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財務数値から見たZOZO前澤社長の退任

2019.09.17 カテゴリ: 企業の業績分析企業経営での留意点経営戦略

1.YAHOOによるZOZOの買収

 ZOZOの前澤社長が9月12日付けで退任、そしてZOZOはYAHOOの傘下に入ることになりました。とりあえずZOZOの公式発表はYAHOOのTOB(株式公開買付)に取締役会で賛同したことだけです。ただし、いろいろな記事を読むとYAHOOは約4000億で50.1%を保有するとのことで、その際前澤社長は約37%保有する株式の大半を売却してほぼ完全にZOZOから離れるようです。

 自分は真面目なだけが取り柄の面白みのない人間という小さなコンプレックスがあるため前澤前社長のようなちょっとやんちゃな創業者にはあこがれるところがあります。ただ、ぶっ飛びすぎてCFOなどとして部下として勤めるのは大変そうですが・・・。ここでは純粋に公表された決算資料などを見て、前澤社長がなぜ今回辞任に至ったかを考えてみたいと思います。

 

2.ZOZOの収益性は低下したか?

 よく業績悪化による社長の引責辞任などという話を聞きます。今回の前澤社長も同様なのでしょうか?とりあえず損益計算書を見る限り2019年3月期は約22%の経常減益ではありますがそれでも257億の経常利益、売上も20%の増益です。ここ5年以上増収増益を重ねてきましたから一服という感じであり、これで業績悪化で引責辞任していたら世の中に社長のなり手がいなくなります。ただし、一方でことごとく打った手が失敗に終わったというのは数字が冷徹に語っています。そのあたりを数字で見ていきましょう。

 まずはPB(プライベートブランド)の失敗です。ZOZOスーツを中心としたPBを浸透させ2019年3月期では200億円の売上を見込んでいましたが、実際は27億と約1割程度に終わってしまいした。加えて広告宣伝費や運送費が合わせて100億近くも前年比で増加してしまいました。これも大きな部分はZOZOスーツ関係だと考えられます。加えて20億の在庫評価損を計上しており、かなりの部分が滞留在庫として処分の対象になってしまったということでしょう。数字で見られる低下はほとんどこのPBの失敗です。

 一方PBの失敗は極端な話一過性のモノと言い切れるかもしれませんが、利益に与える影響はあまり大きくなかったものの将来に響くかもしれないのが3000円の年会費を払えば、購入金額が10%オフになるという破格の割引サービスだった「ZOZO ARIGATO」でしょう。これによりずっと右肩上がりだった出店ショップが1255→1245と2019年3月期の第4四半期で初めて純減になったというのは結構厳しい数字だったと思います。

 ZOZOのビジネスモデルでは出店した企業の取扱高のうち一定部分(おおむね30%程度)を売上として計上していますが、指標としてこの取扱高も重視しています。ただ、取扱高に対する売上高の割合(PB除く)は前年の33,2%から31.8%と低下しており、やはりこれはARIGATOの影響は強かったのではないかと推測されます。要するにかなり粗利率を悪くしたことは確かです。基本的に下がった粗利を量で取り返すのは大変でこちらは最初から見えていた結果かもしれません。

 ただし、4月25日にはこのZOZO ARIGATOは中止を発表しており、今後の利益に与える影響はあまりないといえます。ただし、アパレル各社との関係悪化という目に見えない影響はPBとは違い将来に響く可能性はあります。

 ただ、この2つ、失敗はしましたが数字で見る限り、致命的な失敗ではなく十分取り返すことのできるレベルとは言えます

3.あまり目立たない気になる点

 一方であまり新聞などでは話題にはなっていませんが、財務的には気になるのが自己資本比率と流動比率の大幅な低下です。流動比率は2018年196.7%から2019年110.8%、自己資本比率は同様に57.7%から28.6%に急降下しています。流動比率は流動資産÷流動負債で短期的財務安定性を見る指標で100%を割ると危険水準、業種にもよりますが200%以上が望ましいとされています。自己資本比率(ざっくりいうと純資産÷総資産)も財務的安定という観点からは高い方が望ましいと言われています。

 流動比率は簡単に言うと流動負債はすぐに返金しないといけない負債だからその返済に対応する流動資産は持っていないと資金繰り行き詰まるよねという話です。低下した理由は明らかで244億にも上る自社株買いとおそらくその原資となった短期借入金220億です。自社株買いで純資産が減少し、短期借入金で流動負債が増えました。

 なぜこんな財務安定性をき損するような行為をしたかというとおそらくROE(自己資本当期純利益率)を重視したためと想像されます。分母が「自己資本」ですから分子の当期純利益が減っても分母を減らせば数値は維持できます。ZOZOではROE30%以上とうたっていますし、実際に2018年57.4%から2019年50.5%と小幅の低下でとどまっているのはそのためでしょう(ただし自己株式購入の意思決定は2018年4月であり、利益の減少で慌ててやったというわけではないでしょう)。

 財務的には不安定ですがコミットメントラインで450億を設定してまだ枠が230億程度ありますから、実質的な手元流動性は確保しており「危ない状態」ではないようです。ただし、ROEについてもいわゆるバランスシートの右側、いわゆる分母を動かしてROEを改善させるというのは極めて短期的な志向です。このように財務的リスクが上がると資本コストが高くなり結局企業価値は増えません。見せかけのROE維持は結局株主のためにもならないと思います。

 

4。その他の残念な結果

 非常に地味ではありますが、2019年3月期ニュージーランドで13億、あと少額ではありますが北米とドイツでも資産の減損がありました。資産の減損は予定された収益から大幅に低下した場合に行われます。ニュージーランドでは前期も約15億の減損をしており業績の足を引っ張っています。残念なのは海外事業はほとんど芽が出ていないとみられることです。

 新年度中国への再進出が発表されていますが、具体的な話はありません。海外に弱いというのはZOZOの大きな弱みかもしれません。

5.今後の展望

 以上より前澤社長は自分がZOZOをこれ以上成長させることのできるネタは出し尽くし、すべて失敗に終わったというのが今回の退任の理由ではないかと想像します。結果的にはうまくいきませんでしたがZOZOスーツについては個人的には感嘆していましたし、まだまだ成長させるユニークなネタはお持ちなような気はするのですが、YAHOOの傘下で組織で勝負する段階が来たと思われたのかもしれません。

 毀誉褒貶のある方ではありますが、個人的にはやり尽くしてさっと引く、素敵な生き方だとは思いました。

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