ブログ

HOME > ブログ > 会計・税務 > 会計不正 > 監査の厳格化に対する超私見ー本当に会計不正はなくなるか?

監査の厳格化に対する超私見ー本当に会計不正はなくなるか?

2023.04.14 カテゴリ: 会計・税務会計不正会計監査

1.相次ぐ中小監査法人への処分

 今年の4月より改正公認会計士法が施行され、上場会社監査事務所登録制度が始まります。上場会社の監査を行なう事務所に対してガバナンス・コードの受入れなどの体制整備や情報開示の充実を規律付け、それができていない場合は登録を取り消せるようにすべきとしています。最近大手監査法人から中小監査法人に監査対象が移りシェアが大きくなりつつありますが、中小監査法人の中にはが体制が整わず監査がずさんな法人が存在する、したがって「監査の厳格化」で会計不正などが防止できるのではと日本経済新聞など大手マスコミはこういった流れに対し好意的といえます。

 

 確かに、金融庁の公認会計士監査審査会の検査では、運営が著しく不当として今年の1月にひびき監査法人、3月に赤坂有限責任法人と相次いで中小監査法人に対し処分が勧告されました。令和3年事業年度までに終了した中小監査法人に対する検査23件のうち著しく不当が8件、良好でなく特に早急な改善が必要6件、改善すべき点があり良好でないが6件、要するにほとんどの中小監査法人がダメだしをもらっていると言えます。

 やはり中小監査法人、監査がずさんで問題が多いのでしょうか?少し処分の内容を見てみました。

 

2.処分の内容は

3月17日に赤坂有限責任監査法人に対する検査結果ですが、運営が著しく不当で行政処分の勧告です。その「著しく不当」な内容は以下です。

・法人運営に関する重要事項、社員間で十分な審議検討がなし

・個別監査事項に対し品質管理担当を含む他の社員が批判的に検討する姿勢が欠け

・監査品質を重視する意識が薄い

・品質管理体制として、監査チームの業務執行社員との討議や関連する監査調書の検討を十分にしないまま監査チームの重要な判断とその結論には問題がないものとしている

・被監査会社の特性に応じたリスク評価を適切に実施していない

・職業的専門家としての懐疑心を十分に発揮していない

・業務執行社員や補助者は監査基準を形式に適用、監査基準や監査の基準が要求する検査手続きの水準に対する理解が不足している

・個別監査手続きで検討が不十分といった重要な不備が認められる

 簡単に言うと法人内はバラバラ、監査も十分ではなくそれをチェックすべき品質管理もずさんとこの文章の通りだったら確かに目も当てられないような状況です。少し監査というお仕事の仕組みのさっくりとした解説をしながら中身を見ていきます。

 

3.監査の厳格化とは

 監査をする際、当然状況会社の決算書類や経理処理をすみからすみまですべてチェックすることができないです。そのためリスクアプローチ、つまり被監査会社の特性に従ってリスクが高い分野を定め、そこを重点的に監査するといった手法がとられます。そして、リスク評価や、こういった監査で入手した証拠やその判断を監査調書に記載、それを第三者である品質管理担当部門が審査をしてその判断の妥当性をきちんと監視するという仕組みがあります。この品質管理はよく言われる被監査会社と監査人の癒着を防ぐ効果があるといえます。

 前述した赤坂監査法人では要するにこういった仕組みが中小監査法人ではずさんであると一刀両断しているわけです。監査チームを率いて現場で仕事をしたことはありますが、監査法人の運営自体、自分は携わったことが無いので監査法人の運営に関する問題は何とも言えないです。

 一方、個別の監査に対する主な金融庁検査の検査結果の報告書を読むと気づくこと、それは要するに十分な監査手続きがなされておらず「十分かつ適切な監査証拠」を入手していないというのがおおむねポイントとなっています。

 前述したリスクアプローチによって、リスクが高くない分野はある程度簡易な監査手続きで済むかというとそのようなことはないかもしれません。「リスクが高くない分野において監査手続きが十分であるか慎重に検討」する必要が求められており、これは指摘事項でもよく見られました。他人事で見るとなるほどねとは思うのですが、実際に監査の現場の担当者の受け止め方はどうなのでしょうか?

4.疲弊する現場担当者

 ここからは、何人かの大手監査法人の現場担当者から聞いた愚痴です。何人か聞いた意見ですが、バイアスがかかっている可能性はあるのでその点はご容赦ください。ただ、みないうことは、とにかく些末な監査の論点でも「検証したのか?」と上司に手続きと監査調書へ記載をひたすら求められます。加えて、リスクが高い分野には「十分かつ適切な監査証拠」を入手したかが、徹底的に問われます。そもそも監査は「悪魔の証明」、いわゆる重要な虚偽記載や不正が財務諸表に「ないこと」を証明するので、手続きは無限大に存在します。

 その結果、当然担当者はクライアントである会社に大量の資料をお願いして検証しないといけないわけです。しかし、会社側も何でこんなに無駄と思われるような大量の資料が必要なの?という対応になりがち、本人も上司に言われて仕方なくという感じでもやもやです。当然資料準備作業は膨大となる会社にも感謝されない、本人も非生産的で膨大な作業に嫌気がさす、残業もすごく多くなる・・・で結構メンタルやられる人が多いと聞きました。

 要するに監査の本来の目的である財務諸表に不正や誤謬による重要な虚偽記載がないかではなく、金融庁検査が来た時指摘されない監査調書を作成することが目的になってしまっているようです。

 むしろあまりにもやらねばならない続き・作業が膨大なため、むしろ巧妙に仕組まれた不正などは発見しにくいのではという意見もありました。この辺り、現在私は監査の現役ではないのでよくわかりません。

 しかし、我々のころと比べると監査担当者は被監査会社の人と話すよりひたすら部屋にこもって資料とパソコンとにらめっこしかしていない印象は強いです。いかにも非科学的な職人的な話ですが、私が現役の監査人だったころ恣意的な会計処理などは単に数字を見るだけではなく、確かに会社の人と話した時の雰囲気やしぐさから怪しいなと思って調べて発見したこともありました。

 監査の厳格化、日本経済新聞などは比較的好意的にとらえ今まで中小監査法人の監査がずさんだったというような書きぶりですが本当にそんな単純な話なのでしょうか?ガチガチなお役所的書面主義で組織的な会計不正が見抜けるようになるわけでもなく、会社の経理部門はやたらと業務が増え、監査法人の担当者は疲弊して辞める、監査法人の経営陣も人員不足に頭を痛め、金融庁だけが焼け太りで一人勝ちと思うのは私だけでしょうか?

お問い合わせはこちらまで

TOP