すぐに、銀行からコミットメントラインや当座貸越契約で200億近い資金を確保するとともに不動産の売却などで360億程度、いわゆる1年分の運転資金を確保することができたことは大きかったといえます。

 また、コロナ中、貸しオフィスであるリージャスが下支えをしました。長期契約なのでコロナ禍ですぐ解約ということもなかったようです。リージャスのビジネスモデル、ストック型です。会社の決算資料によると当初は賃料>オフィス使用料で当初は赤字が続きますが一定の稼働率(会社決算資料では45%)を超えると損益分岐点を超えその後は安定的に利益が出てくるビジネス、時間はかかるが確実に利益を生み出します。

 一方本業の貸会議室ですが不採算施設の退店で年間50億程度のコスト削減を図りました。また、新たな用途として大学が教室の外部貸し出しを止めていたので資格試験などの会場需要を探りました。そして、新型コロナの職域接種会場として提供、当初は無償で提供ですが、のちには収益源になったと思われます。

 その結果、2021年2月期売上は431億と前年比20%減で経常損失35億、2022年2月期は売上446億、経常損失32億と苦しいながらもしのぎ切りました。このあたりの努力はキャッシュフロー計算書を見るとよくわかります。固定資産の売却や解約による敷金の返還などで今まで大きなマイナスだった投資活動によるキャッシュフローをプラスにしていることからも、うかがわれます。

3.今後の展望

 コロナがある程度収束後、TKPは今年の1月にリージャス売却を発表しました。売却価額は382億で三菱地所に、台湾リージャスはIWG(オーナー)に売却、67億の特別損失計上でいわゆる損切りといえます。コロナ禍では収益の下支えとして、リージャスは役立ちました。しかし農耕的ともいえるリージャスとどちらかというと狩猟的なTKPではカルチャーやスピード感の違いがあり埋めきれなかったのではないかと想像します。この辺りの損切の見切りの速さ、結果はどうでるにせよオーナー系の強さと言えるでしょう。

 財務的にも、ざっくり有利子負債が200億減って200億現金預金が減ってBSが健全化、重いのれんの償却(約20億)もなくなります。貸会議室とは違い完全なオフィス使用だと初期投資がかかり、そもそも「持たない経営」というTKPのポリシーにも反します。加えて、良い面も悪い面もありますが、リージャスというブランドを守るためにイギリスのフランチャイザーであるIWGからオフィスの構成にしてもいろいろな注文が入り経営の自由度が低かったのではないかとも想像できます。

 財務的な健全性が増したところで、おそらく拡大路線に復活していくものとみられ、次にどのような手を打ってくるのか楽しみな会社ではあります。

 

 

 

お問い合わせはこちらまで

TOP