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TKPのDEレシオはなぜ高い -そこまでしてのリージャスの買収は成功か?

2019.11.27 カテゴリ: M&A企業の業績分析企業経営での留意点経営戦略

1.負債・資本比率の上昇幅が高い日本企業ランキング

 先週の日本経済新聞で資産・負債比率の上昇幅が高い日本企業ランキングが載っていました。その1位は㈱ティーケーピー(「TKP」) で簡単に言うと不動産オーナーから遊休不動産を格安で仕入れて会議室や宴会場に展開している企業です。結構都心に行くとビルの上層階に「TKP」という看板をしばしば見かけます。

 負債資本倍率、もしかすると、デットエクイティレシオ(DEレシオ)という名称の方がなじみがある方多いかもしれません。有利子負債÷自己資本なので安定性でいえば値が小さい方が要するに相対的に借金が少ないわけですから望ましいわけです。このDEレシオの上昇幅が3.29倍となりDEレシオ自体も6.27倍になったわけです。一見すると借金が自己資本の6倍を超えているのですから危ない数字に見えます。そうなのでしょうか?少し深堀していきます。

2.TKPの連結財務諸表

 まず、公表されている8月31日の第2四半期の決算で見ていきましょう。今年2月末の決算の際の自己資本比率は21.0%でしたが今回は10.5%と半減しています。そして、流動比率(流動資産÷流動負債)は180%から44%へと急降下しています。流動比率は100%未満は一般的に危険水域と言われています。この原因はなんなのでしょうか?

 これは429億で日本リージャス、25億で台湾リージャスをそれぞれ買収したことによります。これは財務諸表を見る限り借入金で手当てしたようです。したがってこの部分の借金が一気に膨らみました。その後、9月に公募と第三者割当で約241億を調達する旨発表しました。この結果のみ反映させるとDEレシオは概算で2.0に戻りますし、流動比率も88%程度までは回復するはずです。一般的には流動比率は100%を割ると危険水域と申し上げましたが、業種によってことなります。TKPのような貸会議室は現金商売に近く、回収が長期化せず割と早く現金がはいります。そういった意味では多少低い流動比率でもある程度は大丈夫とはいえます。

 以上より財務的手当てはある程度おこなって、危険水域からは脱したとは言っても財務体質の悪化は明らかです。そこまでしての買収、これは正解だったのでしょうか?

3.リージャス買収は成功か

 日本リージャスの買収価額は429億ですが、全額のれんとして計上されました。言い換えると財産価値はゼロの会社を429億かけて買収したということになります。この会社の前年のEBITDA(償却利息控除前税引前利益)は約29億と発表されていたのでEBITDA倍率(購入価額÷EBITDA)は14.8年とかなり割高です。要するに買収価額の回収に15年かかるわけです。M&Aの巧者で有名な日本電産の永守会長はせいぜいEBITDA倍率は8年くらい迄と公言されているそうです。

 この数字だけ見るとまたM&A下手な日本企業が外資系企業(日本リージャスの親会社はIWGという英国企業)に高値をつかまされたなという感じでした。ただし、第2四半期の決算発表を見ると随分考え方が変わりました。TKPの第二四半期の売上は前期の17610百万から24272百万と137.8%の成長
営業利益も2583百万から3564百万と138.0%の増加、EBITDAはのれんの償却が含まれないこともあり2955百万から4858百万と164.4%の増加です。また第二四半期の日本リージャスのEBITDAは1078百万と発表されており、数字が随分買収前より改善しており、この数字でEBITDAで倍率を出すと10倍程度となります。これはなぜでしょうか?

4.戦略的な買収だったリージャス

 リージャスの買収は決算資料などを読み込むと単なる規模の拡大ではなくかなり戦略的な意図があることがよくわかります。TKPの中心は貸会議室でしたがリージャスはレンタルオフィスとコワーキングスペースが中心です。TKPは単なるサブリース業者から「フレキシブルオフィス事業」といった新時代のオフィスの在り方を提案し、バンケットや宿泊施設なども含めた複合的サービスを提供する主体になっていく戦略を考えているようです。加えて、リージャスの親会社IWGとの提携でアジアにもこの事業を広げるようです。そのためにリージャスは非常に重要なピースだったといえるでしょう。

 よく日本企業は高値で買収した際に「シナジー効果を見込み・・・」などと言いますが、たいてい絵に描いた餅程度のモノであるケースが多いです。しかし、TKPの場合はかなり具体的で買収前から練っていた感はあります。日本リージャスの当初からの好業績も共同出店や相互送客ですでに効果が出ていることを上げており、買収前やデュ―デリの期間もリージャスを組み込んだ具体的な戦略はあったと考えられます。

 まだ、最終的な結果は出ませんが、値段の交渉ではM&A巧者といえるかは少し疑問ですが、PMI(買収後統合)としては日本企業としては画期的な速さで取り組んでおり、このあたり成功ケースになるかもしれません。

 

 

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