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セブン&アイHDの事業再編の死角とは

2024.06.01 カテゴリ: グローバルビジネス企業の業績分析企業経営での留意点

1.セブン&アイHDの事業再編

 セブン&アイHD,このところ再編がらみのニュースが話題となっています。4月10日には「当社グループの企業価値・株主価値の最大化に向けたアクションプラン」を公表し、イトーヨーカドーの株式売却によるグループからの実質的な切り離し、5月9日にはニッセンHDの株式売却とどんどんグループの再編を進めています。この背景は何なのでしょうか?

  2024年2月期の決算短信、セグメント報告書を見るとセグメント自体は国内コンビニ、海外コンビニ、スーパーストア(SST;イトーヨーカドー、ヨークベニマル)、金融関連(セブン銀行)、その他の事業(ロフト、赤ちゃん本舗、デニーズなど)5つありますが、営業利益の91%は国内と海外のコンビニ事業から得ています。

 加えて、有価証券報告書で事業の内容を見るとびっくりするくらい各事業の関係性が薄いです。すべてのセグメントと有機的に関連しているのは金融事業くらい、実際に社外役員で構成される戦略委員会に置いて明確にシナジーについて言及しているのは「グループにおける小売×金融のシナジー最大化」と述べられている金融業だけです。

 グループの戦略としても以前の「総合小売業」から『「食」を中心とした世界トップクラスのリテールグループへ』に代わっており、実はその頭言葉として「セブン-イレブン事業を核とした」とあり、ほぼコンビニ業のみで将来に向かって歩んでいることを戦略会議で宣言しています。

 いわゆるモノ言う株主であるバリューアクトからも、イトーヨーカドーの分離およびコンビニ業への集中は以前から言及されていたので結局はその方向に向けて動いているといえます。そうすると結局イトーヨーカドーなどはどうなるのでしょうか?

2. イトーヨーカドーはどうなる

 そごう・西武もそうでしたが、イトーヨーカドーについてもひたすら縮小均衡の日々だったといえます。イトーヨーカ堂の10年前2014年2月の店舗数は179、2024年2月末現在123店舗そして30店舗を今年度閉鎖予定なのでほぼ2025年2月期で半減となります。

 洋品店であった本当の祖業である自社アパレルからは撤退し、アパレルメーカーであるアダストリアが「ファウンドグッド」の名称で衣料品を提供することとなり、テナント業以外は食料品に注力する方向となりました。 前述の戦略委員会においてもSST事業はセブン&アイグループから分離され、IPOに向けて進んでいくことが決定されています。

 一方で、セブンイレブンジャパンの平均日版は他のコンビニ競合他社と比べ30%程度上回っており、その源泉は特にイトーヨーカドーの食品に関するサプライチェーンや品ぞろえ、マーチャンダイズのノウハウによって支えられていることは表明しています。したがって、ある程度の連携関係を残すために一定の資本と業務の提携関係は残していく形になり、おそらく15%~20%程度の株式持分まで減らしていくことになるでしょう。

 会計上の話ですが原則的には50%以下の持分であれば、連結から外すことができます。これはどういう意味を持つかというと資産・負債、損益も株式持分に対応する部分だけになるので、それだけでROEなどの、資本効率性は上昇するといえます。

3.資本効率での本当の問題点

 ただし、SST事業を切り離せば物言う株主が満足するレベルに到達できるかというと私はそうは思いません。バリューアクトなどの物言う株主の主張を見るとコンビニ業務に集中すべきということ以外に、実はコンビニ業務自体の資本効率性は決して彼らの満足水準ではないことがわかります。その主たる原因は実は一見稼ぎ頭に見える国際業務です。

 ROIC(投下資本利益率)で国内コンビニ業務と海外コンビニ業務を比べてみます。ちなみにROICは税引き後利業利益を投下資本(運転資本+事業用固定資産)で割ったもの、要するに資産をうまく活用できているかの指標です

 すると国内コンビニ業務は2024年2月期で21.9%とかなり良い数字をあげていますが海外コンビニは5.6%であり資本効率性で実は大きく劣っています。その理由の一つとして米国での買収においてフランチャイズではなく自社物件を持っていたので資本効率が悪くなったということがあげられます

 ただし、北米を中心にコンビニエンスストアのサークルKなどを展開しているクシュタールという企業があります。ほぼ形態はセブンイレブンの北米と同様で、フランチャイズではなく自社物件が多いです。この会社自体はROICを公表しておりませんが、様々なアナリストが計算している資料を見ると直近で11%程度と大きくセブンイレブンの海外コンビニ事業のROICをはるかに上回っています

 どのようにしてスーパーストア事業をIPOさせるか、その他のセブン銀行を除く子会社群の整理はどうするかという課題は残りますが、ある程度整理という面での方向性はついてきたといえます。

 実は海外コンビニ事業の効率性、特に資本効率性をどうするか、現在はフードの充実と様々な効率化に手を打っているようですがこれがどれだけ、資本効率性に寄与するかがむしろこれからの業績を見るうえでの注目点といえます。実は本丸は国内会社の再編ではなく国際業務、特に北米なのです。

 

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