日産ゴーン事件で監査法人が提言すべきだったたった一つのこと
2018.12.17 カテゴリ: 企業経営での留意点、会計・税務、会計監査、経営戦略。
目次
1.ゴーン事件で監査法人は責任があったか?
日産ゴーン氏の今回の不正問題で監査法人には責任はなかったということで、いろいろな記事を見る限りまとまっているようです。有価証券報告書の虚偽記載が今回問題となっていますが、主要財務指標である財務三表やその注記などの補足資料に虚偽記載があったわけではありません。加えて売上11兆、経常利益7500億円の企業の数十億円の不正の話ですから自分の常識的にも見つけられなくておかしくないと思われます。この規模になると取引の内容にもよりますが10億円以下の取引は監査人にとっては少額でほぼ見ません。加えて監査を担当していた新日本監査法人はオランダの子会社(ゴーン氏に別荘などを提供していた)については会社側に問題提起をしていたようですからきちんと仕事はしていたと思われます。
しかし、一般人的には監査しているのだから何かしら不正の端緒ぐらいは発見できないのかと期待するでしょう。そのあたりの期待ギャップは公認会計士としては頭の痛いところです。ただし、私としては会計監査が世の中のインフラとして機能するためにも提言してほしかった(もしかすると提言したのに無視されたかもしれませんが)一つのことがあります。
2.内部統制監査
公認会計士の監査において実は有価証券報告書などの財務書類の他に内部統制報告書の監査も行っています。上場企業は内部統制の有効性を評価した報告書を作成しますがそれにお墨付きを与えるのが内部統制報告書の監査です。内部統制の監査というと監査法人が一番時間をかけるのは業務プロセスのテストのところで、業務プロセスがきちんと運用されているかのサンプルテストを行います。
ところが、実は内部統制において一番重要なのは実は統制環境です。これは何かとざっくりいうと企業風土といったものになります。日産の場合、取締役の報酬の決定についてはゴーン氏に一任となっているように極めてゴーン氏にすべての権限が集中しており内部統制的に不正などが生じる風土はすでにあったわけです。確かに監査法人として一番気にかかるのはそれに伴う粉飾決算などの会計不正であり、報酬のお手盛りなどは本来の業務の対象ではありません。ただ、業績を糊塗するために粉飾決算などを行う土壌はあったと思われます。そういった意味で、統制環境の見地からこのあたりのゴーン氏の権限の問題提起を行ってほしかったと思うわけです。
3.会計監査と投資家の期待
公認会計士から見ると一般の方々の監査人は不正を見抜けなかったのかという期待は過重であるように思われます。しかし、不正自体は見つけられなくても不正を起こすような土壌・風土については抽象的な話ではありますがつかむことはできるはずです。残念ながら現状の法定監査は業務プロセスのサンプルテストなどどちらかというと枝葉の部分に重点が当てられ、「木を見て森を見ない」傾向があります。日産だけでなく、実質オーナ―会社のような上場企業は結構存在しており、統制環境に問題のある上場企業は数少ないとは言えないと思います。さすが統制環境の問題点だけで内部統制報告書に限定意見などは出せないとは思いますが何かしら統制環境について物申す姿勢が監査法人に少しでもあると今後の人々の公認会計士を見る目も変わってくると思うのですがいかがでしょうか?