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日本企業の社内研修が全く役に立たない本当の理由

2021.09.29 カテゴリ: ダイバーシティ経営人の育て方企業経営での留意点

1.日本企業と欧米企業の研修の違い

  あるグローバル規模の研修会社の顧問をさせていただいているのですが、日本法人だけに特徴があることに気づきました。それは、4~5月の新入社員研修ビジネスです。この時期の売上が突出しているのです。これ自体は、ほとんど皆さん想像がつくことだと思われますが、日本以外の世界中の他の国ではこの売上傾向は全く見られません。日本以外の国では、外部の研修会社を使った大々的な新入社員研修などはほとんどないようです。

 一応自分もかつて日本の会社で新入社員研修を受けました。典型的なのがマナ―研修で電話の取り方とか名刺の渡し方とかをやりました。それ以外は会社の歴史や業務の説明、その他チームワーク構築などといった研修があった気がします。ちなみにマナー研修私ついては肯定的で、今でもたまに受講したいくらいです。やはり感じの良いビジネスマナ―はすごく大切で新入社員のうちに覚えておくと楽だと思います。そして、同期の仲間と酒を酌み交わすというのは非常に楽しく良い思い出にはなりました。ここでの問題意識は新入社員研修が突出していることではなく逆に他の研修が少ないことです。

 私は、日米欧の会社に以前在籍していましたが、確かに日本だけ比較するときわめて研修について、特殊だと思います。いわゆる日常業務で必須で基礎的なスキル、オリエンテーション的なもの、会社の理念やその企業のコンプライアンス・ルールなど最低限押さえておくべきもの、この部分については日本とそれ以外の国でもあまり差がありません。ただし、強いて言えば欧米グローバル企業は社内講師がほとんどで近年はEラーニングなどで行うケースが多いと思います

 基本的なビジネススキルについての研修(例えばプレゼンテーション)なども割と日本企業では多い研修なのですが、欧米企業はこういったものは自分で投資して身につけなさいという姿勢が強く、あまり基本的なビジネススキルの研修は多くない印象です。高度な専門家向けの研修や管理職に必須な考え方や行動について考えさせるものの方が多いです。

 日本企業の場合わりと全社員に平等でXX年目研修とか、主任研修、課長研修など横並びの研修が多いです。割と若手のころの方が研修時間が長く、偉い人は忙しいのであまり研修は受けないといった感じです。欧米系は圧倒的に傾斜配分で上級管理職やセレクションした人に徹底的にお金をかけて研修をします。

 私も勤務していたGE時代、クロトンビル(GEのグローバルの研修センター)の研修など受けさせてもらいました。講師もビジネススクール著名教授や世界的に著名なコンサルタントと超豪華、社内講師といっても当時CEOだったジャックウェルチや各事業会社の社長クラスが登場してがっつり少人数の参加者とディスカッションします。私の受講時はGE航空機エンジンや保険部門の社長が社内講師でした。

 日本で行われたアジアパシフィック地域のファイナンス部門研修なども紀尾井町のニューオータニに泊まり込みで講師はコロンビアビジネススクールの教授でした。会社負担の参加費は一人100万程度でいかにお金をかけているかわかります。

2.研修を受ける人たち

 そもそも欧米企業における研修は選ばれたモチベーションが高い層が対象です。ニューオータニに泊まり込みというのも単に無駄に高級なところなわけではなく、翌日朝までにやらねばならない課題などが出て、夜中までディスカッションをしてまとめなければならず狭い部屋だと大変だからです。こういった研修で参加する仲間は将来性の高いメンバー多いですから極端な話自分の上司になる可能性だってあります。グループワークなどでこいつは使えない奴などというイメージ持たれたくはないです。

 以前、GEの米国本社で働いていたとき、マーケティング部門の知らない役員クラスの方にメールでいろいろ問い合わせしなければならないことがありました。別にメールで返してくれれば良かったのですが、突然本人が私の部屋までやってきて驚きました。研修で一緒のチームだった方だったのです。私のその方のイメージは米国南部の気のいいお父さんという感じの方で正直そんな偉い方だとは思っていませんでした。向こうは名前を覚えてくれていて、懐かしいので顔を出したというわけです。当然要件はスムースに終わりその後も好意的に動いていただきいろいろとお世話になりました。こういった感じで研修といっても気は抜けないわけです

