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増え続ける会計不正は会計監査の厳格化で防げるか?

2020.02.19 カテゴリ: 会計・税務会計不正会計監査

1. 増え続ける会計不正

 会計不正、以前もLIXILや東芝などで新聞紙上をにぎわせましたが減ることもありません。どうやら2019年も以下の記事のようにおそらく上場会社の会計不正に関する開示は最多を記録したと思います

 「2019年1-11月に「不適切な会計・経理(以下、不適切会計)」を開示した上場企業は64社(前年同期比18.5%増)、案件は67件(同24.0%増)だった。集計を開始した2008年以降、最も多かった2016年の社数57社、案件数58件をすでに11月までに上回り、過去最多を更新した。 不適切会計の開示は2008年は25社だったが、その後は増勢をたどり、2016年に過去最多の57社を記録した。そして、2019年は1-11月までで64社に達し、1年間の過去最多を塗り替えた。」(東京商工リサーチ 12月4日発表)
 

 ただし、考え方によってはこれは上場会社が「開示」した数なので今まで隠れていたものが、発覚してきちんと開示するようになったとも考えられます。しかし、個々の案件を見ても何年も発覚せずに過去数年間にさかのぼって修正というような例が多く、なかなか発見できていないということがわかります。

 上場会社は公認会計士が会計監査をしているわけですから、会計不正は本来未然、または初期のうちに防げるはずです。これは担当公認会計士が怠慢、スキルが足りない、顧客と癒着しているからなのでしょうか? その前に少し、会計不正の未発見の根本原因を少し違った角度から見てみます

2.特定肯定性効果

 これはロルフ・ドベリ著「Think Smart」にあった例題です。少し考えてみてください。

このような数字の並び
 724, 947, 421, 843, 394, 411, 054, 646

この数字に共通するモノは何か?という問題です。

答えは「A:この文章の一番下」です

次はこのような数字の並び

349, 851, 274, 905, 772, 032, 854, 113

この数字に共通するものは何かという問題です? 

答えは「B:この文章の一番下」です。

 あるものを見つけることは簡単、しかし、ないものを見つけるのは大変ではないでしょうか。「欠けているものを見つける」は「存在しているものを認識する」よりはるかに難しいわけで、本来あるはずのモノがなくても気づかないのです。

 これを会計不正に例えてみると、業績不振の子会社をこっそり連結子会社から外す、飛ばしといった不良債権をどこかに隠す、本来負担しなければいけない負債を隠すといったケースは発見するのが難しいわけです。後から見れば、こんなものなんで発見できなかったのかと思われるかもしれませんがが、ないものを見つけなけるのはドベリ氏によれば実は特定肯定性効果といって人間の本性上克服するのは難しいようです

3.実在性と網羅性

 監査の実証手続きとして資産が実在しているという証拠を集める、きちんと負債を網羅しているか確かめるというのは主要な手続きです。今監査の現場で主としてやっていることは統計的に有意になるまでサンプルを集めてチェックすることです。しかし、そもそも統計的有意な数とは統計上の正規分布(いわゆる釣り鐘型の分布)を想定しています。しかし、誤謬(会計上の誤り)は多分正規分布かもしれませんが、会計不正はそもそも正規分布というよりベキ分布(あまり詳細は述べませんが、株価や為替の変動はベキ分布と言われています)に近いのではないかと思われます。要するにサンプル数を増やして統計的有意な監査をやったと言っても意味がないということです。

 ではどうしたらよいのでしょうか?サンプルの数は誤謬を防ぐためにも一定数は必要だとは思います。しかし、監査の現場担当者はほとんどの時間
どんどん細かくなるマニュアルに載っている手続きを漏れなくやるかで疲弊しつくしています。そして現場責任者はその細かい手続きをやっているかのチェックとその結果についての詳細な説明資料作成(審査資料)で精一杯です。私は受けたことがないですが、金融庁の検査も重箱の隅をつつくような指摘が多く、どんどんチェックリストを細かく大量に行う方向にいっているとの愚痴をよく聞きます。

 確かに昔は会計士と会社がなれ合いで不正や粉飾が起きるといったこともあり、ある程度の監査の厳格化というのは必要だたっと思います。しかし、どんどんエスカレートする間違った方向の厳格化でどんどんマニュアルやチェック項目が増えてもこの特定肯定性を克服することはできないと思われます。むしろ逆効果です。現状は監査についている公認会計士、相手をする会社の人、結局減らない不正で思いがけない損をする株主、誰も得をしません。増える一方の仕事は一杯仕事やっているから不正が起こっても私たちのせいではないよねという監査法人の言い訳にしかならないと思われます。

 私もバリバリの監査人ではないので明確な解法は申し上げられません。ただ、少なくともむしろ現場責任者については細々とした報告資料からできるだけ解放してじっくり全体を見渡す自由な時間や会社の方とコミュニケーションとる時間を与える、このあたりが特定肯定性効果を克服するヒントになるのではないでしょうか?昔は会社のいろいろな方と雑談しながら、ぱっと不正や問題点を発見する普段は昼あんどんみたいなベテラン先生がいらっしゃったことを少し思い出しました。
   

問題の答え

A:すべて4が入っている

B:すべて6が入っていない

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