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コロワイドによる大戸屋の買収で気になること

2020.09.16 カテゴリ: M&A企業経営での留意点経営戦略経営理念

1.コロワイドによる大戸屋の買収

 焼き肉の「牛角」などを運営する外食大手コロワイドによる定食チェーン、大戸屋ホールディングスに対する敵対的TOB(株式公開買い付け)が9月9日成立しました。これにより大戸屋は自主再建の道が閉ざされる瀬戸際にあるといえます。約47%の株式をコロワイドに握られ、コロワイドは取締役11人全員の刷新を要求しています。

 まだ、全貌は明らかになっていませんが、このM&Aの狙いの一つはコストの低減でしょう。そのポイントはセントラルキッチン(CK)方式の導入といわれています。CKは大量の食材を集中的に調理する大規模施設のことをいいます。各店舗では調理の仕上げだけで済み、厨房施設が要らず人員も節約できます。また、食材の一括仕入ができますので、仕入れ値が安くできます。加えて、各店舗での味のばらつきを防止できることとなります。

 しかし、大戸屋は店内調理にこだわっています。大戸屋の創業者のメッセージとしてこのような額が店にかざってあります。『「かぁさんの手作り料理をお値打ち価格で、お客様に」を”愛”言葉に…「かぁさん、おなかすいたよう」こんな言葉に、こんな心にこたえたい』です。CKだと手作り感は薄れると大戸屋の経営陣は思っているのでしょう。

 一方コロワイドは、大戸屋という看板で中身は甘太郎(コロワイドのチェーン居酒屋)をやろうという姿勢が見えます。少しM&Aのタイプからこの買収を見てみます

2.コロワイドの買収はどのタイプのM&Aか

 私はM&Aをタイプ別に分けると以下のようにわけられると思います。ただし、完全に分けられるものではなくそれぞれのタイプが混在しているケースもあります。

 ・戦略的M&A 
 ソフトバンクGのアームの買収、Facebookによるインスタグラム買収やGoogle によるYou Tube買収などが該当自社の現在やっているビジネスから別分野に進出、その分野を買収することによって自社グループを戦略的に強固にしていく

 ・営業的M&A

  規模的拡大を狙い顧客を獲得するもの。営業で取っていると時間がかかるので会社ごと買ってしまう「時間」を「お金」で買うM&A

 ・資産購入的M&A

 工場、店舗網、ブラン度名などの資産がほしいM&A、極端な話、オペレーションの運営に必要な人員以外はいらない

 このケースの場合、大戸屋という名前と店舗網がほしい資産的M&Aに近い形態に思えます。そのため、経営陣などは経営陣などは不要なわけです。したがって、大戸屋という看板・定食屋店舗とそこのお客は、ほしいですが、オペレーションは甘太郎なわけです

3.なぜ大戸屋は苦境にあるか

 まず財務的に見ていきましょう。飲食店にはFL比率という考え方はあります。売上に対するFood(食材費)とL(人件費)の割合です。飲食業はだいたい60%程度が目安と言われています。

 大戸屋の売上原価を食材費と仮定して計算すると69.6%と非常に高い比率になっています。(コロナの影響のない2019年3月期を使用)本社人件費なども混じっているのでやや高めに出てしまう一方、大戸屋はフランチャイズが多いので(463店舗中301店舗がFC)人件費は本来あまりかからないはずです。

 回転数の高い牛丼チェーンなどは高め、高級店は低めで松屋、吉野家は65~68%くらい、高級フレンチのひらまつは60%程度です。回転数の高い牛丼チェーンなどよりFL比率が高ければ経営は苦しいと思います。おそらく2019年6月の大幅値上げ、そのあたりの解消を狙ったのでしょうが、高いわりにはそれほどおいしくないというのが消費者の見方かもしれません。

 こういった意味では「財務分析的」な見方だけだとコロワイドの論点は一理あります。ただ、本当の問題点はこういった財務的な面なのでしょうか?

4。創業者の突然の死と低迷

  2015年創業者の突然の死、その後「かあさんの手作り料理を・・」といった理念が現場も含めてきちんと浸透しているのでしょうか?2019年3月には、仕事中に商品のプリンを勝手に頬張ったり、下半身を露出するような動画が直営店バイトによって公開されるいわゆるバイトテロが起きました

  その後も、ガイヤの夜明けにおける事業会社の大戸屋社長の態度がネット上で批判を浴びました。これは実際自分が見ていないのでよくわからないですが、強いて言えば作業分析の伴う科学的管理法を残業を減らすために導入しているようです。ただ、精神論を現場に振りかざすだけで抜本的な経営改革を行わない姿勢にみえてネット等で批判を浴びました。かなりひどい労働環境があきらかになり「お客様に愛を伝える」ことができるか疑問を抱いた方も多かったようです。

 別に昔に戻る必要はないですが、理念を見直してそれに沿った行動をしているか本当は見直す必要があったのではと思えて仕方がありません。理念から離れている以上大戸屋の看板付けた甘太郎になっても仕方がないかもしれません。一方、やはり運営するのはヒトですからいきなり上意下達の軍隊的コロワイドカルチャーに染めようとしてもかなりの困難な道がコロワイドにも待っているとは思えます。

 

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