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働く女性の明るい出産、暗い出産

2023.07.05 カテゴリ: グローバルビジネスダイバーシティ経営企業経営での留意点

1.日本の会社での妊娠の話

 数日間沖縄で早めの夏休みです。割とぼ~としたり、本を読んだりしています。その時ふと思い出したのがこの光景です。多分「異次元の少子化対策」などのニュースを見ていたからかもしれません。

  ある欧米企業の日本法人時代、約20年前の話です。私の部署のスタッフの女性、くらい深刻な表情で私のオフィスの開けたドアのすき間から顔を出し「ご相談があるのですが・・」といいました。そして、私の部屋に入ってきて「ドア閉めていいですか」、私は、「退職かしら?少し元気ないように見えていたし・・」などとすごく心をざわつかせながら「どうしたのですか?」と尋ねました。すると・・・ 

 「実は妊娠していることが分かりました」と告げられ「へ?」私は拍子抜けして、一方あまりに暗い顔しているので少し顔を引きつらせながら「それは、お、おめでとう。よかったね」と返答、その中で、もしかして辞めたいという話かなぁ?それとも私は身に覚えないですが、もしや社内不倫では?などとぐるぐる頭の中でめぐっていました。

 「それで相談したいということは?」、「いろいろとご迷惑をおかけするかもしれないのでお話しておいた方がよいかと・・」心の中では「え・・・それだけの話?だったらなんでそんな暗い顔しているの?」と拍子抜けしつつ思いました。一人目の妊娠でナーバスになることはわかりますが、子供を授かるのはうれしいことだと思います。

 そして、日本法人といえども欧米系の会社ですからマタハラなんてご法度です。「当然体調が一番、検診なども気にせず行ってくださいね、仕事の調整も必要だから、チームメンバーともお祝いかねて話しておかねばね」と伝えました。

 当時私と彼女は、事業計画やそのモニタリング・分析・フィードバックするセクション、経営の中枢にも関わり、かなりプレッシャーも強く激務ですので、確かに彼女もそれとの兼ね合いで悩んでいるのだとは思いました。ただ、「絶対にほかの人には言わないでください」との返事、強い要望なようだったので、あまりくどくどと理由も聞かず受け入れました。その後、いろいろあったのですが、体調が悪いようで、遅刻、早退、休みもしばしばあり、ややチームの間でのぎくしゃく感には少し苦慮しました。

 最近はずいぶん変わりましたが、やはり妊娠したことをしばらくは秘密にしてほしい(多分初期は流産の心配などもあるから、または不妊治療をしている人に気を使ってなどいろいろ理由はあるとは思います)ことは日本では少なくないようです。そして、どちらかというとあまり明るい雰囲気は漂ってきません。対照的なのはアメリカでの話です

 

2.アメリカで働いていた時の話

 上司である副社長の女性、彼女のオフィスの前を通りかかったとき、ふとあけたドアから目が合い、彼女が手招きしています。なんだと思って部屋に入ると、「ねえ、タカシ、聞いて、聞いて、妊娠が分かったの、2人目よ。すごくうれしい」「Congratulations! おめでとう!とその場でハイタッチです。妊娠は日本語でも「おめでた」といいますが米国企業の本社オフィスでは本当に「おめでた」で妊娠したことに対し皆心から祝福してくれて一種のお祭り騒ぎです。

 ある程度状況が安定してきたら会社ではみんなで「ベイビーシャワー」といったミニイベントをやります。会議室飾り付けてお金出し合ってギフトを買い(多分会社の補助もある)、金曜日の午後にスイーツ食べながらみんなで祝福します。出産を会社としてもおめでたいイベントにしているわけです。

 ただ、一方である意味厳しい現実もあります。アメリカで働いていたころ、私はいわゆるホワイトカラーで長い育児休暇をとる女性、たまたまかもしれないが見たことがなかったです。出産の直前まで大きなおなか抱えて働き、出産後ほぼ数週間で復帰、長めの夏休みといった程度しか休みません。

