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オムロンROIC経営の死角と業績急降下

2024.04.10 カテゴリ: 企業の業績分析企業経営での留意点

目次

1.オムロンの不調

 経営管理の世界では名高いオムロンの経営成績が今年絶不調です。2022年度まではほぼ順調に推移し、売上8760億円、営業利益は1000億を超え、高い営業利益率を誇っていました。ROE10.6%、ROIC10.4%と資本効率性も高く、代表的な優良企業だったいえるでしょう。

 しかし、2023年度大きく失速、3Qまでの累計実績では売上が前年度比4.7%減、営業利益は63.5%減と大幅な経営不振となりました。通期見通しも前年度比80%程度の減少、ROEやROICも1%台に転落の予想です。

  決算発表としては約全社の半分程度の売上、営業利益を占めていたFA(ファクトリーオートメーション)の制御機器部門の不振が要因です。しかし、同業のキーエンスは第3四半期で純利益前期比2.6%減、SMCは着地見込みの営業利益が22.2%減と発表、他社も好調とは言えませんがオムロンは突出しています。

 オムロンは中国向け、かつ半導体、EV関連の大企業に集中していました。そもそも変動の大きい業界需要減の波を一気に受けたわけです。売上減に拍車をかけたのが在庫管理の失敗、一時期の2倍程度まで在庫が滞留、売上げ予想の手法がどちらかというと過去の経験値に基づくものであったのが敗因のようです。

 これに対する対策はどうなのでしょうか?

 

2.構造改革

 オムロンは2月26日に構造改革プログラム「NEXT 2025」を発表しました。主として制御機器事業の構造改革です。その他、全社的構造改革としては製品、事業ポートフォリオの見直し、固定費の削減、人財をあげていました。

 固定費の削減として1000人程度の希望退職を募るというのが少し話題になりました。ただし、私の目を引いたのは以下のフレーズです。「財務観点に加えて、顧客観点での事業統制とマネジメントの思考・行動を変革させる人事施策の導入・運用の徹底を目指します」です。なぜならばオムロンは財務観点であるROIC経営で成功した企業として著名だったからで、その転換があるのかと感じたからです。

 ROIC経営の結果なのか、各事業で一定の地域、分野に偏りがあり、製品・事業ポートフォリオの見直しが必要となりました。

 例えば制御機器は中国向けが50%、健康 血圧計が80%、SSBはエネルギー関係77%、DMBは日本が50%のような偏在です。制御機器において中国依存から米国・欧州における事業の強化、半導体、電気自動車関係に偏っていた先も食品・医療・物流などに広げていくとともに、i beltなどの製造現場のDX化サービスも組み合わせたビジネスにしていくことで大きな転換を目指しているようです。

3.ROIC経営に限界はあったのか?

 オムロンといえばROIC経営で名高いです。ROICとは投下資本利益率、債権者や株主から調達したお金をどれだけ効率的に運用しているかを測定する指標といえるでしょう。くわえてオムロンはこのROICを要素に分解して各部門の経営指標として用いる逆ROICツリー経営をしていると有名で、きめ細かい数値管理で成功した企業とされていました。単に事業別のROIC目標を設定しているだけではなく、それをKPIの形に落として現場レベルで使える指標としています。

 ROICは投下資本利益率ですので、逆ROICとして、それを投下資本回転率(売上÷投下資本)と売上利益率(利益÷売上)に分解し、それを設備回転率と運転資本回転率に分解しています。公開資料を見ると設備回転率では需要の上下に合わせてきめ細かな設備投資を行うことにより不稼働設備を減らして効率を高めるような活動につながっているようです。

 一方、一般的なROIC経営の欠点としては、ROICをたかめる経営を教条的にやっていると現状低いROICである成長分野での投資は行わず、現状利益が上がっている成熟分野での投資が優先されてしまう点があります。

 これを補うために、事業ポートフォリオマネージメントを行っており、たとえROICが低めでも高成長の分野については成長期待領域として資本投下は行われる仕組みになっています

 それでは、なぜ今回の不振につながったかという疑問が浮かびます。あくまで仮説ですが、ROICで用いる数字は過去の数字だったと思います。今回の制御機器の分野、おそらくROICも成長率も過去の数字では高い、事業ポートフォリオでは投資推進領域だったと思われます。そして、在庫回転率といった指標なども実際に悪化した数字をとらえるまでにタイムラグがあったのではないかと想像されます

 要するにどんなに素晴らしい仕組みを作ってもどれだけ素早く判断して動くか、このあたりに問題があったのではと想像します。会社の見解としても売上予測の手法が過去のトレンドによるものであったと発表されていたので、この当たりが素早く行動できなかった大きな要因だと思われます。これだけ素晴らしい仕組みを作っても、うまくいかない、どこか経営はアートといわれる部分があるなと感じる一つの例だと思います。

 

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