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パナソニックが選んだ意外な人員削減の秘密とは

2025.05.27 カテゴリ: 企業の業績分析企業経営での留意点経営戦略

目次

1.初めに

 5月9日パナソニックが突如発表した約1万人規模の人員削減が波紋を広げています。これは、グループ全体の従業員約22万8千人のうち、約4%に相当する規模です。削減対象は、国内と海外でそれぞれ5,000人ずつ。本体だけでなく傘下の事業会社にもまたがり、人事・経理・企画といった「間接部門」が中心となっています。

 発表の場で楠見社長は、「雇用に手をつけることは断腸の思い」と述べつつも、自らの報酬40%カットを表明し、強い覚悟を示しました。重要なのは、今回の削減が業績不振による非常手段ではないという点です。パナソニックHDは、13年3月期以降、12期連続で黒字を維持しており、財務的な体力には余裕があります。では、なぜ黒字でも人員削減をするのか?何が、これまでのソニーや日立の改革と違うのか?そして、これ皆さんビジネスパーソンの働き方にどんな影響を与えるでしょうか?

2. 人員削減の概要

 2025年5月9日、パナソニックホールディングス(HD)は全体で1万人の人員削減を行うと発表しました。これは、グループ全体の従業員約22万8千人のうち、約4%に相当する規模です。削減対象は、国内と海外でそれぞれ5,000人ずつ。本体だけでなく傘下の事業会社にもまたがり、人事・経理・企画といった「間接部門」が中心となっています。発表の場で楠見社長は、「雇用に手をつけることは断腸の思い」と述べつつ、自らの報酬40%カットを表明し、強い覚悟を示しました。

 重要なのは、今回の削減が業績不振による非常手段ではないという点です。パナソニックHDは、13年3月期以降、12期連続で黒字を維持しており、財務的な体力には余裕があります。2025年3月期も売上約8兆4千億、営業利益約4200億とまずまず好調な決算でした

3.日本企業人員削減のパターンと今回のパナソニック

 多くの人が疑問に思ったのは、「なぜ黒字で業績も悪くないなのに人員削減をするのか?」という点でしょう。今回の人員削減は、赤字を埋めるための「守りのリストラ」ではなく、今後の収益力を高めるための「攻めの構造改革」です。パナソニックHDは、近年の投資家や市場からの指摘を受けて、「重複した間接部門が多すぎる」ことに課題を感じていました。グループ会社それぞれが経理・人事を持ち、非効率になっていたのです。

 昭和の時代日本企業にとって人員削減はタブーでした。「雇用は聖域」などという言葉も昔はありました。バブル崩壊を経てリストラという名前の人員削減が始まりましたが、これは「不況型」といえます。売上やそれに伴う製造の減少に伴う、現場の工場や販売部門などがリストラ対象になっていました。 その後、現れたのが「集中と選択」に伴うリストラ、いわゆる不採算な部門ごと人員を削減してしまう、いわゆる事業+人員の削減です。これを徹底的に行ったのが日立とソニーといえます。

 しかし、上記の2パターン、逆に本社やホワイトカラーは比較的守られる傾向がありました。しかし今回は、グループ全体の「間接部門」を中心にメスが入ったという点が、過去のリストラとは大きく異なります。これは“スリムで機動力のある本社”を目指すタイプといえます。割と米系企業などは常に間接部門のスリム化は目を光らせていて、大規模なパターンは組織再編で管理部門の重複をなくすパターンは昔からよくありました。

 一方あまり目立たないですが、選択と集中型のリストラも並行して行うようです。ただ、こちらは削減だけではなく、同時に再成長への布石も打っています。不採算事業の売却や統廃合を進め、資源をより競争力のある分野へ再配分するのが狙いです。さらに、構造改革全体で2027年3月期までに1220億円の収益改善効果を目指しています。

4.日立・ソニーとの違い

 過去にも大手日本企業は人員削減を行ってきましたが、今回のパナソニックのケースは、いくつかの点で異なります。少し日立

(1)日立:再建型の構造改革

 日立製作所は2009年の巨額赤字を契機に、大規模な事業売却・縮小を断行しました。製造業からIT・インフラ企業へと大転換を果たし、今や過去最高益を出す企業へと生まれ変わりました。日立の改革は、どちらかというと「生き残るための構造改革」。財務的に苦しい状況での決断でした。この時点で日立は家電事業をほぼ整理してしまっています。そういった面でパナソニックは戦略的に家電を残しているのか整理でき切れていないかはやや不透明です。

(2)ソニー:選択と集中による再生

 ソニーも2010年代に不採算事業の売却・撤退を進めました。テレビ・パソコン事業の縮小を通じて、イメージセンサーやゲームなど高収益事業に集中。劇的な業績回復を実現しました。ソニーの人員削減は、明確な「選択と集中」戦略の一環でしたが、パナソニックはそこまで大胆な事業再編には踏み込んでいるようには見えません。この点は株式市場などの反応が今一つな理由だと思われます。ただ、まずは組織の“横の無駄”をなくす方に注力している点が違いです。

(3)日本型雇用への挑戦

 パナソニックは、これまでの“日本的雇用慣行”(終身雇用・年功序列)を比較的色濃く残していた企業でもあります。今回、間接部門のベテラン社員にまで人員削減の対象が及んだことは、「役割と成果で評価される時代」へのシフト、大胆なジョブ型への移行を目指しているのかもしれません。

 

5.私的所感

 パナソニックの1万人削減は、「黒字の中であえて実行する攻めの構造改革」です。ただ、事業全体のポートフォリオの再考という面では日立、ソニーと比較して徹底度が足りないようには見えました。 ただ、守るためのリストラではなく、未来への準備としてのリストラ。この考え方は、今後の企業経営において新しい常識になるかもしれません。私たち働く側もまた、「変化に強い働き方」「役割と成果で動ける力」を求められる時代に突入しているのです。

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