ブログ

HOME > ブログ > 企業経営での留意点 > ガバナンス > かなり残念なセブン&アイの行方

かなり残念なセブン&アイの行方

2025.03.10 カテゴリ: ガバナンスダイバーシティ経営企業経営での留意点

目次

1.今までの経緯

 セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)は、2024年8月、カナダの大手コンビニエンスストア運営会社であるアリマンタシォン・クシュタール(以下、クシュタール)から法的拘束力のない初期的な買収提案を受けたことについては以前のブログでも述べていました。

セブン&アイの買収の盲点 | ハンズオン・CFO・パートナーズ

​ クシュタールは「サークルK」などのブランドで世界29カ国・地域に約1万6700店舗を展開する企業で、その提案額は約7兆円と報じられています。 ​3月に入って大きな動きがあったので少し以下の通り整理してみました。

 この提案に対し、セブン&アイは独立社外取締役のみで構成される特別委員会を設置し、慎重に検討を進めました。​その結果、2024年9月、提案額が企業価値を著しく過小評価していることや、米国の競争法当局との関係で重要な課題が適切に考慮されていないとして、クシュタールの提案を拒否しました。 ​一方、セブン&アイの創業家側は、同年11月に経営陣による自社株買収(MBO)を提案し、非上場化を目指す動きを見せました。​しかし、資金調達の面で課題があり、伊藤忠商事などからの出資を得られなかったため、MBOは頓挫しました。 ​

 これらの動きを受け、セブン&アイは自社の成長戦略を再評価し、経営体制の刷新を決定、​2025年3月、井阪隆一社長が退任し、現取締役会議長で筆頭社外取締役のスティーブン・ヘイズ・デイカス新社長が就任する予定です。​4日の読売新聞の記事によればセブン&アイはクシュタールの買収提案を拒否し、新経営陣の下で、セブン&アイは自力での企業価値向上を目指す方針を固めています。(注;ただし、セブン&アイのホームページでは買収提案の拒否についてはいったん否定をしています)

 

2.マネジメント施策に関するアップデートについて

 こういった大まかな方向性とともに、セブン&アイは3月6日マネジメント施策に関するアップデートを公表しておりおもな骨子を簡単にわかりやすくまとめると以下のようになります。

 

1.アメリカのセブン-イレブン(SEI)を独立させる(IPOの実施)

 2026年の後半までに、アメリカとカナダで事業を展開する「7-Eleven, Inc.(SEI)」の株を市場に公開し、独立した会社として運営できるようにし、これにより、成長のスピードを上げ、経営の自由度を高めることができると述べています。

2.スーパーマーケット事業(SST事業)やセブン銀行をグループから切り離す

 セブン&アイは、コンビニ事業に集中するために、SST事業(イトーヨーカドーなど)を売却し、グループから外します。また、セブン銀行も独立させることで、グループ全体の経営をシンプルにし、効率を上げることを意図しています。

3.株主にもっと利益を還元する

 2030年までに、合計2兆円(約132億ドル)を株主に還元する予定、自社の株を買い戻したり(自己株式取得)、配当金を増やしたりすることで実現するとしています

4.コンビニ事業をさらに強化

 セブン-イレブンの国内外の店舗を増やし、特に食品やデリバリー、デジタルサービスを強化する計画を立てています。アメリカにおいては、オリジナル商品の開発や物流の効率化を進め、競争力を高めるとしています

5.経営のリーダーを交代し、新しい戦略を加速

 会社の成長戦略を進めるため、新しい社長兼CEOとしてスティーブ・デイカス氏が就任します。彼のリーダーシップのもと、改革をスムーズに進める計画のようです。

 ざっくり方向性としてセブン&アイは「コンビニ事業に集中する」ことで、より成長し、株主にも利益をもたらす経営を目指すという主張です。要するに独立して自分でやっていくよということです。最後に個人的所感を述べます。

 

3.個人的所感

 率直に所感を申し上げると、とにかく買収をされないために泥縄式に作った薄っぺらい内容のようにしか見えませんでした。

 まず、短期的な株主還元に偏りすぎた戦略は賛同できないです。セブン&アイは、2030年までに2兆円を株主に還元するとしていますが、この巨額の資本を自己株式取得と配当に使うことが、長期的な企業成長につながるのかは疑問です。特に、コンビニ業界は競争が激しく、新たな市場の開拓や技術革新が求められる中で、資本の使い道として成長投資よりも株主還元を優先することは大きな疑問です。

 北米のセブン-イレブン(SEI)のIPOを実施し、成長の加速を目指すとしていますが、米国市場での競争は非常に厳しく、現に第3四半期累計では北米事業の営業利益の落ち込みが減益予想の主な原因となっています。また、IPO後もセブン&アイが過半数の株式を保有するため、完全な独立経営とはならず、非常に中途半端、企業価値の最大化につながるかは不透明です。独占禁止法上の問題があるとしても北米市場で大きな利益を上げているクシュタールの力を借りた方が良いのではと現状の数値的には思われます。

 そして、今回の戦略では、北米事業の成長を重視していますが、一体日本国内の課題についてどうするの?とについて明確な解決策が示されていません。日本のコンビニ業界においてセブンイレブンの劣化がささやかれる中、国内市場における本質的な改革にほとんど触れていないのはがっかりでした。

 一方、一つの目玉が新たにスティーブ・デイカス氏をCEOに任命することで、改革を進めることが挙げられます。私が以前一緒に働いたことがある知人から聞いたことがあるのですがディカス氏は人柄もよく仕事ができる人らしいです。ただ、セブン&アイのようなグローバル巨艦を導く力量があるかは未知数といえます

 しかも、今まで社外役員、取締役会議長としてクシュタールの買収について審査していた側がいきなり執行側の社長になるといった展開もすっきりしません。執行側の社長含みで社外取締役になった人が執行側から独立した議論をそもそも今までしていたの?と不思議に思います。

 個人的な見解ですが、セブン&アイが真のグローバル企業になるための選択肢はこの戦略を見てもクシュタールによる買収が一番良いのではと思うのは変わらないというのが実感です。

お問い合わせはこちらまで

TOP