セブン&アイの買収の盲点
2024.12.12 カテゴリ: M&A、グローバルビジネス、ダイバーシティ経営、企業経営での留意点。
目次
1.今までの経緯
2024年8月19日、セブン&アイはカナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)から法的拘束力のない初期的な買収提案を受けていることを明らかにしました。買収価格は約6兆円弱でしたが、一蹴しました。
マスメディアが伝えるところでは6兆円という買収価格はセブン&アイの企業価値を評価していない(買収価額が安い)ところに焦点があたっていましたが、セブン&アイの特別委員会の回答を読むと米国等の独占禁止法等の競争施策に対する対応がはっきりしない、日本における食料品小売や銀行業への理解が乏しいなど「できない」理由が列挙されています。あくまでも個人的な印象ですが、「買収されたくないぞ」という気持ちがひしひしと伝わるような文章でした。
これに対しACTはもう10月9日に再提案、価額を約7兆円に引き上げました。一方、創業者である伊藤家からMBOの案が11月13日に出され、この両案を現在、独立社外取締役のみの特別委員会を立ち上げ検討しています。特別委の委員長は取締役会議長でもあるスティーブン・ヘイズ・デイカス氏が務めており、ACTの提案と創業家の提案、さらに現経営陣が打ち出している成長戦略を続けた場合の3つのシナリオを中心に検討。どれが企業価値を最も高められるのか精査しています。
2.北米におけるコンビニ
私の記憶ですが、アメリカに住んでいた際、コンビニ行ったことがありません。北米でマンハッタンは別ですが、それ以外では、あくまでも私見ですが米国のコンビニのイメージは「広い意味でのガソリン」を売っているところです。
当然ここには車に入れるガソリンも販売していますが、飲食料を人間向けのガソリンとして販売しているイメージです。ガソリンで別にサウジアラビア原産のテキサスの製油所で精製した・・・などとこだわる人は誰もおらずとりあえず、車が動くように入っていればいいです。要するにここで販売している飲食料品も「人間の燃料」としてカロリー補給が主なので別に美味しいものは期待していません。したがって、イメージとしては運送関係の人や、どちらかというと中下層の人たちが利用する感じでした。
したがって、日本のコンビニのようにこぎれいで、結構品質の良いものが売っている印象はありません。あまり日本のようにホワイトカラー層の立ち寄りやシニア層のちょっと買いといったニーズはないといえ、要するに北米の顧客ターゲット層と日本のターゲット層は全く違うことは確かです。
ACTの年次報告書を見てもガソリンの売上が$51B(約7.5兆円)、飲食料品が$17B(2.5兆円)でガソリンの方が売り上げは多いです。ただし、粗利はガソリンが$5.9B(約8千億円)に対し飲食料品も$5.9B(約8千億円)とかわりません。ロードーサイドでガソリンを入れたついでに一休みして飲食料品を購入というモデルでガソリンはどちらかというと客寄せ商品なのでしょう。
こういった日本と全然違うモデルACTとセブン&アイどちらがうまくやっているかというとACTの方が数値を見る限り巧みにマネージしているといえます(後述しますが営業利益率はかなり違います)。
3.今後どうなる
今回のACTの提案、巨額であり買収は可能なレベルなのでしょうか。セブン&アイは約2.7兆円の借入金でACTは約2兆円の借入金があります。今回の7兆円の買収ですべて借入とすると総額13.7兆円の有利子負債となり巨額です。
ただ両方とも高収益企業EBITDA(営業利益+減価償却費)はセブン&アイが約1兆、ACTが9千億円(ともに直近の決算数値)なので13.7÷1.9=7.2(有利子負債÷EBITDA)となります。つまり現状のままでもすべての負債を7年で返済できるわけですから財務体質が悪化はしますが、維持は可能なレベルといえます。よく言われるEBITADA倍率も7兆÷1兆=7倍で10倍以下、数字的には割高な株価ではありません
気になるのは、やはり米国のコンビニと日本のコンビニそもそも全然違った形態のお店、どのように日本のコンビニを経営するのかはよくわからないことでしょう。特にグローバル展開の遅れという意味からも今の経営陣をそのまま残すとは思えないですが、いきなりカナダから経営陣がやってきてもできるとは思えません。かなりしっかりとセブン&アイの経営をある程度任せられる人材の抽出のための「ヒトのデゥーデリジェンス」が必要でしょう。
ただ実は日本はフランチャイズ、海外は直営が多いということで単純比較はできませんが、実はセブン&アイの海外コンビニ売上はグループ全体の75%を占めています。ACTの売上高営業利益率が5.5%なのに対し、セブン&アイの海外コンビニ売上の売上高営業利益率は3.5%と大きく差をつけられている状況です。少なくとも、北米における収益率は買収によって大きく改善する可能性はあるかもしれません。
セブン&アイが真のグローバル企業になるための選択肢が3つしかないとしたらACTの買収が一番良いのではと思うのは私だけでしょうか。