ビックモーター事件の盲点とは
2023.08.21 カテゴリ: 人の育て方、企業経営での留意点、経営理念。
目次
1.経営計画書
株式会社ビックモーターをめぐる様々な不正や問題点、メディアをずいぶんにぎわしました。改めてここでその詳細を説明するまでもないとは思われます。一方、その中で不正の原因として、以下の三点セット、経営計画書、清掃活動、数値管理が取り上げられていました。合わせて、一部のマスコミでは指導をしていたコンサル会社まで批判されていました。本当にこれ自体が問題なのか少し考えてみたいと思います。
まず、経営計画書に記載されていたおきてです。結構このおきてはブラック企業そのものだと批判を浴びています。少し見ると、「会社と社長の思想を理解」できない社員は辞めてくれ、理解できる社員で「仕事の能力」が高い社員はぜひ一緒に働いてほしいし、たとえ「仕事の能力」が低い社員でも「よい上司をつける」と最初に書かれています。こういった会社の価値観に合わない社員はいてほしくないという考え方、いわゆる世界のエクセレントカンパニーには割と共通している考え方です。会社が大きくなれば社員間の一体感をもたらすものは「価値観」であり大切にしている会社は多いです。
批判されている「幹部に部下の生殺与奪権を与える」ことも、本来のこの言葉の重要性はそれだけ権限があるのだから当然それに伴う義務も幹部にあるということです。部下が失敗すれば「生殺与奪権を与えられた」幹部の責任であるし、したがって、部下をしっかりと育成し、その結果の責任は自分がとらなくてはならないという義務も同時に発生するのがこの言葉の本来の趣旨だと思います。つまり経営計画書に書いてあることは決して誤りではないのですが、本来の趣旨とは違った方向に運用されていると言えます。
2.清掃活動
清掃活動の話も有名でしょう。副社長を中心とした大名行列が店舗に現れ、落ち葉一枚店内の敷地に落ちていただけで店長が降格になる事はずいぶん記事で見ました。その結果街路樹に除草剤をまいて枯らすような暴挙に出る店舗が出ることは衝撃を与えました。私もつい道でビックモーターの店舗を見るとその前の植え込みや街路樹に反射的に視線が行ってしまいます。この活動も、もとは5S活動、「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ(躾)」をしっかり行うことで製品・サービスの質を向上させる活動からきています。無駄なスペースをなくし、効率性を高め、製品やサービスの質を高め顧客満足を高めることが目的です。
したがって、あくまでも清掃活動は手段であり目的ではありません。私の知っている企業でこういった5S活動を取り入れている会社、社長や役員も率先してやっています。極端な例では社長自らトイレ清掃を毎朝する会社の例も聞いたことがあるくらいです。そういったことを副社長自身がやっていれば落ち葉一枚で降格などということがいかに無意味かよくわかるとおもいます。これも、手段が目的化して本来の精神を忘れているといえます。
3.数値管理
営業部門は販売台数・買取台数・店舗の経常利益。サービス部門だと車検の台数が厳しく数値管理されていました。そして問題としてクローズアップされた修理ノルマ1台14万円などとにかく数字だけで厳しく判断・管理されていたようです。この会社で言われていた「数字は人格」という言葉、これも誤解されているようですが、この本体の趣旨は、古い体質の会社でありがちですが、「あの人はいい人だから・・」などというあいまいな好き嫌いで評価せず、数字で客観的に評価しようということです。
数値管理が問題なのではなく、結果数値、それも1台当たりの修理金額など本人では通常コントロールすることが不可能な数字で管理していることが問題です。数値で管理して評価すること自体は問題ではないのですが、KPI(目標数値)の設定が本体その人がコントロール不能なものであったり、非現実的であったりして、かつそれに降格・叱責などの恐怖政治が加わると不正などの温床になります。
『常にお客様のニーズに合ったクオリティの高い商品、サービス、情報を提供する』という経営理念がビックモーターにはあるようです。本来この理念に基づいた「会社と社長の思想」であればそれを理解できる社員だけに残ってほしいという経営計画書は非常に理にかなっていたはずです。それに従った、清掃活動や数値管理であれば実は優れた仕組みなはずです。低い倫理観のもと、歪んだ価値観といった間違った方向に、しかし精緻に経営ツールを使ってしまったというのがこのビックモーターの根本原因だと思うのです。