コロナとコロワイド(甘太郎、牛角)の99億減損、196店閉鎖の関係
2020.05.26 カテゴリ: 企業の業績分析、企業経営での留意点、経営戦略。
目次
1.コロワイドの減損
居酒屋レストランチェーンの㈱コロワイド196店の閉店と99億円の減損損失(すでに計上済を合わせて106億)を発表しました。コロナで苦しむ飲食業チェーンとしては一番最初の大幅リストラと減損の発表だと思われます。
コロワイドはレインズインターナショナル部門で居酒屋(甘太郎、土間土間など)と焼肉(牛角)チェーンを運営、カッパ・クリエイト部門で回転すしかっぱずしの運営、アトム部門でステーキ宮などのレストランチェーンの運営、コロワイドMD部門で主に社内の開発・物流などのマネージメントを行っています。売上約2200億のうちほぼ半分がレインズ が占めています
今回の減損については、「新型コロナウイルスが沈静化した後、お客様の生活習慣の変化によって将来的に収益性が低下すると予想される店舗についても、今回減損対象に含めて処理を行っております。」と適時開示で述べています。そもそも大型の宴会需要が低下しつつあって特に居酒屋形態が苦戦していたのですが、今後コロナでより加速した生活習慣の変化によってもっと現状の需要は減るであろうと予測しての減損であったことがわかります。
ただ、コロナの影響による影響、一時的なものですし、減損まで考える必要あるのでしょうか?そもそも減損とは?、また減損とコロナをめぐる議論を整理してみます
2.コロナと減損をめぐる議論
そもそも減損とは店舗・工場などの有形固定資産やのれんなどの無形固定資産に対し評価減を計上するものです。現在の営業損益や営業活動によるキャッシュフローが継続してマイナスになっているか、将来にこのマイナスが継続するか、将来的に見込み資産の市場価値が著しく下落する、こういった事象を減損の兆候と考え、損失の計上を検討するわけです。
ところが、4月2日に日本経済新聞などで金融庁がコロナ関連に伴う減損については「会計ルールの弾力化」など柔軟に運用するといった趣旨の記事が出ました。本当にこんな「会計ルールの弾力化」のようなことを金融庁が正式に発表したかは不明ですが、素直にこの記事を読むと要するにコロナ関連で業績悪くなっても減損の兆候とみなさなくてよいと解釈できてしまいます。
しかし、そもそも前述の減損の兆候の定義を見ても単純に損失が出たので機械的に減損が必要といった話ではなく、減損自体、様々な要素を検討して総合的に検討するものです。会計処理について金融庁が勝手に上から指針など出すことは権限外と思われます。さすがに日本公認会計士協会は、これは公認会計士協会の意見ではないと発表して火消しに走りました。
そして、4月3日、「新型コロナウイルス感染症の影響下における、企業の決算作業及び監査等について、関係者間で現状の認識や対応のあり方を共有する」との趣旨の下、日本公認会計士協会、企業会計基準委員会、東京証券取引所および日本経済団体連合会を構成メンバーとして、また、全国銀行協会、法務省および経済産業省をオブザーバーとして、連絡協議会を設置しました。
最終的に、この連絡協議会の話し合いを元に企業会計基準委員会は減損(など見積もり)について「入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」原則は変わらないとしたものの、ただし、コロナの影響について過去の例もなく「外部の情報源に基づく客観性のある情報」も入手は難しいので企業独自の一定の仮定で減損などを見積もるのはかまわないと指針を出しました。
ようするにある程度の柔軟性は確保しつつ、安易な減損逃れにはくぎを刺したというわけです。では今回のコロワイドの減損はこの方向性に合致しているでしょうか?
3.コロワイドのコロナ減損の考え方
従来のコロワイドの減損処理の考え方は、「 原則として2ヶ年に亘る不採算店舗を対象、 合理的仮定による将来収益の改善を考慮」しつつ減損を見積もっていました。しかし、今回2020年3月期における減損処理の考え方としては「 2ヶ年のみならず、単年不採算店舗も対象、将来における収益改善は想定せず、 新型コロナウイルスによる2021年3月期の影響を反映」とWith/After コロナを見据えた仮定を新たに構築して減損を検討したという事がわかります。今回、まさに「企業独自の一定の仮定」で減損をおこなったわけです。
あくまでも自分の仮定ですが、要するにもう大型宴会をあてにした事業は衰退の方向にありましたが、今回のコロナ騒ぎでこの動きはもう逆方向には働かない必然的な動きであるという事を認識して、しっかり会計的手当てを行ったという事でしょう。
直近の決算説明会資料では、この減損で今後年間約33億円の増益原因(赤字店の閉鎖や減価償却の減少など)があるとともに、居酒屋における大型宴会をあてにしない新業態への転換、テイクアウト・デリバリ―の強化、給食業など新規事業の一層の拡充などかなり前向きなメッセージを伝えていました。
この新たな方向性が成功するかはわかりませんが、この会計処理のスピード感は評価できると思われます。厳しい現実をきっちり見据えて新たな手をうったという事だと思われます。