壱番屋がコロナに負けない理由 -レジリエンスの高い企業とは
2020.07.21 カテゴリ: 企業の業績分析、企業経営での留意点、経営理念。
目次
1.飲食業界の苦悩
コロナ感染の広がりによって影響を受ける業種の一つとして飲食業があると思います。しかし、その中でも勝ち組、完全な勝ち組でなくてもしぶとく
負けない企業、いわゆるレジリエンス(復元力)が高い企業があったようです。今回はレジリエンスが高い企業の例として㈱壱番屋(いわゆるCoco壱番)を取り上げたいと思います。
その前に少し飲食業を概観してみます
2.飲食業概観
飲食業の4~6月の既存店売上高【1年以上継続している店の売上の前年同月比(多少企業によって数字の取り方が違うケースあり)】を比べて
みました。この既存店売上高は新店開店、閉店の影響を除く純粋なお店の状況を表す指標として使われています。ざっとみるとおおむね以下のような傾向がありました
ハンバーガー>牛丼>回転ずし&中華>ファミレス>居酒屋
勝ち組は ハンバーガーです。
マクドナルド 4月106.5 5月 115.2 6月96.8
モスバーガー 同 103.7 112.2 106.2
実は客数は20%程度落ちているのですが客単価が上がりカバーしています。仮説ですがまとめて家族・仲間のテイクアウトが多いのではないか
と思われます。テイクアウト需要をうまくつかんだわけです。
そして、ざっくり傾向を見ると店内の滞在時間が長い飲食店ほど業績が苦しいです。これは何となく想像ができると思われます。他はすべて既存売上高がマイナスで非常に苦しい状況です。
牛丼業界の既存店売上高は5~10くらいの前年比減少で小幅に見えますが薄利多売で損益分岐点は高め、例えば吉野家の決算は出ていませんが、おそらく赤字転落でしょう。ただ、この中でも実は回転ずしでのスシロー、中華での王将などこのコロナ下でも他社より既存店売上高の下落率が低く頑張っている企業はあります。同じ業態でも差が出ています。こういった苦境下でも強い、レジリエンスが高い企業といえます。
壱番屋はこの中第1四半期(3月~5月)を昨年比大幅減益なもの経常黒字で乗り切りました。ではこの壱番屋のレジリエンスの高さの秘訣見ていきましょう
3.コロナ感染拡大下で壱番屋がおこなったこと
まず、コロナに負けるな「エール弁当」を発売したことで話題を呼びました。臨時休校の子どもに300円のお弁当を発売(5月31日まで)したのです。毎日子供がいて昼ご飯を作らねばならない家庭、特に働く女性がいる家庭は助かったに違いありません
また、FC(フランチャイズ)店への資金繰り対策として加盟店保証金を返還(約15億)し、FC店の販売促進費を4月、5月全額免除、47百万の販売支援をしました。その結果長期預り保証金 52億→37億に減少しています。このFC支援は「ブルーシステム」という独立支援制度にもとがあります。FCは普通は公募・営業をして候補を見つけてくるのですが壱番屋は社員が独立してFCとなることを原則としています。したがって、直営・FCの一体感があり、FC店も会社の理念を理解しています。したがって、いわゆるバイトテロみたいなことは起こりにくい体制といえるでしょう
壱番屋は会社の目的を「会社にかかわるすべての人々と幸福感を共有すること」していますので、こういった危機にフランチャイジ―やお客様を大切にする本当に姿勢が明らかで、理念が単なる見掛け倒しでないことが伺われます。
4月からの既存店売上高 74%、79.5%、85.1%は牛丼と回転ずし&中華の間位だといえます。第一四半期前年同期比で19%売上が下落していますが、営業利益は前年比78%大幅減益ではあるものの330百万と黒字を確保することができました。
フード業界の方の記事など見ると、トッピングが豊富なこと、親会社(51%株式保有)のハウス食品のル―を使っていて、子供のころからどこかなれた味で根強いファンが多いことが下支えをしているのではないかと分析していました。何度か値上げをして客単価をあげているのですが、あまり客足は減らず利益を確保していました。
私はもう一つ財務的な要因があると思います。それを見ていきます
4.壱番屋の財務の秘訣
壱番屋の財務はかなり堅実志向項です。手元流動性、すぐに現金化できるものどの程度持っているかの指標ですが、コロナ下の5月末日でも売上の2か月分程度の手元流動性程度を持っています。現金商売ですし、1か月くらいの手元流動性が通常ですが普段から固めに備えていたのでしょう。借入金はなく。自己資本比率72.9%とにかく財務内容が固いです。キャッシュフローも営業活動によるキャッシュフロ―の範囲内で投資をしており、無理な拡大ははかっていない、極めて堅実な体質です。
2020年2月期営業キャッシュフローをみると 6013百万で投資キャッシュフロー △1475百万です。儲けた6013百万範囲で1475百万だけ投資しているわけです。少し他社を見てみましょう。経営危機になったペッパ―フードサービス(いきなりステーキ)ですが、2019年12月期の営業キャッシュフロー△626百万は投資キャッシュフローは△6221百万です。対照的にいきなりステーキはかなり冒険的な拡大を図ったことがよくわかります。決してこういった冒険的な姿勢は悪いと断罪できませんが、ちゃんとしてリスク計算に基づいてやらないと無謀といえるでしょう。
まとめると、派手さはないが堅実で「会社にかかわるすべての人々と幸福感を共有すること」という、ステイクホルダーを大切にする姿勢がレジリエンスの高さにつながっているのではないかと思われました。地味だけど大切にしたい会社ですね。