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セブン&アイとバリューアクト対立の本当の原因

2023.05.05 カテゴリ: グローバルビジネス企業の業績分析企業経営での留意点

1.物言う株主とは

 2020年からセブン&アイの株主として、「物言う株主」であるValue Act(以下VA)とセブン&アイホールディングス(以下セブン&アイ)」の論争が昨年くらいから新聞などをにぎわしています。さて、まず「物言う株主」とはどういった人たちなのか見ていきたいと思います。

 多分一緒にされるとお叱りを受けるかもしれませんが、日本には総会屋という方々がいてこれが物言う株主の日本における元祖でしょう。ただ、総会屋さん、一般的には経営そのものに対してではなく経営陣のスキャンダルなどをつかみ、「株主総会で発言するぞ」と脅して、高額の機関紙などを売り込む、暴力団のフロント系の方々が多かった気がします。会社法120条にあるようにこういった特定株主に対する利益供与は禁じられ、その他総会屋対策の法令が整備されたので「総会屋」はほぼ死語になりました。

 その後に出てきたのが「グリーンメーラー」、別に経営する気はないのに株式を買い占め、会社およびその関係者に対して高値で買取りを要請する人たちです。有名なのは小糸製作所事件でのブーンピケンズ氏で、トヨタ系自動車部品メーカー小糸製作所の株を買い占め問題となりました。ただ、やはりこのような強引なやり口は各方面から批判を浴び、日本でも5%ルールなどができ、ひそかに株を買い占めるといった活動ができなくなりました。

 そして、今活躍している物言う株主は「アクティビスト」といわれ、株式取得数は多くなく、投資家重視を訴え経営改善を求める方々です。最初は単なるリストラを含む再編、増配、自社株買いの3点セットを主張するだけの人たちで、近視眼的で短期的なる利益だけを追求しているとみられていました。ただ、近年はかなり詳細な財務面だけでない経営全体の分析・提言を行い、他の機関投資家などの賛同を得ていく穏当な方式のアクティビストが誕生、バリューアクトはその系列といえます。

 

2.セブン&アイvs. バリューアクト

 セブン&アイ、コンビニであるセブンイレブンのイメージが強いですが、傘下にイトーヨーカ堂ヤヨークベニマルなどのスーパーマーケット、セブン銀行などの金融業、ロフトなどの小売り、デニーズなどのファミレス、そして現在売却交渉をしているそごう西武などの百貨店業と多岐にわたるコングロマリットです。

 VAからは様々な質問が来ていますが、根本的な内容はコンビニ業であるセブンイレブンに絞った方が株主価値は向上するのではないか、現在コングロマリット体制を維持するようにみえる意思決定がされているが、これは正当なプロセスでされているのかということになります。

 現在、多種多様のビジネスを傘下に置くコングロマリットの評判は投資家の評判は非常に悪く、「コングロマリットディスカウント」という言葉は極めてよく使われるようになりました。本来コングロマリットが成立する要件はシナジー、いわゆる各ビジネスが有機的に組み合わさってより高い価値となるということです。いわゆる1+1+1=5とか6とかになるということです。しかし、実際にはコングロマリットディスカウントによって、1+1+1<3になってしまうというのがVAの主張です。ただ単に、うまくいっているビジネスがほかの儲かっていないビジネスの失敗をカバーしているだけというわけです。

 直近の決算短信をみるとコンビニ業のセグメント利益は5217億円、営業利益は5065億円ですから約103%の利益はコンビニ業です。特にイトーヨーカ堂は税引後、前期は112億、今期は152億の損失でかなり業績の足を引っ張っています。とりあえず数字を見る限りVAの主張は正しく見えます。

 一方セブン&アイにおいて、意思決定には外部取締役のみからなる戦略委員会を設置して、「グループ戦略」の実行・進捗をモニタリングしていくということなりました。しかし、VAとしてはそもそも「グループ戦略」自体、どれだけ外部取締役が意思決定に関与したのか不明、経営陣の現状維持バイアスが「グループ戦略」には強く反映されているのではないかと意見を述べています。

 このような対立どちらに分があるでしょうか?以下は個人的な見解です

3.対立のポイントは

 こういったVAの疑問に対する回答をセブン&アイグループは4月18日に行いました。一読をした印象ですが、ストレートにVAの疑問に答えるのではなくざっくり言うと「私たちは頑張っています。だからもう少し時間くださいね」という回答に思えました。

 確かに、コロナ禍も耐え抜き、(米国のガソリン高騰というラッキー面もありますが)増収増益で経営成績も決して悪くはないです。そして取締役会の構成も大幅に変え社外取締役の数も増やしました。グループ会社の整理も少しずつですが、手を付けてはいます。一般的な日本の大企業の水準からいうと頑張っているといえるでしょう。

 ただ、VAは投資家目線で一流グローバル企業水準を要求しているといえます。そういった意味で資本効率性についてはただ一枚ROEとROICについて以前より改善させると簡単に述べているだけです。ROICについては事業別の数値も出すことは可能ですので、もしきちんとVAの質問に答えるとしたら事業別のROICと事業の成長性やその事業のシェアや規模などの2軸、3軸などのマトリックスできちんと各事業の位置づけと今後の戦略を丁寧に示すべきだったでしょう。

 改定されたコーポレートガバナンスにおいても「ポートフォリオに関する基本的な方針や事業ポートフォリオの見直しの状況についてわかりやすく示すべきである」と書かれています。そういった意味では正直はぐらかし感あります。グループシナジーに関しても食を中心とした結びつきがセブンプレミアムの商品開発などを例に簡単に説明されていますが、VAが求めているようなグループシナジーの定量化などは明らかにされていません。

 VAのターゲットは戦略自体ではなく、自社グループの方針・戦略を明確に示せない井阪社長のリーダーシップの欠如になっているようです。日本の事業会社のトップとしては素晴らしいのかもしれませんが、(私ごときが申し上げるのは僭越ではありますが)グローバルグループのトップとしては説明責任をきちんと果たせないという意味では役不足という見方もできるかもしれません。

 どうしてストレートにVAの質問に回答できないのか?ということですが、なんとなくイメージはあります。コングロマリットなのですが、コンビニ業とそれ以外、ほとんどコンビニ業が価値創造している一方、それ以外があまりに多岐にわたるという状況です。株主価値を上げるためには何をしたらよいかはVAの言う通り一目瞭然ですが、どうやってのこれを整理したらいいのというHowの部分で悩んでいる、そんな感じかなと個人的には思っています。

 

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