コメ価格高騰の陰で──コメ卸売企業の利益激増、その背景とは?
2025.06.06 カテゴリ: 企業の業績分析、企業経営での留意点、経営戦略、経営理念。
目次
1.コメ卸売企業の利益増
今年は、コメの価格に注目が集まっています。天候不順や作付け面積の減少などを背景に、市場では「コメ不足」が取り沙汰され、スーパーや飲食店でも仕入れ価格の上昇が話題となりました。一方で、このコメ価格の上昇が、ある業界には追い風となっています。小泉進次郎農相が「社名言いませんけど米の大手卸売業者の営業利益500%ですよ」(注:おそらく営業利益が前年比約500%という意味だと思われます)と発表したようにコメの卸売業界です。とくに上場している2つの卸売企業は、今回の状況下で営業利益が大きく伸びました。確かに仕入れた後にコメ価格が上昇しているのですからある程度利益が出るのは許容範囲です。しかし、利益の裏側を静かに支えているもう一つの要素として、「棚卸資産(在庫)」の動きが注目されます。
卸売企業とは、農家や農協などから仕入れたコメを、量販店・飲食店などに販売する中間流通業者です。直近の決算発表では、主要なコメ卸売上場企業2社(ヤマタネ、木徳神糧)の営業利益が前年同期比で大幅に増加しました。特に「営業利益」が大きく伸びていた点に注目が集まります。
見ていくと、ヤマタネの2025年3月期の決算ではコメ卸セグメントの売上高が約341億円→約495億、セグメント営業利益は約6億から→約23億と大幅上昇です。木徳神糧は2025年第一四半期の業績を見ると売上約300億→約368億の増収、営業利益は約4億→約18億と大幅増収増益です。
2. 棚卸資産の増加に見る「備えと判断」
利益増加の一方で、財務数値上でもう一つ顕著な動きが見られました。それが「棚卸資産」の増加です。棚卸資産とは、企業が保有している販売用の在庫を指します。上記2社ともに、前年よりも在庫が増えている状況でした。木徳神糧の2024年12月期の在庫は68億→101億で約33億の前年比増加でした。
ヤマタネに至っては決算資料で「コメ卸売販売業において、原料調達が計画を下回り販売数量は71千玄米トン(前期比23.0%減)となりました」と「原料調達が計画を下回っている」にも関わらず在庫は23億円から55億円とやはり32億円増加しています。
確かに両社の年間の売上に対してはこの在庫、極端に大きな数値とは言えませんがそもそも卸売業薄利多売の業界なので通常はどんどん回転を高めて在庫は最小限といった業界です。あくまで仮説ですが、コメ価格の上昇を見越して、各社が早い段階で積極的に仕入れを行い、在庫を厚くしていた可能性はあります。。
そして、その後に実際の価格が上昇したタイミングで、仕入れていた在庫を市場価格に合わせて販売したことで、収益性が向上した──そんな構図が浮かび上がってきます。
3.売り惜しみか、リスク管理か?
棚卸資産が高水準にあるということは、「まだ売られていないコメが多く残っている」ことを意味します。これが一部で「売り惜しみではないか?」といった見方を呼ぶこともありますが、必ずしもそうとは限りません。企業としては、将来の価格変動を見越し、適切なタイミングでの販売を図るのは当然の判断です。
むしろ、急激な価格変動リスクを回避するための備蓄と見ることもできるでしょう。一方で、消費者の立場からすると、「在庫があるなら出してほしい」「価格を落ち着かせてほしい」と感じるのも自然なことです。このように、在庫戦略をどう評価するかは、立場によって異なる点でもあります。
今回のような市況の変動期において、卸売業に求められるのは「需給の安定」と「企業利益の確保」の両立ではないでしょうか。在庫をどのように保有・管理し、どのタイミングで市場に放出していくかは、単なる商売の話にとどまらず、社会的な影響も伴います。企業が過度に利益追求に傾くと、供給の不均衡を生み、価格の高止まりを招くことにもつながりかねません。その一方で、適正な利益を確保しなければ、持続的な事業運営も難しくなります。
こ のバランスをどう今回取ったのか?──まさに、卸売企業の社会的存在としての理念と経営手腕が問われる局面だったと言え、こういったところで本当の理念と経営手腕が見えてくるものです。