セブン&アイの失敗はなぜDX失敗の教科書か
2022.02.23 カテゴリ: 企業経営での留意点、会計・税務、管理会計、経営戦略。
目次
1.セブン&アイのDX敗戦?
週刊ダイヤモンド2月12日号でセブン&アイのDX戦略の失敗が「DX失敗の教科書」として取り上げられていました。読んでの感想は日本の大企業のプロジェクトの典型的失敗例だよなということです。まずはざっと内容をおさらいします
リクルート出身のDX戦略推進担当の執行役員米谷修氏がひっそりと2021年秋退任しました。これは、DX戦略の失敗の責任を取らされたこと、主な原因は事業会社の反発が強かったこと、そして引導を渡されたわけです。。別に私はDX自体に別に詳しいわけでも何でもないですが、これって典型的な日本企業の失敗で古くて新しいことです。要するに戦略がないところにツールだけ入れてもうまくいくわけがないのです。BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)やERP(エンタープライズリソースプラニング)など実はコンサル会社やSierだけが儲かって現場は無駄な仕事ばかり増えた死屍累々のプロジェクトと性質はまったく一緒です。
すごくざっくりいうとDXでのデジタル化は単なるツールでしかないです。Xの”Transformation”で戦略(グループとしてこんな姿にしたい)があってそのツールとしてDigitalがあるにすぎません。全体グループ戦略なんてセブン&アイなどという巨大組織で一執行役員で立案・実行できるわけないので、米谷氏だけに全責任を取らせて他の経営陣が誰も責任を取らないところに戦略が実質的になかったということがわかります(公表資料を見ると戦略らしきものは表現されてはいますがね)。ダイヤモンドの記事でDX管掌役員が公開会議で米谷氏をさらし者にして批判したセンセーショナルな部分などを読むと半沢直樹のドラマを見ている気になりました。
ただ、別にこれはDXだけでな持株会社主導の大規模プロジェクトに共通することです。業績評価のゆがみと、事業会社の反発という古くて新しい問題の再来です。この辺り見ていきます。
2.セブン&アイの事業会社はなぜ反発するのか
事業会社の反発の裏にはいわゆるベンダ―ロックインの問題とITベンダー勝手な交代があります。いわゆるベンダーロックインとは、自社の基幹システムの保守運用を特定のベンダーに任せきりで丸投げしている際に起こります。システムはその企業にあわせてカスタマイズされているので特定ベンダー以外ではわかりにくいブラックボックス化が進んでしまっていてその特定ベンダーに頼り切り(ロックイン)されてしまうわけです。
ベンダーロックインの問題は、システム導入はどんどん新しい技術を持ったSEがやってくるのですが、保守運用の段階に入ると別のSE、場合によっては下請けに丸投げのケースもあることです。そうすると、ベンダー側は新しい提案よりもどうやって安定して保守運用の再契約を勝ち取るかという視点になり適度な低コスト化が主眼になります。すると、たいてい、DXなどの導入の際には、インセンティブもノウハウもない人たちがいるわけですから「難しいです」「コストがかかります」といった抵抗勢力になってしまうわけです。加えて、会社側の現場の事業を日常的に運営する立場ならばシステム費用なんてコストがかからない方がいいに決まっています。面倒だし、どちらかというと現場も抵抗勢力になりやすいです。
一方、DX化というと少なくともブラックボックス化はさけないといけないません。様々なデータを蓄積して経営に生かしていかねばならないのですが、ブラックボックス化したシステムだとユーザー側でアクションがとれません。そこで、ITベンダーの交代というのは考えられる選択肢ではあるわけです
しかし、当然事業会社は反発するでしょう。財務的インパクトを見ると、保守運用だと低コストですが、当然ITベンダーを変えて新しい大規模ITプロジェクトをやれば手間もコストがかかります。このコストは誰が負担するかというと事業会社で業績を下げる要因、つまり経営陣の評価を下げる方向に働きます。
一方それに伴う財務的ベネフィットは将来であるし、おそらく事業会社個々が享受するベネフィットは明確に示せていなかったのではないかと思われます。セブン&アイの内部調査資料による事業会社の不満としてたとえば「イトーヨーカドーの商売としてどうすべきかの視点がない」といったコメントが取り上げられており事業会社でこのベネフィットが全く腹落ちしていないことがうかがわれます。
まとめると現状の自分の事業の業績を下げる一方、将来のその効果が数字で確実にわからないという状況です。そのようなプロジェクトに賛成するようなことは人間の生理として無理があるでしょう。では少なくとも悲惨な失敗に終わらないためにはどうしたらよいでしょうか?最低限この程度はやらないと絶対失敗するよなという部分見ていきます。
3.DXを失敗させないための最低条件
別にDXに限ったことではないですが、X(Transformation)を行うにはそのプロジェクトによってどのように変わるのか、そしてそのベネフィットは何であるかのクリアな姿と、経営陣のそれに対する腹落ちと全般の推進がないと絶対成功するわけがないです。
特にプロジェクト当初は事業会社には通常業務負担とコストが両方降りかかってきます。特にコストは財務会計的(statutory Book)には当然事業会社のシステムの流れを変えるのであるから事業会社が負担すべきものではありますが、管理会計(Management Book)的にはどうでしょうか?
欧米グローバル企業の場合、財務会計の数字の他に管理会計の数字があって事業の業績評価は管理会計の数字で行われます。今回のDXのような巨額プロジェクトの場合、このプロジェクトにかかる費用(直接的なベンダー費用だけでなく、それにかかわる従業員の人件費)などは管理会計の場合別建てにしていることが多いです。つまり業績評価はこういった臨時費用を除いた部分で評価しつつもプロジェクト費用自体は管理してしっかり予算管理のモニターはしていく体制を取るわけです。大抵プロジェクトコントロールとしてFP&A(財務管理)部門の人間が加わってモニタリング体制を構築します。
このような仕組みができていれば、とりあえず事業会社の経営陣が消極的になってしまう要素は少なくなります。ここからはあくまでも想像ですが、ダイヤモンドの記事を見る限りプロジェクトの予算管理自体はずさんでドンドン膨れ上がりほぼコントロールが効かない状況のようでした。一方グループ横断の共通基盤の部分に各事業会社の負担が求められるなど、モニターがされないまま、負担だけは事業会社にきて業績を下げる要因となるといった逆の要因になっていたのではないのでしょうか?財務管理の観点からも、もう少し上手にやっていたらとは思うのです。
ただし、X(Transformation)といった変革に失敗はつきものです。ウォルマートも1500店に導入したピックアップタワーでDXプロジェクト大失敗に終わっています。やはり顧客の方を見ていないままIT主導で動いてしまったということです。ただWMのすごいところはすぐ結果を総括して、新しいMFCという仕組みにあっという間に舵を切ったことです。
是非セブン&アイも羹に懲りてなますを吹くということにならないようにこの失敗を活かして次のステージに進んでほしいとは思います