 私ですが、5年前から研修をお願いされることが出てきました。数字や会計に苦手意識がある方の入門的なもの、経営幹部だと経営者的観点から数値を読むといった形式で希望者が参加するタイプの研修です。いわゆる希望した人が受けるタイプが多いのかやる気のない、斜に構えたような受講生は幸いお会いしたことがないです。

 しかし、知り合いのベテランの研修講師などの方と話をすると、結構そういった受講生は悩みの種のようです。アンケートが大事なので、良い評価をとるために、落ちこぼれを出さないように配慮をする、発言していない人にもちゃんと配慮してできるだけ機会を与えるといったことが大切です。そういった意味では極端な話ボトム20%から悪い評価を取らないといった方が大切かもしれません。

 そのベテラン講師の話の中でも、すごく驚いたのはリーダーシップ研修の話です。リーダーシップ研修の参加者でそもそもリーダーになりたくないといった方が少なくないという話を聞きました。リーダーシップとは別に課長や部長などの管理職になるために必要なのではなく、仕事で目標を立てて人を動かしていく際には必要な能力です。簡単に言うとリーダーになりたくないというのは一人でやりたい、または他人に言われたことだけ受動的にやりたいということとなってしまいます。そもそも会社でリーダーシップ研修を受けさせる必要がある人材か私には疑問でした。

 そもそも自分の印象だですが、欧米系グローバル企業だとリーダーシップ研修自体ある程度選ばれた人間しか参加できません。リーダーシップのポテンシャルがあるとみられている人間が参加する場でリーダーになりたくないといったタイプの方はもともと参加資格が与えられません。「馬を水辺に連れていくことはできても、水を飲ませることはできない。」わけです。

 GE時代クロトンビルのリーダーシップ研修に参加させていただいた時も、とにかくいかに学びを得るかという受講者のモチベーションが高く、質問やディスカッションもとにかく活発でした。英語力の問題もあり、自分は落ちこぼれないように必死でした。講師の目線もむしろ受講生のトップ20%に向いていて、ただし他の受講生もやる気はあるのでそこに必死についていく、そういった形態なわけです

 このリーダーシップ研修中で当時の航空機エンジン部門の社長に、自分のチームのCプレイヤー(モチベーションが低く業績も普通以下の社員)をどうやって改善していったらよいかといった趣旨の質問をしたところ、シンプルに「会社から去ってもらいなさい。あなたの貴重な時間をCプレイヤ―に使うのはもったいない、その時間をA、Bプライヤ―の一層の業績改善に使いなさい」と言われました

 良くも悪くもこういった考えで研修なども運営されています。まとめると欧米の研修は本当に基本的なものをのぞけばほとんどをエリート教育に使っています。

3.日本企業のエリート教育

 日本企業もエリート教育を考えたこともありました、典型的なのがMBA留学です。バブル時代特に多かったですが、かなり会社を辞めてしまう人が多く、今制度がある企業も少ないのではないでしょうか。

 海外一流MBAの場合、同級生のほとんど(日本以外)は卒業数年で悪くても課長クラス以上、10年以内には事業部長クラスにはなっています。日本だと数年間平気でヒラ社員です。別に海外の一流MBAが偉いのではなく、MBAに選ばれるようなエリートだから若いうちからどんどんキツイ仕事を任せて成功すればどんどん昇進させていくわけです。

 こういったセレクションされた人にたっぷり時間とお金をかけて研修を行います。一方やる気のない人間を教育するほど暇ではなく、そういった人たちには安い給料でルーティーン業務をやってもらうか、辞めてもらうわけです

 「平成30年度 労働経済の分析」(厚生労働省)によると日本の企業教育研修費はGDPの0.1%、米国は2%で約20分の1で突出して少ないです。日本はOJTが大きいという面もありますが、特に上級管理職対象の高額の研修が少ないのではないかと想像します。

 日本企業の人事の方から「研修なんてやっても全然社員の役に立たない」という声を聞くことがありますが「馬を水辺に連れていくことはできても、水を飲ませることはできない。」のです。要するに研修しても仕方ない層にいくら研修受けてもらっても役に立つはずはないのです。

 私は欧米企業のエリート教育のシステムには残酷な側面もあり手放しには賛同しませんが日本の会社の護送船団の仕組みというか悪平等な仕組みも改善しないといつまでもホワイトカラーの生産性は上がらないと思います。

 

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