のれんの償却をめぐる議論はどうなったか?
2022.12.13 カテゴリ: IFRS、M&A、企業経営での留意点、会計・税務。
目次
1.のれんと日本基準とIFRSの違い
11月24日のIFRS(国際会計基準)を審議するIASB(国際会計基準審議会)はのれんについて減損処理するだけの現状の処理を続行するという記事が11月24日の日本経済新聞に載っていました。
のれんは企業が買収した際の買収価額と買収の際の純資産(資産マイナス負債)の差額です。考え方としては、帳簿価額より高く購入する結果発生する差額=のれんはこれによって将来の超過収益力(プラスのキャッシュフロー)を生み出すから資産に計上するといえます
ただし、将来の超過収益を生み出さない、つまり買収額の算定のもとととなったキャッシュフローより現実のキャッシュフローが低い場合当然その価値はないとみなされます。実際に超過収益力があるか、毎年減損テストといった形で調査することがIFRSや米国基準上、企業には求められています。
その結果、超過収益力がないとみなされれば、減損処理とし場合によっては巨額の損失を生むことになります。日本企業でいうと米国基準を適用している東芝が約7000億円の減損処理を米国の原子力事業(ウェスチングハウス)の処理で計上したのは記憶に皆さんもあるのではないかと思われます(注;日本基準であっても減損対象にはなったかもしれませんが)。
一方日本基準において、のれんは20年以内の合理的な一定期間で償却処理をしていく処理を取ります。減損処理もありますがIFRSのように毎年減損テストが義務付けられているのではなく減損の兆候があった際に求められています。ただし、IFRS側でのれんの償却処理が必要ではないかという議論があり見直しがIASBでも行われました。日本基準とIFRSの残存した会計基準の差として、日本の会計関係者としては償却処理が容認されることを願っていたかもしれません。
2.なぜのれんの償却を考え始めたのか
そもそも、どういった経緯でのれんの償却を再検討したほうが良いのではないかという議論が生じたのかが、まず述べられていました。背景には欧米企業ののれんの巨額さがあります。
主要企業ののれん額(Quickファクトセット)によれば日本企業は0.4兆ドル(純資産比9.0%)、欧州は2.3兆ドル(同30.4%)米国企業は3.8兆ドル(同40.3%)で欧米企業は巨額です。M&Aがどんどんなされれて、巨額ののれんが計上、減損テストだけで過大計上は防げるか?が議論の始まりとなりました。
ますは、減損テストだけというのはタイムリーではなく遅いというケースが多いではないかということですそして、のれんについての情報が十分ではない、その中で突然減損ということで投資家側としては、突然のサプライズというわけです。
一方会社側からすると、毎年この減損テストをやるのは手間がかかって会社側は大変で、日本基準のように償却と併用の方が手間がかからないではないかということです。少し理論的な話をするとのれんというのは時の経過とともに減価するもので、その技術は古くなるし、従業員も辞めるはず、したがって、時の経過とともに償却する方が正しいのではないかということです
3.今回の決定でどうなったか?
11人のIFRSのメンバーのうち10人の賛成で減損のみとするという結果でした。原文を見ると”tentatively decided to maintain its preliminary view”最終決定ではなく暫定的な決定だとは思われますが今後もあまり結論は変わらないのかもしれません。
そもそも減耗性の資産(時の経過とともに減価するものなのか)かということに疑問が投げられました。そして、やはり問題になったのは償却するにしてもその期間をどれだけにするかということです。償却期間が結構恣意的になるのではないか、会社が判断した償却期間の妥当性の判断はどうするのかということもあったようです。
しかし、やはり米国米財務会計基準審議会(FASB)でのれんの償却に関する議論が9月の取り下げられたことが大きいでしょう。投資家の反対が大きく、取り下げられたようです。
ただ、文書に書かれていない本音ではのれんを償却するとなるとM&Aで成長してきた企業は巨額の償却費が利益を圧迫するということがあるのではないでしょうか。これは嫌がるはずです。日本企業でもソフトバンクグループや武田薬品など巨額ののれんを持つ会社はみなIFRSを適用しているのはそのためもあると思われます。もしかすると前述の日本企業のおける企業の純資産に比較してののれんの小ささは償却費にあるのかもしれません。
今後の方向性としてIASBの資料によると、より減損テストを効果的に、一方シンプルにしていくことを考えていくようです。Exposur Draft(公開ドラフト)がこれから作成される模様です。減損テストを「効果的でシンプル」、これを両立させるのはなかなかハードルが高いと思われます。
ただ単にまた複雑で難解なものにならないことを祈りたいです。