なぜDDSの粉飾決算を太陽監査法人は見逃したのか?
2024.02.08 カテゴリ: 会計・税務、会計不正、会計監査。
目次
1.太陽監査法人の処分
昨年の12月26日金融庁より準大手監査法人である太陽監査法人に対して業務停止処分が下されました。いわゆるビッグ4といわれるトーマツ、あずさ、新日本、あらたの4監査法人の次に位置する準大手監査法人です。昨年8月4日に上場廃止となった生体認証技術を使ったセキュリティ製品の開発・販売をしていたDDSの監査が契機になったといえます。
処分内容をもう少し詳細に述べると、3か月の新規契約の停止、業務改善命令に対する報告義務、9600万円の課徴金など、及び関与した社員の懲戒です。大手監査法人が規模の小さな上場会社に対し大幅な監査報酬の値上げなどで切りにかかっていた一方、わりと太陽監査法人は積極的にとっていました。
急速な拡大で監査業務の品質管理に問題が生じていたなどと新聞等には書かれていましたが、主たる要因はDDSの監査において平成29年12月期から令和3年12月期までの売上過大計上を見逃していたことと、それが発見された後の訂正有価証券報告書において大きな誤りを見落としていたことです。
大きな誤りの見落としは決算書において前期繰越損失+当期損失=当期繰越損失であることが当たり前ですが、前期繰越損失+当期損失≠当期繰越損失である訂正報告書に適正意見を出してしまいました。
前者はともかく後者は街の中小企業の決算書でもあまりないようなことで、かなりびっくりしました。さて、前者の売上過大計上とは何でしょうか?
2. DDSの粉飾決算とは
DDSにおいては売上過大計上だけでなくいくつか粉飾が決算書でされていましたが、主となる粉飾は実質的には創業者三吉野氏が支配するMMT社に対して売上を計上し、それが焦げ付くとM&A化によって子会社化することによって糊塗した取引です。
もう少し詳細に言うとMMTの100%株主は三吉野氏が100%株式を持つ会社なので実質的に支配しているといえますので会計基準上連結子会社といえます。連結子会社への売上は要するに企業グループ間の内部取引にすぎませんから連結消去、つまり売上は計上できません。
2018年に計上された受託開発約50百万とライセンス料392百万の売上は計上できないということになるわけです。結局その大半が回収されることなくDDSが主としてその滞留売掛金を対価として買収することになりました
もう少し考えてみると、この取引は2018年12月に392百万の売上でこの年の決算の売上1215百万の大部分を占めるうえ、かつ期末直前です。かなり疑わしいです。
他にも三吉野氏が資金を提供して自分自身が実質的に支配している会社との取引の売上が計上されており、加えて収益の意図的な前倒し計上、本来費用とすべき者について資産計上するなど、かなり意図的な粉飾が続出していたといえます。
しかし、こういった粉飾を防ぐために監査があるはずでなぜ防げなかったのでしょうか?
3.なぜ会計監査で防げないのか?
第三者委員会の報告では原因究明の中で会計監査についてほとんど言及されていないのでこの報告書を見た限りでは監査法人の責任については報告書からは直接読み取れません。ただ、一般論として以下のようなことが言えます。
監査においては、担当会計士のほかに品質管理担当の会計士がおり、この品質管理担当者は監査調書や資料をみて会計処理における判断が妥当かについて審査を行う手続きになっています。加えて、ここで上がっているような売上の計上、特に期末直前に計上された金額の大きい案件などはかなり慎重に監査も行われますし、審査も行われるはずです
確かに主原因となっている2018年12月の案件については表面的には契約書などはそろっているので見破りにくい案件ではありますが、そもそも株主関係や信用状態もわからない会社に与信を与える(売掛で取引をする)というのはいかにも不自然です。通常ですとこのような疑問点を残したまま監査意見は出しにくいと思われます。
担当会計士がなんとか意見を出そうとしても品質管理部門がストップをかけるというのが通常でしょう。ただ、監査意見を出さない=意見差控えというのは極めて勇気の必要な決断ですのでこれは担当会計士だけでなく、組織としてどう判断するかが問われる事象でしょう。
まとめると、残念ながら品質管理の体制といい、組織の意思決定の体制といい監査法人自体のガバナンスが働いていなかったといえるかもしれません。
最近の監査実務、私見ですが厳格化という方向「良く言えば精緻、悪く言えば無駄に細かい」ですが、こういった粗雑な監査案件が発生するのは不思議でもありますし、残念でもあります。妙に細かい監査に疲弊した現場には「とりあえず資料集めて説明できればいい」というような荒廃がたまに感じられます。私見ではありますが、こういったモラルの崩壊がもしかすると根本原因ではないかと感じられました。