なぜスクウェア・エニックスの221億円の廃棄損を計上したのか
2024.05.08 カテゴリ: 企業の業績分析、企業経営での留意点。
目次
1.スクエニのコンテンツ廃棄損
株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス(スクエニ)が4月30日以下のように約221億円の特別損失を計上するという開示を行いました。
開示によれば「当社グループを取り巻く多様な環境変化に照らして開発リソースの選択と集中を企図し、2024 年 3 月 27 日開催の取締役会にて、HD ゲームタイトルの開発方針の見直しを決議致しました。その方針 を受け、当社グループが開発中であったパイプラインを精査した結果、2024 年 3 月期にコンテンツ 廃棄損として、約 221 億円を計上する見込みです。」とのことです。
ただし、むしろ株式市場では選択と集中が進み、利益が高いところにリソースを割くのではという見方から一時は6.1%高まで株価は上昇しました。
スクエニのビジネスの中心はいわゆるゲームソフトの売上で全体の売上の約7割をしめますが、ここ3年ゆっくりではありますがこのセグメントの売上、営業利益とも3年連続(2021年度売上2720億円営業利益577億円2022年度2523億円482億円、2023年度2408億円332億円)と下降傾向にありました。
今回メスを入れたのはHDゲーム、いわゆる高解像度の家庭用ゲームの開発です。スクエニはドラゴンクエストやファイナルファンタジーなどの人気タイトルを持っていることで有名です。
他にPCブラウザやスマホ等でのゲームやMMOゲーム(オンライン上で多数が同時参加して行うゲーム)などの提供も行っていますが、やはりじわじわと減少傾向にあり嫌なトレンドが続いていたといえるかもしれません。
2.コンテンツに関する会計処理
ゲームのコンテンツの会計処理ですが、ゲームの開発はそれぞれ開発プロジェクトとして管理し、ゲーム完成までの開発費はコンテンツ制作勘定として計上され性質としては製造業の仕掛品のような取り扱いとなっています。
直近の第3四半期でこのコンテンツ制作勘定は933億円ありましたので2割強程度は開発を中止して、それまでにかかった費用は損失として認識したといえます。
ただし、決算期において毎回評価を行っているはずです。方法は投資会議でプロジェクトごとの正味売却価額(将来の売上予測から追加開発費等を差し引いた額)とコンテンツ制作費を開発プロジェクトごとのコンテンツ制作費と比べて、正味売却額の方が低い場合はそこまで評価減をしています。つまり各ゲームの採算性は厳密に管理されていたといえます。
3.廃棄損から見えてくること
上記より採算がマイナスのものについて、評価損はすでに計上されている仕組みとなっているといえます。したがって、今回廃棄損を出したというのは赤字ではなくても低採算のコンテンツについては開発を中断する意思決定といえます。
要するにリソースを将来性のあるプロジェクトに集中させるという意思決定を現したものといえます。おそらくこのゲームの開発の分野、優秀な人はおそらく足りないはずでそういった点でもある程度集中させる必要があったのかもしれません。
実はゲームの販売本数で見た場合、日本は全体の25%程度で実は6割程度を欧米諸国が占めており、そして日本以外のアジアも急速に伸びています。つまり、会社の規模的にもニッチではなく全世界で通用するような内容のゲームということが求められており、これが一つ一つのプロジェクトに対する費用が非常にかかる事態になっていると想像されます。
個人的には全くゲームはやらない人間なので、個々のゲームの開発(FFは今後どうなるのだろうか?)には興味がないのですが、今後の事業戦略の方向性は興味深いと思われます。