サントリーのビーム買収はなぜ成功したか
2019.10.30 カテゴリ: M&A、グローバルビジネス、企業経営での留意点。
目次
1.日本の大型買収
非常に残念なことではありますが、日本企業の海外大型買収で本当に成功した例は非常に少ないといえます。特に後述するセールス型(営業型)のM&Aの場合はほとんどうまくいっていません。
M&Aには私は主として3つの型があると思っています。純粋に資産(含む特許など無形固定資産)・技術・ノウハウを取得する資産・ノウハウ型、新しい分野など戦略的価値を見出した戦略型、そして顧客やマーケットを得るためのセールス型(営業型)などがあると思ってます。武田の相次ぐ買収などは資産・ノウハウ型ですし、ソフトバンクグループのアームの買収などは戦略型でしょう。
ただ、一般的にどの業種でも多いのがセールス型(営業)型で特に海外などは本来ゼロから現地法人を創立して市場をコツコツ開拓するといった営業活動を一気にM&Aによって達成することができる方式です。資産・ノウハウ型は重要なのが資産・ノウハウなので極端な話、必要な資産だけ手に入れたら後は切り売りで解体してもよいわけですし、戦略型は全く新しい分野であれば買収した現地企業にある程度任せざるをえません。
しかし、営業型の場合はお互いの統合効果が生まれず、単に会社の図体だけでかくなれば、確実に効率性が落ちてきますからPMI(買収後統合計画)による統合がキーとなります。これが海外大型買収になると日本企業は大変下手で東芝のウェスチングハウスや日本郵政のトールなど悲惨な失敗に終わっています。
その中でほぼ成功しているのはJTのギャラハー買収と、サントリ―のビーム買収くらいではないでしょうか?ビームサントリーは5年連続増収増益で2018年の売上高は約5200億円(IFRS基準、酒税を除く)に達しました。たいてい日本企業の大型買収は買ったときがピークでその後は良くて横ばい、どちらかというとそこをピークに大幅減益といったケースは非常に多いです。
2.サントリーのビーム買収
10月29日の日本経済新聞朝刊で「サントリー、覚悟を決めた日」のいう記事でサントリーの新浪社長が当時のビームとサントリーの蒸留酒部門を統合したビームサントリーのCEO(最高経営責任者)のマット・シャトックに迫った話が載っていました。そこで新浪社長は「『借金して買収したのに、これじゃまるであなたの会社じゃないか。それならあなたが会社を買い取れ』・・・シャトックに英語でまくし立てた」そうです。
サントリーの買収の成功はこういったトップが衝突や摩擦を恐れない姿勢が一つの要因といえます。しかし、ただ単にやたらとけんかをやっていたわけではなく、きっちりとマット・シャトック氏が辞めても困らないように新浪社長は他のビームサントリーのキープレイヤーと信頼関係を築いていたとようです。
そして、新浪社長を筆頭にサントリーの経営陣はPMI(買収後統合)を真剣に考えていたということがあります。統合手法として、現地企業の自主性に任せるか本社の関与を強めるか共通の正解はありません。ただし、はっきりと自主性に任せる部分と本社として譲れない部分を峻別する必要があり、そのあたりを徹底的に考え相手方と議論していく必要があります。サントリーとビームサントリーは企業文化と戦略的方針を巡り衝突を繰り返したといわれています。このように摩擦を恐れず徹底的に現場レベルで議論してきたというのがもう一つの成功要因でしょう。
そしてこのように衝突を繰り返しながらもファンクションどおしのコミュニケーションもきっちりやったことが第三の成功要因だといえます。例えば財務経理部門は肥塚CFOもビーム側のCFOとほぼひざ詰めで事業計画を作りその場にはマーケティングの責任者なども巻き込んでいたようです。
このようなサントリーの成功と比べほかの日本企業では失敗しているのはなぜでしょうか
3.日本企業の失敗の理由
海外大型買収の場合、相手側のプライドも高く、普通は自社の経営に口を挟まないでくれといった姿勢になりがちです。そして、往々にして「経営の自主性を尊重」と言葉はきれいですが、実際にはほぼ放置状態で経営が悪化してようやく手を入れるといったケースがほとんどです。あくまでも私の個人的な印象ですが、日本の大企業の役員クラスで外国人と議論するのをやっかいなものとして避けたがる方がいまだに多いような気がします。
日本の大企業の今の役員クラスで若いころから外国人と英語で侃々諤々のビジネスディスカッションやり合ったという経験のある方は多くない気がします。当然それには最低限の英語力は必要ですが、、実はビジネスの場合、別にペラペラと話せることではなく、じっくり相手の話を理解するまで質問攻めにしても聞き、そして相手がわかるまで話し続ける忍耐力の方が大切だと思っています。自分のことでお恥ずかしいですが、私はたいして英語が上手なわけではないですがグローバル企業の本社シニアマネージメントからきちんと評価されていたと思います。ポイントはとにかく相手に食らいついて話し合おうとすることで、最初は多少面倒に思われても、ビジネスですから大抵相手も真剣度を理解してくれて、わかりやすく説明しようとしてくれますし、下手な日本なまりの英語も真剣に聞いてくれます。
根本的な原因はこういった議論を避けてコミュニケーションをきっちり取らないことにあると思われます。そのため、放置状態になり、少しテコ入れしようとする場合もきちんとコミュニケーションをとらないまま、唐突に行いキープレイヤーの流出につながるといった結果になるわけです。
もう一つとして買収にあたって、そもそも当初に統合計画がないケースもよく見られます。買収の場合、デュ―デリジェンスを行いますが、これを単なる買収価額を決める手続きだと思っている方をしばしば見かけます。実は本来ビジネスデュ―デリジェンスを行い、どのような統合を行うのか、統合後の姿はどうなるのかといった具体的な青写真を描く場でも本来はあります。ところが、そんな青写真も抱かないまま、「縮小する日本市場に備えグローバル市場の開拓を行う」といったあいまいな戦略で海外の買収を手掛けるわけですから放置になってしまうのも仕方がないでしょう。
このサントリーの成功例、結日本企業の構海外の大型買収のベストプラクティスとして学ぶ点多いと思います。