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これは会計不正か、それとも文化の問題か ニデック問題が示した“数字より怖いもの

2026.02.02

目次

1.不適切会計の全容と「負の遺産」の表面化

 ニデックにおける不適切会計は、海外子会社から本社経営陣までを巻き込む広範なものとして浮き彫りになっています。その態様は、法令違反を伴う関税回避から、会計基準の恣意的な解釈による利益操作まで多岐にわたります。

判明している主な不正事案と金額

 事案の端緒となったのは、イタリア子会社 NIDEC FIR INTERNATIONAL S.R.L. における原産国表示の偽装です。一定期間にわたり中国製部品を使用した製品をイタリア製と偽っていました。米国への追加関税支払いを回避する目的だった可能性があります。

 また、中国子会社ニデックテクノモータでは、サプライヤーからの一括割戻金(約2億円相当)を特定の四半期に恣意的に計上した疑いが持たれています。簡単に言えば、本来は期間にわたって処理すべき取引を、業績が苦しい局面で「使いやすい形」に歪めていた可能性があるということです。

 しかし、最も金額的インパクトが大きく、かつ構造的な問題とされているのは、資産の減損損失(IAS第36号)の計上時期を、利益目標達成のために先送りしていた疑いです。本来、キャッシュを生み出さない資産は減損(評価損)を行う必要がありますが、「今期は耐える」「来期で処理する」といった判断が積み重なった結果、問題が長期間温存された可能性があります。

2025年度中間期の巨額損失

 これらの「歪み」を一気に表面化させるかのように、2025年度中間決算では合計 876億円 もの損失・引当金が計上されました。

  • 契約損失引当金:365億円(車載事業等の将来損失)
  • 固定資産の減損損失:317億円(EV用トラクションモータ関連等)
  • その他サプライヤーとの和解金:194億円

 数字だけを見れば「環境変化への対応」「事業構造改革」と説明することも可能でしょう。しかし、第三者委員会の調査が進む中でこれだけの損失が一気に計上されたという事実は、れまでの期間、損失やリスクが先送りされ続けてきた可能性を強く示唆しています。

 もっとも、2026年1月28日に公表された会社側の開示を冷静に読むと、内容自体は決して目新しいものではありません。短期業績偏重の企業風土、情報伝達の不備、海外子会社管理の甘さ――いずれも、これまで外部から繰り返し指摘されてきた論点を、会社自身が整理して言語化したという印象が強いのが正直なところです。

 今回の開示は「何が起きていたか」を説明する資料ではあっても、「なぜ止められなかったのか」「どこで経営判断を誤ったのか」という、より踏み込んだ問いには、まだ十分に答えていません。

 改善計画の公表を予定している点自体は前向きです。ただし、それが制度やルールの見直しに終始するのであれば、本質的な再発防止にはなりません。問題の核心は経営者による内部統制の無効化、実は仕組みよりも、人と判断にある――多くの経営者が日々直面している課題と、本質的には同じだからです

 

2.コンプライアンスの欠如と「永守イズム」による内部統制の無効化

 本件の根本原因を辿ると、創業者である永守重信氏の強力なリーダーシップが生んだ「独裁的ガバナンス」と、それに伴う「経営者による無効化(Management Override)」に行き着きます。

 永守氏が提唱する「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」という文化は、同社の急成長を支えた一方で、現場に「不可能な数字であっても達成しなければならない」という過度なプレッシャーを与えていました。岸田社長自身が「短期的な収益を重視しすぎる企業風土の弊害があった」と認めている通り、目標達成がコンプライアンスを凌駕する土壌が醸成されていたのです。

 ニデックは自ら、情報伝達プロセスにおける「開示すべき重要な不備」を認めています。本来、重要なリスク情報は独立したラインで経営陣や監査等委員に届くべきですが、ニデックでは不都合な事実が隠蔽・滞留する構造になっていました。特に海外子会社の管理においては、買収後の統合プロセス(PMI)において収益管理ばかりが優先され、法務・コンプライアンス体制の移植が疎かになっていたことは否めません。

 経営陣が不適切会計を認識し、あるいは関与していた可能性を示す資料の存在は、J-SOX(内部統制報告制度)における「統制環境」の崩壊を意味します。最高経営層が自ら定めたルールを無視する状況下では、いかなる内部統制も無力化されます。

3.PwC Japanがニデック監査に何をもたらしたか

 本件を実務的な視点で分析する際、最も興味深いのは監査人である「PwC Japan有限責任監査法人」の存在です。ここで、監査人の歴史的背景を紐解く必要があります。

 ニデックを長年支えてきたのは、旧「京都監査法人(後のPwC京都監査法人)」です。同法人は、2007年に中央青山監査法人(みすず監査法人)の京都事務所を母体として設立された、地域に根ざした独立した監査法人でした 。京都の有力企業の多くを担当し、クライアントとの深い信頼関係を築いてきたといえます。

 しかし、2023年12月、このPwC京都は、同じPwCネットワークの「PwCあらた有限責任監査法人」と統合しました 。PwCあらたは、中央青山の業務停止処分を機に、国際水準の厳格な監査を実践するために誕生した、いわば「独立性と品質管理を重視した」法人です 。

 ニデックの不正がこのタイミングで噴出したのは、決して偶然ではなかったでしょう。

  1. 品質管理プロセスの刷新: 統合により、PwCあらた側が持つ厳格な品質管理基準やリスク評価の手法が、適用されることになりました 。
  2. 配当ミスによる不信感: 2024年5月に発覚した「分配可能額を超えた過大配当」という失態は、監査法人にとっても大きな衝撃でした 。この際、基本的には誤謬の一時的責任は会社側であるはずなのに、ニデック側が「監査法人の見落とし」に言及し責任転嫁したことで、監査人と経営陣の間に、これまでの「信頼」とは異なる「健全な緊張感(あるいは不信感)」が生まれたはずです。
  3. 専門的懐疑心の再燃: イタリアの関税問題が浮上した際、統合後の新法人は「経営陣が知らなかった」という釈明を鵜呑みにしませんでした。「一つの不正があるなら、経営者による無効化が広範に行われているのではないか」という、PwCあらた流の冷徹かつ合理的なロジックで全容解明を求めたのです 。

 結果として、調査未了を理由に「意見不表明」という断固たる処置を下したことは、長年の付き合いがあった、悪く言うと多少なれ合いがあった旧京都の体制だけでは難しかったでしょう。一方でニデックのような超優良企業に意見差し控えといった判断を提示すること、これは非常に困難で勇気のいる苦悩の決断といえます。担当会計士及びPWCあらたのプロフェッショナリズムに敬意を表したいと思います。

 ニデックの事案は、監査人たる公認会計士に二つの重要な教訓を与えています。

 一つは、「経営者による無効化」に対する感度です。形式的なテストを繰り返すだけでは、トップダウンの圧力に歪められた会計操作は見抜けません。企業の文化、経営者のトーン、そして現場にかかるプレッシャーという「非財務情報」への深い洞察が不可欠です。

 もう一つは、「監査の慣性」を打ち破る力です。監査法人の統合という組織の変化が、結果として巨大なクライアントの「聖域」にメスを入れるきっかけとなりました。これは、外部監査人が真に独立性を保つためには、時に自らの組織の枠組みすら変える覚悟が必要であることを示唆しています。

 ニデックは今後、最終改善計画の公表を予定しています 。この計画が、創業者による支配構造から脱却し、真のプロフェッショナルなガバナンスへと舵を切るものになるのか。私たち会計専門家は、その再生の軌跡を、そして監査人が今後どのような「対話」を重ねていくのかを、厳しく注視し続けなければなりません

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