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シャープによるジャパンディスプレイ(JDI)白山工場買収の裏にあるもの

2020.09.02 カテゴリ: グローバルビジネス企業経営での留意点経営戦略

1.シャープによるジャパンディスプレイ(JDI)白山工場買収

 JDIは8月28日、i phone向け小型液晶の工場である白山工場をシャープに売却すると発表しました。具体的にいうと、白山工場の土地・建物・付帯設備等を 390百万ドル(412億円)でシャープに売却するものです。実は白山工場の液晶ディスプレイ装置を3月31日付でアップルに譲渡することになっていますのでその285百万ドル(約301億円)と合わせると合計675百万ドル(713億円)になります。

 そもそも白山工場はアップルの要請で建設し2016年12月から稼働したiPhone用液晶の量産工場でした。しかし翌17年には液晶から有機ELにiPhone上級機種用のディスプレイを変更したので液晶の需要は落ち込みついに19年7月には稼働を停止しています。

 これで700億円余りのキャッシュを手に入れて一息つくのかとおもえば、これはアップルの前受金の返済に充てるとのことでした。「前受金の返済?」というのは会計的には不思議に聞こえる表現です。通常前受金というと、製品を販売する前に代金をもらうといった際に計上するものです。もし、買い手の都合でキャンセルして販売が無くなっても、返金するのは通常一部です。このアップルとの「前受金」とはどのような性質のものなのでしょうか?

2.アップルの毒饅頭を食べたJDI

 実は白山工場自体前述したようにiPhone用液晶の製造工場としてアップルからの依頼で建設しました。この建設費用1700億円はアップルからの資金で建設しています。アップルとしてはこの工場で液晶ディスプレイを製造してその代金で返済してくれればいいよということでした。したがって、販売代金の前受金として計上したのです

 これだけ聞くとなんてアップルは優しい会社なんだと思いますが実はこれがとんでもない毒饅頭でした。ダイアモンドオンラインの記事19年3月28日付の記事によれば、アップルはJDIに対して「年間2億ドル(約220億円)または売上高の4%のいずれか高い金額を四半期ごとに返済する」
「JDIの現預金残高は300億円以上を維持する」という2つの契約条項を課しています。かつこの条件に違反した場合は全額一括返済または白山工場の差し押さえ要求ができます。これは、経済実態的にはアップルからの借入金でそもそも「前受金」計上が適切なのかはやや疑問が残ります。

 さて、よく考えてみればこの工場はアップルからの注文がほぼ唯一の返済原資といっても良いかと思われます。通常このような契約でればアップル側にも一定以上の注文義務があり、それを下回った場合補償が生じるというのが一般的です。ところがこの契約ではJDIの側には前受金の返済義務がありますがアップル側には(知る限り)一切の注文義務などはありません。そういった意味で毒饅頭なわけです。どうしてJDIはこんな一方的な状況を飲んだのでしょか?

3.シャープは毒饅頭を食べたか?

 ここからは想像の世界です。この契約の際、なんとなくアップル側の担当者「一定の注文は必ず出すから心配しなくても大丈夫」とか「誠実にこちら側も対処する」くらいの口約束はしているのではないかと思います。

 本人も嘘を言っているわけではなく、そのつもりはあったと思います。でも当然、いざ経営陣の意思決定の転換で有機ELにかじを切った際にサラリーマンが当然上の決定に逆らえるはずがありません。注文が大幅に落ち込んでも「契約に書いていない以上それ以上のことはできないといった形で頬かむりを決め込まざるをえないでしょう。良くも悪くも「弱い奴はしゃぶられる」という米国流資本主義がむき出しになったところでしょう。

 いろいろ事情はあったと思いますが、あとから見るとJDIとして白山工場建設の意思決定はずさんで甘いです。これがネックとなって、シビアな海外投資家などは出資に二の足を踏みました。シャープは交渉の中で最大の懸念である前受金問題をなくしたうえで白山工場を買収でき、ここで「iPhone」向け液晶製造を集約できました。また、アップルとの信頼関係を強める事もできました。なんとなく成功したような気はします。

 しかし、気になる点は製造設備自体はアップルの資産、これが使用できないとただのハコ、この製造設備の利用契約がキィーとなるでしょう。このあたりは不明ですが裏には鴻海がついています。アップルに一方的で有利な搾取モデルにはならないと想像します。そのあたりの国際的交渉の駆け引き、自分の経験からもやっている方は大変だなぁと同情しますが、外から見ている分にはドラマを模ているようでなんとなく楽しいですね。

 

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