イトーヨーカドーの大リストラ成功のカギとは?
2023.03.20 カテゴリ: 企業の業績分析、企業経営での留意点、経営戦略。
目次
1.イトーヨーカドーの大リストラの内容
3月9日セブン&アイホールディングス(以下セブン&アイ)は「中期経営計画のアップデートならびにグループ戦略再評価の結果」を公表しました。その中でやはり話題を呼んだのはイトーヨーカドーをめぐる多くな戦略転換だと思います。
その骨子としては以下といえます。
・食を中心として再構築し、自社で運営するアパレル部門から撤退する
・33店舗閉鎖予定であったが14店舗追加で店舗閉鎖
・特に首都圏の事業においてヨーク(食品スーパー)との統合を進める
・サプライチェーンの効率化やネットスーパーの推進
そして、2025年EBITDA550億円ROIC4%以上を目指すとしています。
今までのイトーヨーカドーは首都圏・大都市圏集中のGMS(総合スーパー)でした。ただ、業績の悪化に伴い、2020年度までに実は182店舗あったものを132店舗まで縮小し人員約1000人を削減、そして2021年度も4店閉鎖し400人を削減とずっとリストラ基調が続いていました。
その中でも単に縮小均衡だけでなくアパレルのテコ入れも考え、伊勢丹のカリスマバイヤーだった藤巻幸夫氏を登用したがうまくいかず、その後もそごう・西武とブランドをつかったり、高田賢三氏と提携などいろいろ手は尽くしましたが実を結びませんでした。
イトーヨーカドーはイオンと違い、イオンはロードサイドの大型店で他の小売業を誘致するデベロッパー型なのに対し、イトーヨーカドーは駅近の一等地に立地、一階食料品、2階が衣料雑貨で自前でやる純粋なGMSであることにありました
さて、今後イトーヨーカドーはこの戦略転換で目標を達成できるのでしょうか
2 目標達成は可能か
閉鎖店は採算が悪いと考えらられ利益にプラスとみられる一方、衣料品からの撤退については一般的には粗利は衣料品の方が食料品より高いので衣料は不振だったといってもこのあたりの利益にあたる影響は外部分析ではわかりません。 ただ、衣料はなくなっても賃貸することによってほぼ営業総利益は一緒を保てると仮定して計算してみます。2021年度決算(2022年2月)をみると、営業総利益約2600億、そのうち人件費が860億、家賃が460億、その他が1230億でおおよそEBITDAが149億円という計算です。
約3分の1の店舗の閉鎖で人件費と家賃が3分の1削減できると仮定すると(860+460)÷3=440ほどEBITDAは良化します
現在(2022年2月決算)EBITDA149億+440億=589億で机上の計算上では550億は無理な目標ではないかもしれません。
ではROICはどうでしょうか?ROICは税引後営業利益÷(有利子負債+株主資本)です。減価償却費も3分の1減少するとすると現状の133億÷3×2≒88億減ります。EBITDA589億からこの減価償却費88億を引いて実効税率30%と仮定して計算すると税引き後営業利益は(589-88)x(1-0.3)≒350億です。
有利子負債と株主資本はそれぞれ515億と4996億なので350÷(515+4996)≒6.3%
でROICの達成も机上の計算では可能でした。
さて本当にこれは現実的なのでしょうか?
3.現実的な目標か?
ポイントはROICの場合、店舗の閉鎖等により分母の投下資本の方は減ると思われます。問題はROICの分子と、EBITDAの達成の方でこちらの方がハードルが高いといえます。
まず、店舗の閉鎖で簡単に上記の計算ほど人件費や家賃等は減らせせるかがあります。そしてさらにハードルが高いのは、当たり前だが単にリストラしただけですと店舗も販売員も減るので、ふつうは営業収益も下がり、その結果営業総利益も下がります。この計算の仮定のようにほぼ営業総利益もほぼ同様の数値が達成できるのかという意味ではEBITDAのハードルは結構高いといえます。実はこのあたりのトップラインどれだけ今回の構造改革で改善できるかが実はカギとなります
そのためには、グループの中の食品スーパーの優等生であるヨークベニマルのノウハウの統合、そして撤退した食品以外のフロアの有効活用といったデベロッパーとしての能力がどれだけあるかにかかっています。加えて、このリストラをどれだけ従業員のモラル・モチベーションを保ちながら、しっかり削減できるかのあたりの巧拙さでずいぶん2025年見えてくる景色が違ってくるといえます。
これで最後の純粋なGMS(総合スーパー)という業態:いわゆる食品だけでなく衣類や家電といった生活全般をほぼ自前で一手に扱う形態は日本からほぼ姿を消した形になります。やや寂しいですがが古い時代は終わったといえるのでしょう。