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ワタミの過重労働問題を生み出した本当の原因は何か?

2020.10.14 カテゴリ: 人の育て方企業経営での留意点経営戦略経営理念

目次

1.ワタミの宅食過重労働問題

 ブラック企業からの脱却をめざしていたはずのワタミがまた、過重労働問題を起こしてしまいました。高崎労働基準監督署から9月15日残業代未払いに関する労働基準法37条違反の是正勧告が出されたのです。この対象だったワタミの宅食の所長だったAさんは精神疾患となり、その直前の残業時間は月175時間にも及んだそうです。今野晴貴氏の「ホワイト企業宣伝のワタミで月175時間の残業 残業代未払いで労基署から是正勧告」によれば「2つの事業所を任されたった一人で20人以上の配達員を管理し、自らも配達」だったようです。

 つまり2つの事業所の配達員の管理をたった一人で行い、事業所自体土日も配達するので実質的に土日も働いていました。配達員が休むと代配として所長が運ばねばならないですし、営業、プロモーション、オペレーションも一人でおこなわなくてはなりません。同今野氏の「ワタミがホワイト企業になれなかった理由は? 勝手に勤怠「改ざん」システムも」によれば本社上司のエリアマネジャーは相談に乗ってくれないどころかタイムカードを改ざんして労働時間をごまかしAさんにも改ざんを強要していました

 なぜならばKGF(ゴールとして目指す数値)として月残業時間30時間が設定されていたからです。しかし、この目的は労働者の健康を守るためではなく50時間を超えると会長尾渡辺美樹氏が労基に呼ばれるからだったそうです。ゴールがが「労働者の健康」ではなく、「労基に呼ばれない」という事であればある意味タイムカードの改ざんは合理的な行為です。

 そもそもタイムカードを簡単に上司が改ざんできる仕組み自体公認会計士から見て内部統制が崩壊しており、社内倫理の低さとあいまってワタミ固有の問題という見方もありそうですが本当にそうなのでしょうか?

 

2.マネージメントの役割とKPI

よ く悪者にされるのがKPIに代表される数値管理です。数値で機械的に人間を管理するから問題が起こるといわれます。しかし、これはKPI自体の問題ではなく設定の仕方が問題です。現場感のない上意下達の設定が問題なのです。このケースの場合、ゴールの数値はありますが、そのためのプロセス設計などは現場に丸投げ、ゴールを達成するためのきちんとしたKPIが設定されて
いないことの方が問題です。

 特に日本のサービス産業、例えれば洗濯板を使って洗濯をしているような生産性の低い会社が多いです。しかし、効率化というとこのワタミの宅食のようにいわば大量の洗濯物を投げておいて、「洗濯板を高速で長時間動かしてとにかくさばけ!」いうだけのようなマネージメントが多いです。ワタミのケースの場合労働時間を改ざんして「高速で動いているように見せかけていた」ためなおさら質が悪いといえます。

 たとえシステム開発をしたとしてもIT・会計コンサルタントの原幹氏いわく「高速洗濯板」を作ってしまいます。本当にマネージメントの仕事は洗濯ものを適切な量にする(仕事量・内容の見直し)、または全自動洗濯機を導入(プロセスで自動化できる部分は自動化)する意思決定をする事だと思います

 例えばワタミのケースの場合は 短期:シフトを組んで土日は他の所長(または本社要員)がサポートする。中長期:AIなどで合理的配達経路策定、地図をスマホでみれる、自動で配達員シフト作成などが考えらるでしょう。少し私の見た例も挙げてみましょう    

3.米系企業によるある上場企業の買収で見たこと

 これはある米国企業が日本の上場企業を買収した際、私がPMI(買収後統合)のコンサルタントとして関与した際の例です。この会社の財務報告は東京証券取引所⇒米国企業のアジアパシフィック本部(エイパック本部)に変更となりました。私はこの企業のエイパック本部から依頼を受けていました。その際、エイパック本部からは今まで15営業日かかっていた決算を10営業日にするように日本側に求めていましたのですが、日本の財務部門のトップは快諾していると聞いてきました。

 ただ、私は今までの経験から日本企業の一般的な体質から考え危険だと思い少し調べてみました。日本企業だとこのような場合「ただ単に頑張ってしまう」恐れがあるからです。やはり予想通り15日のスケジュールを10日間に組み直していただけでした。後は現場任せでおそらく休日出勤と長時間労働で乗り切るつもりだったのでしょう。良くも悪くも日本の上場企業レベルのサラリーマンある意味(中途半端に)能力も気力も高いですから、この例でいえば高速で夜中・土日まで洗濯板回して片づけてしまうのです。

 当然、上場会社と子会社では用意するデータの精度と量が明らかに違いますから、私はエイパック本部と日本の間に入って徹底的に不要な報告・作業を洗い出し、「洗濯物の量」減らしました。エイパック本部の要求の中でも重要性の低いデータはしばらく作成猶予という事も交渉して、プロセス変更もしました。その結果として慣れない作業だったので長時間にはある程度なりましたが休日出勤はほぼ無しで決算もほぼ予定通りのスケジュールで終わりました。その後プロセスも安定したのでグローバルシステムを導入して今は安定して稼働しているようです。

 この例でもいえるように10日という数値目標が悪なわけではないと思います。

4.数値管理(KPI)は悪か

 KPI自体はは基本的に現場から吸い上げて作成すべきと思います。KPIとは現場プロセスの中でゴールの達成に影響を与える要因を見つけ出してそれを計画的にコントロールすることです。しかし、一方でもしこのKPI で達成可能なゴール数値がマネージメントの数値と乖離があるならば当然現場に再考を求めることは問題ないです。しかし、一方的に現場を叱責するのではなく、一方マネージメントとして現実的かどうか再考し、戦略的一手を打つ事が大切だと思います。

 ワタミのケースは成果主義の企業だと思いますが、実際には単純な結果主義でしょう。結果が出ないとつるし上げて叱咤されるだけです。現場がみな、渡邊美樹さんだったら自分自身でプロセスを考え改善できるかもしれませんが、普通の人はできません。本当はエリアマネジャーなど本社部門はそういった部分をサポートする人であり、数字だけ与えて管理・叱責(加えてこの場合はごまかし)するだけの仕事ではないはずです。  

 別にワタミだけではなく、極端なトップダウンで伝達と管理だけしかしない中間管理職が現場に丸投げする体質の企業は似たような問題起こしていると思います。結局数値管理が問題なのではなくマネージメントが問題なのです。

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