 これはあくまで想像ですが、競争は厳しい、1年も休んだらキャリアの中断で明らかに不利になります。オフィスにいる時間はそもそも拘束されないので時短でも構わないのですが結果はシビアに見られます。出産に対し不利な扱いはしないですが、一定の配慮はしつつも結果に容赦はないです。決してやさしいだけではないわけです。

 当時から在宅勤務できる土壌はあり、オフィスがノートパソコンに大型モニターつなぐ形で、暗号トークン使ったVPNや電話会議の仕組みがあるのはこういった人たちに対して優しい仕組みとは思いますが。

 

3.少子化とキャリア志向の女性

 少子化対策、「働く女性」とひとくくりでは言えないところがあります。日本の長い育児休暇制度はキャリア志向の女性とって、キャリアの中断になってしまい、必ずしも望ましくないかもしれないです。仕事も子供もと両立させる自由だってあるはずです。ところで、なぜ米国のキャリア志向の女性はすぐ職場に戻れるのでしょうか?

 良く言われるワンオペではない、夫と手分けをしているというのは一つの理由です。場合によっては逆に妻がバリバリ働き、夫が少しセーブして育児を中心的にやるといったケースもいくつか出会いました。 

 ただ、私の上司のようないわゆる上級管理職で、かつ夫も高収入で活躍しているパワーカップルの場合は両方激務でそれも難しいと思います。これも個人的な印象ですがこういったパワーカップルの場合、日本はお子さんがいないケースが多い気がします。当然、米国も多様性の社会なのでDINKSもいますが、パワーカップルの「金持ちの子沢山」もいます。

 このような人はどうしているのでしょうか?ここにはナニーの普及というものがあると思います。ナニーは専属で長時間、場合によっては住み込みで子供の面倒を見る人、日本だと古くは乳母(自分の乳は上げないが)のような存在かもしれません。ですから、子供の送り迎えなどもやってくれるケースもありますし、ちょっとした病気ならば特に夫婦どちらかが休むなどということも必要ないです。アメリカの場合、フィリピンの女性などをナニーとしてよくみかけました。

 こうして、パワーカップルは夫婦ともにバリバリ働いてバリバリ子供も産んで育てて「金持ちの子沢山」だったわけです。日本でもワンオペの解消も大切ですがこういったナニー制度もう少し普及するとこういったスーパーカップルにも良いかもしれません。

 こうしてみると、多様性のある、働く女性のサポートメニューが国の制度も必要ですし、民間の制度も合わせて発展することが大切でしょう。加えて出産に対し企業が「必要悪」(仕方ないけど法律で決められているから)ではなく「祝福」としてとらえているかは非常に大きいと思います。それと加えて社会の在り方もあるでしょう。

4.社会が子供に寛容

 アメリカ生活の思い出ですが、小さな子供2人を連れているとみなさんにこやかに微笑んでくれますし、いろいろな人が助けてくれました。電車やエレベーターの中、道端でも“Cute! “”Beautifull“なんて声かけてくれます。日本だとどうでしょうか?にこやかに対応してくださる方もいますが、一方電車の中で赤ちゃんの泣き声に舌打ちや、場合によっては怒声を浴びせる人も少なくないです。

 さて、私の場合ですが自分の子供が小さいころアメリカにいたので、そういったことをまわりから受けていると自然に自分も同じように行動できます。私が別に人間的に優れているからではなく親切の伝播はあると思います。私自身、独身の頃は正直通勤電車の赤ん坊、うっとうしいと内心思っていたタイプです。でも不思議と、人にやさしくされた体験により自分もやさしい気持ちになれます。泣いている赤ちゃんに自然ににっこりできますし、すまなそうにしている両親に「大丈夫気にしなくていいですよ。赤ちゃんは泣くのが仕事ですから・・」などと思い、場合によってはお声がけします。

 こういった子供に寛容な社会に向かうことも実は少子化対策に必要かもしれません。

 

 

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