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減資による大企業の税金逃れの穴を税務当局はいかにして塞いだか

2024.01.19 カテゴリ: 企業経営での留意点会計・税務経営戦略

目次

1.減資する大きな会社とそのメリット

 コロナ禍以降、減資をして資本金1億にする大企業が相次ぎました。比較的最近では、HIS、JTB,スカイマーク、グリー、ぐるなび、出前館、ジャパンディスプレイ・・・などです。結構新聞などでもたたかれていて、「06年度から21年度の間に、資本金が、課税対象外の上限となる1億円ちょうどとなった企業が約4000社に上ることも、課税逃れの横行をうかがわせる」(11月23日 読売新聞)などです。

 実は、11月くらいから一斉に大手新聞でこの問題を取り上げられ始めました。何かきな臭い雰囲気は薄々感じていました。多分想像ですが、自民党の税制調査委員会で議論されていることもあるのでしょうが、財務省や総務省があえて記者に書いてくれと意図的にいろいろな情報を与えていて世論喚起をして地ならしをしていた感は強いです。

 さて、税務の世界において資本金で分けられている規程が多いです。ざっくり、大法人は資本金1億円超、中小法人は1億円以下となります。中小法人のメリット、様々な税制の優遇措置がありますが、おそらく大企業で減資をする企業が狙っているのはこの2つでしょう。事業税の外形標準課税(付加価値割り)と繰越欠損金の100%控除です。

 それでは簡単にそれぞれお話ししましょう

2.繰越欠損金と外形標準課税

 繰越欠損金の話ですが、例えば今まで繰越欠損金が3億あったとすると、今年の所得が4億だとしても、今年の課税所得は4億-3億=1億として計算できます。したがって、今期の所得が3億円以下であれば法人税は原則払う必要がない(外形標準課税、均等割り除く)ということになります。

 しかし、資本金1億円超の大企業だとそれが所得の50%しか許されません。つまり今期の所得が4億、繰越欠損金が3億とすると、所得4億であればその50%の2億しか認められず4億-2億=2億が課税所得となります

 私の記憶が正しければ、大手銀行がバブル崩壊で多額の繰越欠損金があったため、しばらく好決算でもほぼ法人税がゼロに近い状態が続いていて、マスコミなどでも話題になっていました。これがこの所得の50%のきっかけになったと思います。

 一方の、外形標準課税ですが、地方事業税の付加価値割といわれているもので

(報酬給与+純支払利子+純支払家賃+単年度損益)x1.2%(報酬給与は一部控除あり)で計算されます

 簡単に言うと赤字でもある程度の規模がある会社は納税しなければいけないというもので、業績が悪化した規模の大きな企業にとってはなかなか厳しい税制といえます。考え方としては、地方税なのである程度従業員や設備を持っているということは地方公共団体からそれなりの便益を受けているのだから税金で返しなさいよという考え方でしょう

 この2つの規程を減資して資本金を1億円以下にすることによって逃れた大法人が数多くあったということです。

3.今回の税制改正での穴のふさぎ方

 さて、今回の税制改正では、2つの穴のうち外形標準課税についてふさぎました。内容は前事業年度に外形標準課税の対象であった法人のうち、その事業年度に資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超えるものは、外形標準課税の対象とする改正となります。

 要するに資本金を資本剰余金に振り替えるような形式的な減資をして外形標準課税を逃れようとしてもダメですということです。このような改正があると駆け込みで改正の施行の前にやってしまえという行為が横行します。それをふさぐために、「公布日を含む事業年度の前事業年度(公布日の前日に資本金が1億円以下となっていた場合には、公布日以後最初に終了する事業年度)に外形標準課税の対象であった法人」はこの規程が適用されるとしました。つまり、駆け込み減資やっても外形標準課税は容赦しませんよという非常に厳しい内容です。

 公布日はおそらく令和6年3月31日なので、3月決算法人であれば令和5年3月31日の決算時点で外形標準課税対象であれば今から減資しても新しい規程が適用されて、引き続き外形標準課税が適用されるということになります。

 ただ、上記の規程に引っかからないもうやってしまった企業は遡及されませんので、やはり税金の網目を逃れるなら早めに対処しないとふさがれるよという典型的な事例だなとは思います。

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