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予算なんていらない!

2019.04.22 カテゴリ: 企業経営での留意点会計・税務管理会計経営戦略

1.予算プロセス

 ある程度の規模の企業になると予算実績分析をかなり詳細に行います。お客様の要望としてしばしばあるのが予算を作って予算実績分析ができる体制・仕組みを創ってほしいということです。主なポイントは予算を各部門等(部門と子会社)の責任者が責任をもって作成すること、その会社で数字を合算して全社的ターゲット(売上、利益その他KPI)に達しているか、予算が承認されたら詳細な予算実績分析が作成できるかだと思います。

 ある程度大きな会社になると大抵本社的には高いターゲット(高い売上、低いコスト)で各部門等は怒られない程度に低いターゲット(低めの売上、高めのポケット)で大抵第一回目で各部門等の合計はまず全社のターゲットに達することはありません。そして、そこから部門等と本社との折衝が始まり、結構様々なプレゼンテーションや会議が開催され、かなりの時間とエネルギーを割きます。しかし、最悪のパターンとしては全社一率売上XX%アップやコストXX%カットなどという正直者は損を見るような要請が本社からきたりするので、結局みなお互いの顔色を見合うような政治的ゲームを永遠に続けることになるわけです。

2.予算は役に立つか

 これほど時間をかけて作った予算ですが「時間をかけた」ということは情報が古くなってしまいます。例えば12月決算の会社でしたら大抵夏位が作成のピークでこのあたりの情報に従って作成されています。ということはもう新年度が始まったころにはすでに半年前の情報であり、ビジネスによっては全然情勢が変わっていることがあります。

 そこで出てくるのが予算実績分析です。これについて私が依頼を受ける際多いのが詳細に説明ができるような体制・仕組みを創ってほしいとのことです。例えば売上についてもし変動があれば顧客ごとや商品・サービスごとに詳細な説明を本社部門は求めるわけです。確かにもし売上が不振であればそれがどの商品サービスによるものなのか。どの顧客で問題が生じているのかの原因を調査して対処することは重要です。

 しかし、残念ながらそもそもその比較対象である予算が古い情報なのですから、必ずしもそれとの比較が正しい対処とは限りません。例えば、予算で想定していない事項、例えば主要顧客の倒産、競合の新製品を発売した・・・などがあると古い情報である予算との比較は1回やれば十分です。結構予算実績分析は想定外のことが起きた際、なぜ予測できなかったのか(仕方がなかったのか)の正当化・言い訳に非常に時間と労力がかかっています。むしろ新しい状況にどう対処するかが本来はもっと大切です。

 予算実績分析について、大きな会社になればやたらと詳細なとても読み切れないほどの立派な詳細なものを作成することが目的になってしまい、往々にして偉い方々も分厚い資料を見るとよい仕事をしていると錯覚しがちです。自分もそのあたりの問題点はお客様に申し上げるのですが。「確かにそうですね・・・検討します・・」という感じで実際に検討されることはありません。

3.ローリング予算

 特にIT企業などでは1年後の予測数値などというものはあまり意味をなさないと考える企業は多くなりつつあります。そこで出てくるのがローリング予算です。 一応1年後くらいまでは作成するのですが、毎月(または毎週)最新の情報で予算をアップデートしていく方式です。この方式の良いところは常に最新の情報でターゲットが設定されなおされますから、過去の情報で作られた古い予算との数字の乖離の言い訳やむなしい説明をしなくても済みます。かつターゲットも設定されなおしますから現場の方々の納得感もあるでしょう。素早く新しい状況に対処したい動きの速い産業にいる企業にとってはローリング予算ではないと対処できません。私が見た限りで欧米系の大企業だとほぼ7~8割はこのローリング予算ですが、日本企業でローリング予算を入れている会社には(たまたまかもしれませんが)私は出会ったことがありません。

 このローリング予算の欠点はやはり毎月行うとするとかなりの労力と時間が必要なことでしょう。部門等も職人芸的に本社部門から問題視されないようにこの予算を微調整していくなど、純粋にビジネスの成長とは関係のない政治的な駆け引きがこれによって大幅に減るものではありません。

4.そもそも予算は必要か

 人間何かしら目標を立てないと行動しないものですから、数値目標としての予算は必要です。加えて財務としてある程度の予測数値がないと資金繰りなどもできず資金がショートする恐れがありますから会社が生きていくためには必要です。それでは予算の何が問題なのでしょうか?

 それは、予算を業績評価の指標として信賞必罰のツールとしているからでしょう。それをもとに測定・評価されるので当然評価される側としてはできるだけ達成可能な低めな予算を出します。加えて予算は前年度の結果をもとに策定されることが多いですから、もしある年、予想以上にうまくいったらむしろ業績を押さえるインセンティブが働きます。あまり良い業績を上げると翌年のターゲットがあがり苦しいことになるからです。  このように予算を業績評価の指標として使用すると政治的思考でどんどん本来企業が求めている方向とは違った方向に物事が流れていきがちです。予算自体は必要だとは思うのですがそもそも数値目標をたてさせて、アメとムチで会社を動かすような「達成型」の仕組みは限界が来ているような気がします。私が以前勤務していて尊敬している企業であるGEはこの達成型のほぼ完成形でしたが今は衰退して見る影もなくなりました。

 いわゆるそこから大きく変化した「進化型(ティール型)」の組織がここ数年話題になっています。このあたり自分としても研究していきたい分野ではあります。

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