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コロナ禍で苦しむ百貨店が復活するために考えなければいけないこと

2021.05.26 カテゴリ: 企業の業績分析企業経営での留意点経営戦略

1.コロナ禍で苦しむ百貨店

コロナ禍で苦しむ典型的業態として百貨店があります。三越伊勢丹の2021年3月期の決算を見ると以下です

売上8160億(前期比マイナス27%)
営業損益 -209億
最終損益 -410億

高島屋は以下です
売上6808億(前期比マイナス26%)
営業損益 -134億
最終損益 -339 億

ともにかなり苦境にあります。当然緊急事態宣言が昨年度何度か発令され休業を余儀なくされたという面、それ以外の期間も客足がかなり落ち込んだということがあります。当然予想される業績です。しかし、セグメント別業績を見ると違う姿が浮き彫りになります。すこし、このあたり見てみましょう。

2.セグメント

あまりコロナ感染予防の影響を受けなかった2020年3月期をみます。伊勢丹三越のセグメント別売上は以下です

売上1兆1191億円
百貨店 1兆355億円(92%)
クレジット・金融 385億
不動産 353億

 92%が百貨店セグメントの売上で残りがその他のセグメント、開示するほどではない売上です。しかし、営業利益156億のうち百貨店セグメントは22億、実はクレジット・金融56億、不動産59億でほとんど規模的に小さい他のセグメントで利益を上げています。2019年3月期までは百貨店事業は140億~150億の営業利益あげていましたがクレジット・金融や不動産も同様の営業利益なのでほぼ50%くらいでした。百貨店事業の営業利益率は非常に低くその他の業態で利益をあげるビジネス形態です。

 これは三越伊勢丹に特有かというと実は高島屋も非常にそっくりで、あまり影響を受けなかった2020年2月期のセグメント売上は以下です

売上9190億円
百貨店 7847億円(85%)
金融 174億
商業開発(不動産) 455億

 売上的には百貨店セグメントがほとんどですが、営業利益的には百貨店69億 商業開発99億 金融48億と百貨店以外のセグメントで実は稼いでいます。ところで少し余談になりますが、百貨店事業はなぜこんなに営業利益率が低いのでしょうか?少し会計上の話もあります。それを少しお話しします

3.消化仕入

 日本の百貨店、社員の方に聞くと社員は売り場にはほとんどいません。売り場にいる人はほとんどアパレルメーカ―卸などの人です。そして消化仕入という仕組みがあります。消化仕入とは、衣類とするとアパレルメーカ―の人が百貨店に商品を搬入陳列し、この時点では百貨店側の会計処理はありません。実際に衣類が販売された時点で売上と仕入れが両建てで立ちます。百貨店側は在庫リスクゼロ、ただし、価格決定権などはなく粗利もほぼ必然的に低くなりますそもそも百貨店自体、場所貸業的な側面が強く不動産業のようなものなのです

 ちなみに令和3年度から適用される新会計基準では、在庫リスク・価格決定権を持たない場合売上は総額であげられないということで売上-仕入の純額を計上することになりました。そのため2022年3月期三越の売上が4470億の予測(2021年3月8160億)となり大幅減少します。

4.どうせ場所貸業ならば

 百貨店ではないのですが、場所貸し的な小売業として丸井があります。当然コロナ禍で売上は低下しましたがそのダメージは百貨店と比べて極めて低いです。

 2021年3月期売上は2208億(前年比10.8%減)営業利益153億(前年比63.5%減)最終利益23億(前年比90.8%)と業績的には苦しみましたが、巨額の損失を出した百貨店とは対照的にきっちり利益は確保しました。丸井の場合はそもそも「売らない店舗」として「体験価値の提供、顧客とのエンゲージメントの場」として活用しています。

 営業利益の75%程度はフィンテック、いわゆる丸井のカードを中心とした金融ビジネスでたたき出しており極端な話、店舗はそのタッチポイントとまで割り切っています。このあたりの割りきりが一般的な百貨店と比べた収益基盤の強さにつながっているでしょう。

 一方JCペニーやニーマンマーカスの倒産などほぼ百貨店が消滅しつつある米国、ノードストロムは徹底的なDXと店舗での顧客体験に絞って小売業としての生き残りをはかっています。当然米国モデルでは自社で商品を買い取って自社でリスクをしっかり取ります。そのため、商品売上の利幅は高いです。

 日本の百貨店は丸井型のような金融業または不動産業になるのか、ノードストロム型の小売業に回帰するのか岐路に立たされているといえます。そういった意味で、百貨店は丸井寄りに進みつつも2兎を追っているという気はするのですが大丈夫なのでしょうか?

 

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