驚くべきコンビニ会計 -コンビニオーナーになってはいけない
目次
1.コンビニオーナーになってはいけない
「コンビニオーナーになってはいけない」コンビニ加盟店ユニオン+北健一著を読みました。全体的トーンとしてセブンイレブンなどのコンビニ本部側がひたすら加盟店オーナーを搾取しているという構図で書かれており、全体的にバイアスがかかっている可能性があります。ただし、会計・財務の仕組みなどは比較的ロジカルに書かれており、かつ事実と反していればこのあたりは訴えられると思いますので、驚くべき会計・財務の仕組みについてのみ所感を述べておきたいと思います。確かに会計的側面から見ると加盟店オーナーは経営者としてのリスクは負いながらも会計・財務的な側面はほぼ独立経営者としての自主性をほぼ完全に奪われていると思われます。
2.かなり対照的な加盟店オーナーとコンビニ本部
まず、基本的に店の財務諸表はオーナーではなく本部が作成しています。ある意味記帳などはすべて本部がやってくれるので助かるという側面がありますが、開店初日の商品と本部に払い込んだ預託金の差はオープンアカウント(要するに本部からの貸付金)として金利をとられます。一方毎日の売上分は契約により本部に送金される仕組みになっています。したがって、ある程度期間が経過すれば、もうかっていない店以外はおそらく本部の方が借りているような形になっていますがこれには金利がかかりません。おそらく店自体の光熱費や細かな経費、オーナーや店員の給与などは本部に報告して支払いを行うと想像されますが(本書では記載なし)店側で資金を自由に使うことはできないように思われます。かなり資金使途についてのオーナーの自由度は低そうです。
3.ロスチャージとは何?
基本的にコンビニ本部に加盟店オーナーは粗利の一定割合(チャージ)を支払います。普通は粗利は売上-売上原価で求めます。ちなみに「売上原価」とは売り上げた商品の原価ですが、通常ある程度の廃棄や万引きなどはありますから、会計上売上原価の中にはそのような費用を含めることが通例です。特にコンビニなどは消費期限が厳しく決まっていますから廃棄などは経常的に発生する費用と考えてよく、会計上売上原価に含めることは全く問題はありません。
しかし、コンビニ本部の規定でこういった廃棄や万引きなどの減少分はチャージの計算上原価から除かれます。つまりコンビニ本部側は店側に商品を売ってしまったら販売されようと賞味期限がきて廃棄されようと、万引きされようと利益は一緒です。以前は賞味期限間近な商品についても安売りすることは禁じられていました。これは計算上の粗利が廃棄より悪化するということが言えるでしょう。少し例を上げてみましょう
売価100円原価80円の商品を2つ仕入れたとします。2つとも売れた。1つ売れて1つ廃棄した、1つ売れて1つ80円の安値で売ったとします。会計上の利益(損失)は40円((100-80)x 2=40、-60円(100-80-80=-60)、20円(100-80+80-80=20)ですが、本部から見た粗利は40円、40円、20円です。廃棄した場合の-80円は売上原価に含まれないからです。
4. 非対称はモラルハザードを生む
当然本部が利益を優先させれば欠品を最小限にすることを最優先にします。そして仕入が多すぎて廃棄処分になったとしても本部の利益は一緒ですから合理的な行動としてかなり押し込み販売的な傾向になるのは必然だと思われます。さすがに訴訟が相次ぎ一定の安売りの承諾や廃棄処分に対しての補償が少しなされるようになったとは聞きますが、一般のスーパーのようにお弁当やお惣菜に安売りシールが張られているのはコンビニでは見た記憶がありません。
企業努力で利益を上げるのは素晴らしいことで、小売りの中でダントツに経営成績が良いことをもってコンビニ業界が「儲けすぎ」とは思いません。しかし、計数に弱い人々から一方的に有利な条件で商売をするというモデルには永続性を感じません。そもそもの標語である共存共栄の精神を少し振り返る必要があるのではないかと思われます。