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ノーベル賞受賞本庶教授は本当に強欲な小野薬品工業に騙されたのか?

2019.04.15 カテゴリ: 企業の業績分析企業経営での留意点経営戦略

1.本庶教授の記者会見での主張

 先日ノーベル賞受賞者の本庶京都大学特別教授(以下「本庶教授」)が記者会見をして、がん免疫治療薬「オプジーボ」関連の特許をめぐり小野薬品工業に対したいかの引き上げを求めています。小野薬品工業からは、すでに26億円が本庶教授に支払われていますが、本庶教授は受領していません。主張としては免疫のブレーキとなるたんぱく質「PD―1」関連の特許について2006年に契約を交わしたものの、契約時の小野薬の説明が不十分だったとして、がん治療に応用できるという価値の高い用途特許としての再評価を求めているものです。本庶教授は日本の研究の地盤沈下に心を痛めていらっしゃり、自分のためではなく、若手研究者支援のための基金の原資にしたいと考えていらっしゃるようです。一般的な特許のライセンス料の相場は3~5%に対して、今回の「PD-1」特許のライセンス料は1%以下であり、構図としては強欲な小野薬品工業が不当に利益をむさぼっている主張となっています。

2.小野薬品はオプチーボで儲けているか

 小野薬品工業の業績は急拡大しています。オプジーボの発売開始が2014年9月当時の適用は悪性黒色腫(皮膚がんの一種)でしたが2015年12月に非小胞肺がんに適用が広がったのを機に売上が急増しました。ちなみに薬は使用できる症状が決まっていて、承認なしに勝手に、例えば肺がんの薬を胃がんの治療には使えません。2015年3月期からの売上推移をみると1357億、2016/3 1602億、2017/3 2447億、 2018/3 2618億で2018年には2015年3月期の2倍の売上になっています。営業利益を見ても2015/3 147億 2016/3 305億 2017/3 722億 2018/3 606億と営業利益は5倍近くなっており、小野薬品工業は非常にオプジーボで利益を上げていることは明白と思われます。この営業利益の急増ぶりから見ると本庶教授に対する累積26億円というのはいかにも少なく見えます。

 ただし、キャッシュフローを見てみると少し違った見方となります。2018年3月の営業活動キャッシュフローは税金の支払い等で157億とかなり少なくなり、かつ投資活動キャッシュフローは341億円のマイナスで実はフリ―キャッシュフローはマイナスです。要するに儲けた分よりも将来のための投資にお金を使っているということです。

 小野薬品は営利企業ですからオプジーボで上昇した業績をキープまたはその上を目指していかなければなりません。おそらくこの投資はその次を目指して手を打っているのだと想像されます。

3.小野薬品は利益をむさぼっているか?

 私は法律の専門家ではなく、ビジネスパーソンの視点でこの事象を捉えています。当然本庶教授と2006年の契約の際に小野薬品工業はかなりのリスクをとっているはずです。当時私の記憶だと「免疫療法」というのはかなり胡散臭いものとしてとらえられていました。人間の体には免疫があって本来癌のような人間の体に害をなすようなものは排除できるはずです。したがって、人間本来の免疫力をがんにに対抗できるようにする手法で解決しようというのが基本的な考えだと(医学の専門家ではないので私の理解であることは注意ください)思っています。しかし、がんにかかって死に瀕している方に対して、効果が定かでない「免疫療法」と称する自由診療を行う医療機関等が社会問題となっていたころでした。したがって、この開発も武田やアステラスといった大手ではなく小野薬品工業といった中堅製薬会社で行われたのだと思われます。いわゆる大手では手を出さないニッチで不確実な分野にリスクをとっているわけです。

 加えて、薬の開発に係る費用は膨大です。いままでオプジーボに投下された研究開発費は過去にすでに費用とされていて現状の利益には、ほとんど反映されていません。薬の利益構造を見る場合、単年度ではなく開発当初からの損益構造で見ていかないと、現状利益が出ているからと言って儲けすぎというのは極めて表面的な見方と言えるでしょう。加えて、開発当初は非常に批判が多い免疫療法ですから、臨床試験なども協力してくれる医療機関が少なかったと聞いており、おそらく費用も掛かり小野薬品工業の開発に携わった方々も苦労されたと想像されます。

4.私見

 まとめるとリスクをとったのですから小野薬品工業は利益という果実を得る権利十分あると思います。また私は法務の専門家ではないですが、いったん契約したものを後になって変えてくれというのは常識的にあり得ません。また、本庶教授の契約時の説明が不十分だという主張も、町の発明家とか学生などの本当の素人がこのような主張していればある程度うなづけますが今日京都大学という立派な組織がバックにあるわけですから、企業側としては納得できないでしょう。小野薬品工業は上場会社ですから株主に対してもきっちり説明できるような支出ではないと下手をすると経営陣は株主代表訴訟のリスクにさらされます。

 したがって、悪く言うと「世間知らずの学者の主張」と言わざるを得ません。しかし、一方で本庶教授は純粋に日本の科学の発展のために使いたいという純粋な心で主張されている気はします。あえて、今回少しドン・キホーテ的な役割となっても何とかしたいという純粋な気持ちがその裏にはあるのかもしれません。小野薬品側もイメージとしては悪者になってしまいレピュテーションリスクが生じているといえます。

そういった意味である程度最終的には両者歩み寄り、小野薬品工業側としても大義名分として、ある程度はお金が出せるような仕組みができればと願っている次第です。

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