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売上を追わない北の達人の秘訣とは何か?

2022.03.09 カテゴリ: 企業の業績分析企業経営での留意点管理会計経営戦略

1.北の達人の売上を追わない経営とは

 日経トップリーダーの3月号で北の達人コーポレーション(以下北の達人)が「無理をせず無駄を省く異色の経営」ということで取り上げられていました。ここで、私なりに気になるポイントを挙げていきたいと思います。ちなみに、北の達人は札幌に本拠を置く東証一部上場の通販会社です。最初は「北海道わけあり市場」という食材の通販でしたたが、「北の快適工房」という自社オリジナルの健康美容商品の通販に経営資源を集中させて急成長、2012年札幌アンビシャス、2014年に東証2部上場を経て、2015年に東証一部上場企業となりました。

 特徴はとにかく売上を追わないという経営、売上最小化、利益最大化経営です。通販という業態的にも顧客の目先を変えるためにとにかく次から次へと新商品を出しがちです。しかし、北の達人は新商品開発は絶えず行いますが、発売するのはごく一部、750の検査項目で全社員がこれでいいと思った商品しか販売しません。

 2021年2月は売上92億、経常利益20億と初めて減収減益でした。しかし、これは2020年3月期、すでに減収減益の決算予測を出しており、その予測は売上82億の経常利益20億なので売上こそ上方修正だが経常利益は予測通りでした。いわゆる想定内の減収減益です。ここにも無理な目標を追わないといった企業姿勢が垣間見えます

 ただ、異色の経営という題目には違和感を覚えます。実は当たり前のことを本当にきっちりやりぬいている会社だと思います。ただ、私の気になった部分は数値管理をしっかりやっている会社という点ですのでこの辺り、ポイントを見てい期待と思います

2.無収入寿命という考え方

 北の達人では「無収入寿命」という指標を大切にしています。簡単にいうとある日いきなり売上ゼロになっった場合どれだけ会社が維持できるかを出したものです。数式的には純手許資産÷月額固定費、純手許資産は総資産から固定資産、在庫、流動資産を引いたもの概念的には当座比率を金額で表したものと言えるでしょう。これを創業当時から行い、キャッシュコントロールを綿密にやってきました。

 似た概念にバーンレートとランウェイがあり、特に米国スタートアップベンチャーなどに利用されています。バーンレートは月間総コストでネットバーンレートは月間収支、ランウェイは手元資金÷ネットバーンレートです。スタートアップは月間収支は赤字なことが多いのでどのあたりでベンチャーキャピタルなどからいつ資金が枯渇して調達しなければならないか探るために用いられます。

 北の達人の場合は、月間収支は黒字の会社ですが、常に最悪のことを考え安定した流動性を保つことを全社的に共有しているわけです。極めて堅実な資金管理をしている会社と言えます

 一方利益管理はどうでしょうか?

3.5段階利益管理

 北の達人では5段階利益管理という手法を使っています。商品ごとに売上利益、そこから注文連動費(同封物、配送、梱包など)、販促費、人件費、運営費(間接費)を引いたそれぞれの利益を指標としています。つまり商品ごとに利益管理を厳密にしており、利益率が下がった原因がほぼリアルタイムでわかります。例えばいくら売上げが大きくても販促費をつぎ込みすぎていれば利益は下がる、といった形で商品ごとに何が原因で利益が出ないのかが別に調査しなくてもすぐにわかるわけです。

 この方式を見ると、全般としてABC(活動基準原価計算)行って管理しているといえます。注文連動費や販促費はきちんと記録を商品ごとに取っていれば可能だが難しいのが人件費の配分は結構面倒です。少なくとも売上比率などで単純に配分しているのではなく、なにかしらコストドライバーを定めていると思われますがそのあたりが本当のノウハウなのでしょう

 以上を見ると、別に誰も知らないような新しい手法を使っているわけではありません。管理会計の教科書に載っている程度のことと思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ごまかしなどなく、ここまできっちり運用している企業は驚くほど少ないです。そして数値管理の会社というと数値に終われる冷たく殺伐とした息苦しい会社となりやすいです。しかし、取材記事を見る限り、社員が生き生きと働けるような環境を作りだしているように見えます。

 実はこういった手法自体はどんなに革新的でも会社を良くしません。自社にあった仕組みを見つけそれをしっかり運用していくこれが大切であることを北の達人のケースは教えてくれます。そしてそのあたりに北の達人の木下社長の本当の手腕がある気がするのです。

 

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