リスキリングブームが残念な結果に終わりそうな理由
2022.10.25 カテゴリ: 人の育て方、企業経営での留意点、経営戦略。
目次
1.リスキリングと人的資本の開示
最近リスキリングは(reskilling)とリカレント(recurrent)という言葉を聞くことが多くなりました。私の印象としてはリスキリングは企業目線、いかにして従業員に新たなスキルを身に着けてもらうかでリカレントは自分目線、いかに自分自身が適応していくスキルを身に着けていくかということで内容は一緒ですが、ベクトルが違う気がします。ということで企業経営の観点からリスキリングを考えてみたいと思います。
リスキリング、2020年のダボス会議で「2030年までに地球人口のうち10億人をリスキリングする」と発表されましたし、さらに経団連でも2020年11月に発表された「新成長戦略」の中で、リスキリングの必要性をうたっています第4次産業革命に伴う新たなスキルの習得の必要性ということのようです。
一方で、いわゆる気候変動とともに人的資本は非財務情報開示のトレンドとして2大テーマになっています。岸田首相も「企業における人材投資の見える化を図るため、非財務情報開示を推進します」と所信表明演説でふれていました。企業の持つ資産の中で無形資産、その中でも人的資本は企業の価値や競争力につながるものですから投資家からも開示が求められています。
ただし、これは経済産業省の「非財務情報の開示指針研究会」で検討が始まったばかりです。今後、経営陣や中核人材の多様性とともに人材育成の基本方針や考え方の開示が今後検討されていくものと考えられます。
その中でとくにリスキングがらみとしては、企業でのスキル向上、資格取得、社内外研修への投資といった人材育成への投資と効果を定量的に表す項目などは開示が求められるのではないかと思われます。それではリスキングとしてはどのような「学びなおし」が求められいるのでしょうか
2.リスキリングのトレンド
ちょうど東洋経済で「学びなおし全ガイド」という特集がされていたので読んでみました。東洋経済の記事が「リスキリングのトレンド」を的確に示しているかという疑問は多少残りますが、そのトレンドをある程度示していると思われたからです。40代~50代を対象にしたリスキリングざっくりいうと、スキルと教養、企業において提供するのはスキルの部分と思われました。そして企業が提供するすきるとして、私にはマネージメント力、デジタルの2つの方向性が示されているかなと思われました。
マネージメントとしてはMBAや中小企業診断士、ビジネス法務や英語力、デジタルとしては いわゆるデジタルマーケティングとデータ分析、情報セキュリティなどがあげられています。これを見るとテクニカルスキルに偏っていないか?というのが最初の印象です。
厳しい言い方をすると上記程度のスキルの基本(完璧でなくてもよいが)、欧米の一流企業の管理職及びその候補だと持っていて当たり前、持っていないと管理職はその地位を保つことはできないと思われます。
むしろこの年代はヒューマンスキルやコンセプチャルスキルがむしろ大切と思われ、かつこのあたり一般的な日本企業では重視されていないし、このリスキリングでも漏れている気がします。 ヒューマンスキルは簡単に言うと自分の考えを的確に相手に伝え、相手の考えをきちんと理解してコミュニケーションをとるスキル、リーダーシップ、プレゼンテーション、コーチング、傾聴力などが当たります。
コンセプチャルスキルは知識や情報を体系的に組み合わせて概念化して物事の本質をつかむ
クリティカルシンキング、ロジカルシンキングといわれるものが代表例ですが、すごく乱暴にざっくり言うと地頭力のような気がします。上級管理職になればなるほどヒューマンスキルやコンセプチャルスキルは大切なはずです。なぜこのあたり日本企業は弱いのでしょうか?
3.日本企業がヒューマンスキルやコンセプチャルスキルが弱い理由
一つは、企業側に本格的な必要性の意識が薄いことがそもそもあるのではないかと思います。これは単に人事の研修部門が必要性を感じているだけでなく、トップの意識としてかなり組織的に定着させていこうという意思と体制がないと組織に根付かないといえます。
そもそも研修受けるセレクションがないというのが不思議です。ヒューマンスキルやコンセプチャルについての研修講師の方から「やる気のない受講生のやる気をどうやっておこすか」みたいな悩みを聞くことがしばしばあります。ヒューマンスキルやコンセプチャルスキルなどの研修、私見ですがそもそも企業でヤル気のない人間に受講させても意味がないです。
管理職として大切なスキルであり、これに対し前向きでない意識の低い人、そもそも管理職として適切ではないはずです。人事評価の段階から、セレクションが間違っているといえます。
もうひとつは、本当に教えられえる人が圧倒的に少ないのではないかと思います。こういったスキル、本当は学んでかつ企業内で自分自身で実践してきた人が望ましいといえます。どちらかというと現在は、スキルとして学んだ人が講師として教えているケースが多いです。自分で実践していない方だとどこか血や肉となっておらず、上級管理職であればそれは感じ取ってしまいます。話は分かりやすいが、なんとなく上滑りで実践的でないと感じてしまうわけです
本当はこのあたり企業で経験を積み実際自分でいろいろ苦労された方、こういった方の経験+スキルで伝えるとかなり響くものになると思います。当然講師として伝える力がないとだめですが、こういった経験値を持った方々がこういったスキルを伝えていっていくような仕組みが大切と思われます。実はリスキリングの浸透は研修講師の育成といった側面も大切なわけです。